2025年6月3日、
本の要約サービス「flier」 を展開する株式会社フライヤーをゲストにお迎えしたウェビナー『顧客中心で事業成長を支えるオンラインコミュニティの力〜本の要約サービス「flier」が“愛されるプロダクト”へと成長した理由〜』を開催しました。
同社では「本からの気づきや、コミュニティメンバーとの交流、著者との実践講座を通して、学びを育てる場所」として
オンラインコミュニティ「flier book labo」 を運営しています。2025年2月20日に東証グロース市場に上場し、今まさに大きな成長へと向かうフライヤーはコミュニティ運営をどのように捉え、そこで得た気づきをどのように事業へと活かしてきたのでしょうか?
今回は、flier book laboの運営を統括する、フライヤー執行役員CCOの久保彩さんが登壇した第一部で語られた、flier book laboの立ち上げ経緯や現在企業がオンラインコミュニティを運営する価値について紹介します。
(聞き手:オシロ株式会社 CMO 牟田口武志)
flier book labo flier book laboは、本からの気づきや、コミュニティメンバーとの交流、著者との実践講座を通して、学びを育てるオンラインコミュニティ。オンライン9割、リアル1割。いつでもどこでも気軽に参加できるようオンラインでの活動をベースとし、リアルで集まる交流会も開催される。読書会をはじめ、メンバー同士や著者と交流できるさまざまなアクティビティが用意されており、毎月新規メンバーを受け入れるオンボーディングミーティングを開催しているため、コミュニティに慣れるまでのサポートも充実している。flier book labo コミュニティサイト 【フライヤー 無料イベントのご案内】 フライヤーでは、本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」やflier book laboの活動を体験できる無料イベントを開催しています。ゲストを招いたランチセミナーや読書会体験など、充実のラインアップとなっています。ぜひお気軽に参加ください。 📅8月のセミナー予定 【無料セミナー】ビジネスリーダーの関心を集める「仏教思考」 「欲と執着」をどう捉え、どう手放すか(ゲスト:松波龍源氏) 開催日時:8月12日(火)12:00〜12:55(zoom開催)詳細・お申し込みはこちら 【参加無料】ゆる読書会 〜フレームに沿って本の感想をシェアしてみよう〜 開催日時:8月18日(月)19:30~21:00(zoom開催)詳細・お申し込みはこちら 【スリール×フライヤー】越境学習と「アンラーニング」で実現する、自律型リーダー育成戦略 開催日時:8月19日(火)16:00〜17:00詳細・お申し込みはこちら
PoC(実証実験)からオンラインコミュニティ移行へのプロセス
10.png 1.37 MB 登壇者:株式会社フライヤー 執行役員CCO 久保彩さん(提供:フライヤー) ーーflier book laboは立ち上げから5年が経ちます。御社はどのようなきっかけでコミュニティ運営を始めたのでしょうか? 久保さん: フライヤーはflier book laboを立ち上げる1年前からコミュニティを運営していて、当時はPoC(実証実験)として、オンラインではなくリアルで集まる形でコミュニティを運営していました。
フライヤーは本の要約サービス「flier」をアプリやWebで提供するテック企業です。ユーザーの利用状況やどんなコンテンツが好まれるのかなどのデータは、当時から正確に把握できていましたが、「読書体験」や「学び」といった前後の文脈や背景・その後の変化などは、データではわからないものです。
そこをもっと深く理解しなければ、本当に意味のあるサービスにはならない。もっとユーザーと直接接点を持ちたい。そんな思いから、まずは実験的にコミュニティを立ち上げることになりました。
ーーPoC期間ではどのような運営をしていたのでしょうか? 久保さん: 当時は人数も20名に限定し、月に2回ほどイベントを開催するクローズドな運営スタイルで、リアルな会場で深いコミュニケーションをとることを重視していました。対話のプロフェッショナルがファシリテーターとして入り、本をテーマにした深い対話を行っていました。
PoCで重要なポイントになったのは、フライヤー代表の大賀(康史さん)もコミュニティ活動には毎回必ず出席し、自ら現場に出て「その場でなにが起きているのか」をつぶさに観察していたことです。ほかにも、会場には編集チームや営業担当、後にプロダクト企画の責任者になるメンバーも参加していました。
このように、小さく丁寧にコミュニティを運営し「ユーザーと接点を持つことの意味とはなにか?」について、会社全体で手応えを確かめる期間だったと思います。
13.png 474.16 KB flierの歩み(提供:フライヤー) ーーそこからオンラインへと移行したのには、どのような経緯があったのでしょうか? 久保さん: やはりリアルで集まるコミュニティの課題は「運営には多くの人手が必要になる」「コミュニティの成長に対して場所が制約になる」ことでした。会場には社内スペースを活用してはいましたが、それでも会場設営や当日運営には相当な準備が必要で、継続的にスケールしていくには難しいです。今後は数百人規模で多様な方が継続して交わる場にしたいと考えたとき、それを実現するにはオンラインコミュニティへの移行が不可欠でした。
ーー全社的にコミュニティの価値を実感し、より成長させていくためにオンラインへの移行を決めたということでしょうか? 久保さん: 意思決定そのものについては、代表である大賀が最初からある程度コミットしていましたが、私たちは「代表がOKならすべてよし」な会社ではなく、「違和感があれば、ちゃんと声に出す」というフラットな文化を大切にしています。そのため、最初は慎重な意見も多く耳にしました。
特に、オンラインコミュニティの運営体制を、専任体制にしたのは、まだ社員数も少なかった当時としては大きな決断だったと思います。「なぜやるのか」「どんな意義があるのか」は、社内のメンバーに対して丁寧に説明していきました。
15.png 993.25 KB flier book labo のメインビジュアル(提供:フライヤー) ーー社内だけでなく、ステークホルダーに対しても丁寧に説明していったと伺いました。 久保さん: そうですね。私たちは書籍の要約を制作するにあたって、全国200社以上の出版社から許諾をいただき、編集担当者や著者の方々の確認を経て公開しています。一方で、私たちのビジネスモデルでは出版社の方々からは費用をいただかないようにしています。
フライヤーにとって出版社の方々との信頼関係は非常に大切なものであり、同時にメリットをご提供できなければ、私たちのビジネスは成り立ちません。事前の説明が不十分で誤解を招いてしまえば、これまでの信頼関係も崩してしまいます。コミュニティを立ち上げる時にも、それが出版社の方々にとっての意味や価値について熟慮を重ね、説明していきました。
今では書籍の編集担当の方がコミュニティのイベントに顔を出してくださるようになり、読者のリアルな声に触れていただける貴重な場と感じていただけるようになっています。
今、オンラインコミュニティを立ち上げる価値とは?
ーー質問の方向性を変えさせていただきます。もしも今、久保さんが大企業のコミュニティの立ち上げ責任者になったとしたら、どのようにコミュニティの意義を説明しますか? 久保さん: とても難しい問いですが、
会社や事業として大切にしている価値観に紐づけて語ることが大切 だと思います。それを大前提として
「大義名分」と「スモールスタート」の2つを両立させることが、最初のステップとしては重要 なのではないかと思います。
ーー「大義名分」と「スモールスタート」。非常に興味深い視点です。ぜひ具体的に教えていただけますか? 久保さん: フライヤーを例にすると、私たちは本の要約サービスを提供していますが、事業ドメインとしては「知」を扱っている会社です。そのためミッションも「ヒラメキあふれる世界をつくる」と、比較的広く設定されています。「知」を中心に据えたときに、読書を通じた対話を促すコミュニティで、どのような体験が生まれるのかを理解する取り組みは、フライヤーの掲げる大義にもかなうものです。
また、最初からコミュニティ運営を新規事業として宣言するのではなく、
最初はユーザー理解の活動や広報的な文脈で小さく始めることも有効 だったと思います。私たちも、最初の1年間のPoC期間では、それほど大きな意思決定をしたわけではありません。しかし、実際にやってみて、ユーザーと継続的に接点を持つことにどんな意味があるのかを実感できました。それが今につながっています。
ーー企業活動の一環としてコミュニティを運営するとなるとKPIや目標の設定が悩みの種になります。御社の場合はどのような考え方をしているのでしょうか? 久保さん: flier book laboは月額会費をいただき運営していますので、当然、売上や継続率など事業的なKPIとして提示できる要素があります。しかし、こうした数値的な指標だけでなく、この取り組みが「
企業が持つ大義に対してどう貢献しているのか 」といった定性的な価値についても、しっかりと見極めていく必要があると思っています。
ただ、私たちもPoCを実施した1年で、すべてを見極められたわけではなく、やりながら見えてきたものが多いです。
17.png 921.88 KB flier book laboの活動内容(提供:フライヤー) ーー具体的にはどのような価値が見えてきたのでしょうか? 久保さん: コミュニティを運営する意義として、いくつかのポイントが明確になってきました。例えば
ユーザー理解に基づいてサービスのあり方を実験する場 であること。flier book laboの「labo」は「実験室」という意味でもあり、ユーザーと実験ができる場所が会社の中にあることは非常に意義深いです。法人サービスの企画段階でも、参加されている人事の方々に直接フィードバックをもらえる場所にもなりました。
また、
著者やユーザーとの接点を獲得できる場 としての価値も大きいです。先ほどお話しした通り、flier book laboに著者の方を招き、メンバーさんと接点を持ってもらうことで、出版社の方々や著者の皆様へも新たな価値提供のかたちが生まれました。
以前は「本の要約サービス」という言葉に対して「著作物を搾取するサービスでは?」と誤解されてしまうこともありました。しかし、コミュニティを通じて私たちの姿勢を直接体感いただくことで「本を深く届けるための活動をしている会社なんだ」と理解していただけるようになりました。現在では著者の方々からも「次の本でもご一緒したい」と言っていただけるような信頼関係が築けています。
ーー人が集まり、継続的に交流することで生まれる信頼感が前提となり、ビジネスを後押ししている。まさにオンラインコミュニティの大きなメリットだと思います。 久保さん: 社員のモチベーションが向上 したのも大きな価値だと感じています。ユーザーと直接接点を持つことでお客様の言葉をリアルの場で受け取れるようになりました。それは社員にとって大きな励みになり、自信にもつながっています。
「この会社にいてよかった」という社員の声は、採用面でも大きな効果をあげています。そういった意味では、オンラインコミュニティは
「人と事業」両面に価値を持っている といえます。
経営者は「事業」だけでなく「人」にも責任を持っている存在です。だからこそ、コミュニティは「事業」と「人」の両面に資する取り組みだということを、丁寧に伝えていくことが重要だと思います。そこには単なるROEやROIだけでは語れない価値が、確実にあります。
ーー「人と事業」、非常に重要な視点ですね。サービスを使う方々の姿が見えるからこそ、サービスをもっと進化していきたいと思える。それが良い顧客体験へとつながる。まさに相乗効果が生み出せていますね。 久保さん: そうですね。テックサービスだけだと「flierが好きです」とはなかなか言ってもらえないものです。もちろん、App Storeのレビューなどで良い評価をしてくださる方もいらっしゃいますが、コミュニティの中で社員と直接触れ合うことで「サービスのflierだけでなく、企業のフライヤーも好き」と言ってくださるようになるんです。
最近では、そういったメンバーさん方がコミュニティでの活動をnoteに書いてくださったり、SNSで「楽しかった!」と発信してくださったりするようになりました。こういったことも、お願いしてできることではありません。特にテック領域においては「応援してくださるお客さま」が自然に生まれること自体、とても貴重な資産だと思っています。
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