OSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW 003|OSIROは人のコミュニケーション能力を拡張させる
OSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEWオシロ株式会社(以下、オシロ) 代表取締役社長 杉山博一による、オーナースペシャルインタビュー。第3回のゲストは、株式会社コルク(以下、コルク)代表取締役社長CEOであり、現在オシロの取締役を務める佐渡島庸平さんです。佐渡島さんは2017年からコミュニティを学ぶコミュニティ「コルクラボ」を運営。2018年には「WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 〜現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ〜」 (NewsPicks Book、幻冬舎)を出版し、コミュニティは現代における「孤独」の「処方箋」と提唱しています。コルクラボの立ち上げから6年、メンバーと共にコミュニティの存在意義を追求し続けてきた佐渡島さんは今、コミュニティのあり方をどのように捉えているのか、杉山が迫りました。
コルクラボ2017年に佐渡島さんを主宰としてスタートしたコミュニティ。「コミュニティファースト」を掲げ、SNS・WEBサービスを使ったコミュニティプロデュースなど、コミュニティを運営するために必要な知識、技術を学ぶ。コルクラボは定例会の企画・運営から新規メンバー募集活動まで、運営のすべてはメンバーによって行われている。心理的安全性の確保、熱狂の起こし方、拡大のための施策やデータによるモニタリングなど、コルクラボ自体をコミュニティの研究対象と捉えて、運営している。https://lab.corkagency.com/
OSIROの構想は、まさにコルクでやりたいことだった
DSC09283 (改).jpeg 925.62 KB(写真左)コルク 代表取締役社長CEO 「コルクラボ」主宰 佐渡島庸平さん(写真右)オシロ 代表取締役社長 杉山博一
杉山博一(以下、杉山):僕と佐渡島さんの出会いは、まだオシロを起業する前。僕がデザイナーとして、佐渡島さんは講談社で若手の編集者として活躍しているときでしたね。佐渡島庸平(以下、佐渡島):最初のきっかけは、いまnoteでCEOをやっている加藤(貞顕)さんの紹介でした。当時、杉山さんはかなりイケてるデザイナーで、すごくおしゃれなオフィスを構えていました。加藤さんから「イケてるデザイナーがイケてるバーベキューするからおいでよ!」って誘われて、その頃は僕もいろんなデザイナーと知り合いたかったから、二つ返事で行って知り合ったのが最初でした。杉山:それからしばらく交流が続いていましたが、今のOSIROにつながるサービスの開発を始める直前は、僕がニュージーランドを行き来していて、1年の半分は現地に移住している四角(※1)と過ごしていました。その頃は佐渡島さんもコルクを設立していて、なかなか会う機会が少なくなっていた。佐渡島さんと再会したのはβ版のリリースを済ませた後で、地下鉄で偶然会ったのがきっかけでしたね。※1 四角大輔、オシロの共同創業者佐渡島:よく覚えていますよ。そのときは杉山さんの状況をすべて把握していない時期だったので、本当に驚きました。四角さんと仲がいいのは知っていて、ニュージーランドへの移住を考えていることもぼんやり知っていたんです。それで、普段使わない地下鉄に乗ろうとしたら杉山さんがいて、いきなり「移住せずに起業する」と。「つながりがよくわからないな......」って思いました(笑)。杉山:本当に偶然(笑)。でも、その後改めて僕の構想をプレゼンする時間をもらい、出資と経営参画をすぐに決めてくれました。あの頃はようやくβ版を出せたばかりで、まだ収益性もない時期でしたので、共同の事業としてコミットしてくれたことはとても心強かったです。佐渡島:僕としては当時からコミュニティをつくりたいと考えていました。杉山さんから話してもらったOSIROの構想は、まさにコルクでやりたいと思っていたことだったので、話していることの100%が賛成でした。今となってはコミュニティを重要視する人は多いですが、当時はその必要性を唱える人は業界でもほとんどいなかったし、世間的にも全然話題に上がっていないものでした。ただ、僕は自分たちでゼロからつくって、試行錯誤していくことに楽しみを感じます。「杉山さんがそういうサービスをつくるというなら、じゃあ一緒にやりましょう」と思って参画することにしました。杉山:一時期オシロはコルクのオフィスに間借りさせてもらっていて、そのときに佐渡島さんから改善点をビシバシ指摘してもらっていました......(笑)。佐渡島:その頃の僕のコミュニケーションは、講談社時代の大物漫画家にも負けないように一生懸命話さなきゃいけないというスタイルを引きずっていて(笑)。正直、杉山さんはデザイナーがバックグラウンドなので、最初はサービスがちゃんとつくれるか心配してたというのもあります。ただ、僕だってはじめは素人で、必死にがんばってる中で編集者としての立場をつくれたと思っています。そして、OSIROは当初から今もニック(※2)という信頼できるエンジニアが開発を担っている。杉山さんがデザイナーだとしても経営者になれるだろうし、ニックが当時エンジニアとしてまだ若手の時期でも、やがてOSIROの開発をリードするエンジニアになれる。そう感じたからこそ、改善点は率直に話すべきだと思ったんです。※2 現テックリード:西尾拓也
コルクラボのすべてがメンバーで自治されるコミュニティにしたい
DSC09275.jpeg 713.21 KB杉山:佐渡島さんはコミュニティ運営を学ぶことを目的として、2017年に「OSIRO」でコルクラボを立ち上げました。現代のコミュニティのあり方には、どのような変化があるのでしょう?佐渡島:コミュニティは昔からあったもので、人間はその中でしか生きていない。絶対必要で、価値は普遍的なものですが、現代ではコミュニティ形成のあり方が変わってきていると考えています。例えば地域や学校、会社といったリアルを起点とした既存のコミュニティは、つくりたいと思ってもすぐにつくれるものではないです。しかし、現代ではオンライン上で誰もがコミュニティをすぐにつくれてしまう。その一方で、コミュニティをゼロから組成するときに何をすべきなのか、コミュニティをどのように発達させていくのかは、わからないことが多いのが現状だと思います。杉山:コルクラボを設立してから6年が過ぎ、当初は佐渡島さんの求心力から人が集まっているイメージでしたが、今はコルクラボでコミュニティについて学びたいと思って入ってくる人も多いようですね。佐渡島:そうですね。メンバーの中には他でコミュニティマネージャーをしている人もいます。運営自体も僕が主体だったのは最初の半年ほどで、そこからはメンバーが自発的に運営しています。コルクラボは僕が始めたコミュニティですが、僕自身が主役ではない。今では運営のほぼすべてをメンバーに任せていて、コミュニティとしての自治性はかなり高いです。杉山:コルクラボはメンバーが非常に能動的です。コルクラボでは「さらけ出す」ことを非常に重視されていますが、そこにはどのような意図があるのでしょうか?佐渡島:コルクラボでは自分の本音を話し合える、サードプレースのような場をつくっています。そのためには家族や職場のコミュニティとは異なり利害関係がなく、自分が否定されることもない安心感を共有することが重要です。コルクラボは「あなたが好きなあなたになる」という理念と4つの行動指針(以下)を定めています。これらが自分たちのコミュニティをつくる上での羅針盤となります。
1.自分の安全安心を知る2.自分の言葉を紡ぐ3.好きなことにのめりこむ4.人の頼り方を知る
ただし、安全安心な場をつくるためには自己開示をし、相手のことを理解しなければなりません。コルクラボではアクティビティやOSIROのコミュニティ内での機能を活用することで、自分でも気づかないほど自然に自己開示できる仕組みをつくっています。DSC09246.jpeg 1.14 MB杉山:理念や行動指針によってコミュニティのあり方を示し、アクティビティや機能の活用によってなめらかに自己開示する仕組みづくりは、僕も参考にしています。メンバーが主体的にアクションを起こすための秘訣はありますか?佐渡島:コルクラボでは、普段自分が違う役割をやってみることや、慣れていないことに挑戦することを「聖なる一歩」と呼んで奨励しています。例えばイベントや会議で司会をやってみることも、慣れない人にとっては大変で結構怖いことだと思うんです。しかし、全員が「聖なる一歩」に踏み出しそれを称え合えば、自分をもっと好きになれてみんなが居心地のいい場所になります。杉山:コルクラボはオシロとしても非常に学びの多いコミュニティです。佐渡島さんは今後コルクラボをどのようなコミュニティにしていきたいと考えていますか?佐渡島:現状、メンバーにはコルクラボの運営をまかせていますが、今後は収益もメンバーに戻して、すべての自治をまかせていきたいと考えています。ただ、金銭面も含めて本当の自治をおこなっていくことの難しさや、現状のメンバーからもお金の責任を持ちたいと思う人はそれほど多くないことも自覚しているので、将来的にはという話です。もしそれができれば、コミュニティとしてもまた新しい局面を迎えるのではと考えています。杉山:自分たちで持ち寄ったお金を使って、自分たちのコミュニティをつくりあげていく。コミュニティとして完全な自治を獲得するということですね。一方で、金銭も絡めた自治となると、コミュニティの政治性が強まる可能性もあります。佐渡島:可能性としてはあります。ただ、コルクラボは「コミュニティ運営を学ぶコミュニティ」なので、そういった実験的なことにも挑戦していきたい。現在、運営をまかせている中でもトライ&エラーは発生しています。挑戦して悪いことであっても、それはコミュニティを学ぶ糧になる。あまり綺麗事だけをやるのではなくて、挑戦していくことで得られる学びを大切にしたいですね。
OSIROの課題とテクノロジー活用のあり方
DSC09264.jpeg 955.09 KB杉山:OSIROではコルクラボのようにメンバーが運営にも参加しているところも多いですが、コミュニティオーナーが引っ張っているところもあり、場合によって苦労されている方もいます。今後OSIROがオーナーにとってよりよいコミュニティプラットフォームになるためには、なにが必要だと思いますか?佐渡島:コミュニティオーナーの立ち位置は難しいですよね。僕もコルクラボを立ち上げる前までは「楽しむ人もいれば、楽しまない人もいる。楽しむ人と出会えればいい」というマインドでした。OSIROの場合はファンでいてくれて、しかも熱心なファンが多く入ってくるコミュニティなので、どうしても「楽しませないといけない」という気持ちがすごく強くなってしまいますね。でも、やはりコミュニティは全員が主役であり、コミュニティオーナーもその場を楽しめるものでなければモチベーションが長続きしません。そういったところを大変にならずに運営できる仕組みやツールがあればと感じています。杉山:今年、オシロは資金調達を実施して、コミュニティマネージャーAI化をはじめテクノロジーを使ってコミュニティ運営をより活性化でき、オーナーの負担を減らすようなシステムの開発を強化しています。コミュニティオーナーとしては、どのような機能があってほしいと思いますか?佐渡島:「感情の流れがどうやったら滑らかになるのか」を考えることがストーリーであるように、開発するツールにもコミュニティの中にいる人の振る舞いや、感情の流れをなめらかにするサポートをしてくれる機能がほしいですね。例えば、OSIROのサービスはクローズドなオンラインコミュニティで、そこが良さでもありますが、見方を変えると知るきっかけが少ない。興味を持ってくれた方にもオーナーが積極的に説明しなければ、コミュニティの中が見えなすぎて怖い気持ちを持たれてしまうこともあります。加えて、コミュニティの中に人が入ったら入ったで、その中での振る舞い方を教えるのも、すごく難しいです。そういった流れをツールを使っていかに楽にしていくのかが、今のOSIROの課題でもあると感じます。杉山:たしかに、集客のサポートは課題に思っているところです。集客のための情報発信も、外部にただ記事を公開できるだけではなくて、そのコミュニティのよさがにじみ出るような発信のあり方が望ましいです。OSIROではちょうど今、新しく「オウンドSNS」という切り口から機能改修をしています。これができることによって、もっと集客の手助けにもなるだろうし、コミュニティ運営の苦労を軽減する突破口になるという手応えを感じています。佐渡島:例えば、家電が出てきたことによって家事が楽になったように、これからはツールによってコミュニケーションやコミュニティの維持が楽になっていくんだと思います。特にクローズドなコミュニティだと最初の一歩を踏み出すことが難しい。そのハードルをプラットフォーム側がいかに下げていくのかも重要になりますね。杉山:佐渡島さん以外のオーナーからも、やっぱりコミュニケーションの質を向上させたいという声は多い。オシロとしても、実際の現場を見ながらサポート・アシストできる機能の開発・改善は迅速におこなっていきたいと考えています。ただ、人と人とのコミュニケーションが広がりをもっていく、あるいはなめらかにコミュニケーションを取るために必要なものは何か、という問いは想像以上に難しい。これは決してテクノロジーだけで解決できる問題ではなく、まだ真相にたどり着けていないですが、オシロとして必ず解決までやり遂げたいと思っています。OSIROというプロダクトが成長するごとに、課題が見つかるごとに、熱量が上がってくるのを感じますね。佐渡島:これからは「オンライン-リアル-オンライン」というコミュニケーションのサイクルが主流になっていくんじゃないかと思います。つまりオンラインで知り合って、仲良くなったらリアルで会って、そうするとまたオンラインでのコミュニケーション量が増えていくことを繰り返していくスタイルです。コミュニケーションを交換するオンラインコミュニティの中では、ポイントだったりスタンプといった非言語コミュニケーションが増えていて、物販みたいなモノの交換や売り買いもできるようになった。つまり、かつて道具によって人間の身体能力が拡張されていったように、オンラインツールが人間のコミュニケーション能力を拡張する時代になっている。OSIROが開発しているツールやAIは、まさに人のコミュニケーション能力を拡張させる新しい一歩になっていくんじゃないかと考えています。
杉山博一|Hirokazu Sugiyama1973年生まれ。元アーティスト&デザイナー、2006年日本初の金融サービスを共同起業。2014年シェアリングエコノミープラットフォームサービス「I HAV.」をリリース、外資系IT企業日本法人代表を経て、2015年アーティスト支援のためのオウンドプラットフォームシステム「OSIRO」を着想し開発、同年12月β版リリース。
佐渡島庸平|Youhei Sadoshima1979年生まれ。東京大学文学部卒。講談社を経て、作家エージェント会社コルク設立。作家の価値を最大化するためにファンコミュニティの可能性を感じ、コルクからオシロに出資し、資本業務提携を締結。オフィスや人的リソースも投下し共同開発。著書に、「ぼくらの仮説が世界をつくる」、「WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.」などがある。
text by 川島大雅