2024年12月22日・23日の2日間にわたり開催された日本全国の「アトツギ」が一堂に会するカンファレンス「
アトツギベンチャーサミット2024(AVS2024) 」(主催:一般社団法人ベンチャー型事業承継)がクリエイティブセンター大阪で開催されました。アトツギとは「先代から受け継いだ価値を、時代に合わせてアップデートすることで、その次の世代に託す時まで、存続にコミットする個人」のこと。
主催するベンチャー型事業承継は「挑戦するアトツギが日本経済に地殻変動を起こすエコシステムを実現する」をビジョンに掲げ、全国のアトツギの成長支援に加え、事業開発支援などを行っています。その施策の一つとして、ベンチャー型事業承継では
アトツギのための成長と学びのコミュニティ「ファースト」 を主宰し、コミュニティ運営にOSIROをご導入いただいています。
今回はDAY1に開催された「アトツギアワード」の模様を紹介します。
日本全国の挑戦するアトツギがつながり、一堂に会するカンファレンス
IMG_7770 (1).jpg 2.37 MB 会場となったクリエイティブセンター大阪に掲げられた横断幕 日本における中小企業の割合は99.7%(※)であり、卓越した技術力・サービス力により長年日本経済に貢献してきた長寿企業も全国に数多く存在します。一方で、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や地方の人口流出の問題は、地方企業の存続に深刻なリスクをもたらすと同時に、企業を引き継ぎ未来へとつなぐ「後継者の不在」として深刻な社会課題となっているのが現状です。
そのような企業の倒産・廃業は、貴重な技術やノウハウを喪失させ、日本の国際競争力の低下にもつながります。また、地域に根差した有力な中小企業が存続の危機に瀕している状況は、雇用機会を減少させ、地域経済の停滞を加速させるリスクにもなっています。
そのため、企業を引き継ぎ既存事業で培ったノウハウを現代にアップデートし、新規事業などの挑戦から企業を未来へとつなげる意欲をもったアトツギの存在は非常に重要です。現在、アトツギは日本の未来を担う重要な存在として注目され、徐々にビジネス領域での認知が進んでいます。そのような
アトツギたちの成長と挑戦を後押しする存在が、ベンチャー型事業承継 です。
ベンチャー型事業承継ではアトツギの成長段階に合わせた本質的な学びの場を提供。さまざまなスタイルでの学びを提供することで挑戦する環境づくりを、そして先代(現経営者)をはじめとするステークホルダーとの関係構築などの支援を通じて、円滑な事業承継を実現するためのエコシステムを構築しています。
その一つとして機能しているのが、全国各地の未来志向のアトツギが集まり、経営者になるまでの学びを得る「予備校」のようなオンラインコミュニティ「ファースト」です。
image2.png 120.75 KB 提供:ベンチャー型事業承継 AVS2024は、日本全国の挑戦するアトツギが「リアルの場」で一堂に会するカンファレンスです。そしてDAY1で開催された「
アトツギアワード 」は、企業永続のために革新的な事業や社会善の創出に積極的に取り組むアトツギ経営者を称え、ロールモデルとして紹介する表彰制度。オンライン上での継続的な学びの場の提供、そしてリアルではカンファレンスやピッチイベント、セミナー、研修などを実施することで優れた事例の共有や深い学びを支援しているのが、ベンチャー型事業承継が取り組むアトツギ育成支援の特徴といえます。
DSC00451.jpeg 1.29 MB 当日の会場では「イノベーション部門」と「ソーシャルグッド部門」を受賞した各部門3名のアトツギを表彰。その後、それぞれのアトツギがピッチを行い、各部門のグランプリを決定しました。
DSC00486.jpeg 1.34 MB ※出典: 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果」
【イノベーション部門】伝統と革新を融合させ、未来を創るアトツギたち
DSC00538.jpeg 736.74 KB 株式会社あつまるホールディングス 専務取締役 島田裕太さん イノベーション部門の一人目のピッチは、あつまるホールディングスの専務取締役 島田裕太さん。島田さんが現在同社グループ会社の
あつまる山鹿シルク で取り組んでいるのが「養蚕によるジャパンシルクの復活と地域創生」です。
同社が所在する熊本県は日本屈指の養蚕地でした。しかし、現在では日本全体で養蚕業が衰退し、2020年時点の養蚕農家は2戸、繭生産量もわずか200kgまで落ち込みました。このような産業衰退は地域過疎化が急速に進む要因となっています。
そのような現状を変えるために島田さんは立ち上がり、2014年に「
‐新シルク蚕業構想‐SILK on VALLEY YAMAGA 」を立ち上げました。従来の養蚕で課題となっていたのは、生き物由来の素材ゆえの「生産と品質の不安定さ」。そして、安定した生産量が確保できないため「繭の用途が限定的になっていること」であったといいます。
そのような課題を解決するため、島田さんは「無農薬の人工飼料の開発」「世界初となる周年無菌養蚕」「シルク用途の拡大」という3つのイノベーションを実現しました。季節的な飼育しかできなかった蚕の飼育を年24回の飼育を実現し、クリーンルームでの養蚕により蚕を病気から守ることで安定的な繭の生産を実現。さらに、医療活用も可能な衛生レベルを実現したことにより、現在は繭のたんぱく質を利用した医療デバイスの共同開発も進んでいるといいます。
DSC00568.jpeg 405.21 KB アルケリス株式会社 代表取締役CTO 藤澤秀行さん 続いてのピッチは
アルケリス 代表取締役CTOの藤澤秀行さん。藤澤さんが取り組むのは「町工場発の立ち仕事の負担を減らす夢のプロダクト」。
藤澤さんはもともと家業である金型の製造などを行うニットー(神奈川県)に入社し、同社の事業拡大に貢献していました。その中で、藤澤さんが開発を主導した
世界から立ち仕事の辛さをなくすアシストスーツ「archelis」 の成長から、ニットーの1事業からスピンオフさせるかたちで2020年にグループ会社として分社したのがアルケリスです。
開発のきっかけは、医療現場の声。近年の外科治療では内視鏡外科手術を選ぶケースが増え、開腹手術に比べ患者の身体的負担は減った一方、手術の長時間化により医師や看護師の負担が増加しています。
そのような課題を解決するため、藤澤さんと千葉大学フロンティア医工学センター(当時)の川平洋さん(医学博士) と中村亮一さん(工学博士)、そしてデザイナーの西村ひろあきさんの医工連携により開発したのが「archelis」です。
医療分野から始まった「archelis」ですが、現在は導入企業の幅も増え、製造業大手の現場でも多数導入されているといいます。藤澤さんはこのようなものづくり企業の技術力を活かし、最終的には「世界の人々がいつまでも健康に過ごせる社会を実現する」と述べ、ピッチを締めくくりました。
DSC00616.jpeg 555.38 KB 環境大善株式会社 代表取締役 窪之内誠さん イノベーション部門最後のピッチは、
環境大善 代表取締役の窪之内誠さん。窪之内さんが取り組むのは、「地球の健康を見つめる研究開発型ベンチャー」。同社は窪之内さんの父・覚さんが2006年に北海道で創業。
天然成分100%のバイオ消臭液「きえ〜る」や液体堆肥「土いきかえる」など の商品を製造、販売しています。
環境大善の商品の原材料となっているのは牛の尿。本来、適切な処理をしなければ水質汚染や土壌汚染の原因にもつながる牛の尿が、同社技術によって高い消臭効果をもたらし、人にも環境にも優しい商品を生み出しています。
しかし、窪之内さんが同社に入社した当時は、原材料の特殊性だけが一人歩きしてしまい、商品そのものの魅力を伝えるコミュニケーション設計がされていなかったといいます。そこで窪之内さんは、産学連携による研究開発やデザイン経営の手法を取り入れることによって、事業承継と並行して環境大善が持つ技術力の立証と組織基盤の構築を進めていったといいます。
さらに、自社技術の新しい展開も着実に進んでいます。2023年、同社は「令和5年度成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」に採択され、航空機のジェット燃料を代替となるバイオ燃料「SAF」の開発を進めています。
【ソーシャルグッド部門】地域の振興を担うアトツギたちの挑戦
DSC00641.jpeg 436.54 KB 株式会社早和果樹園 代表取締役社長 秋竹俊伸さん ソーシャルグッド部門最初の登壇は、
早和果樹園 代表取締役社長の秋竹俊伸さん。全国有数のみかんの産地である和歌山県有田地方で、みかんの生産から加工、販売までを行い「
みかんの6次産業化 」を手掛ける早和果樹園で秋竹さんが取り組むのは「『すてない加工』で農家の収入向上に寄与」。
みかんは全国で約68万トンつくられ、生産量トップの和歌山県が20%以上のシェアを持っています。しかし、みかんの総生産量は減少し続けており、現在は最盛期の5分の1ほど。その理由には後継者不足、産地継続の問題があるといいます。秋竹さんはこの課題に対して、みかんを捨てず、余すことなく加工することで解決を目指しています。
みかんは市場に出荷できない規格外のみかんが20-30%発生し、それらは加工用のみかんとして卸されるのが一般的です。しかし、その価格は1kgあたり7円ほどと、ほぼ捨てるような価格で取引されていたといいます。早和果樹園ではその約7倍となる50円で買い取っています。そのような買取価格が実現できたのは、同社の加工技術にあります。
例えば、みかんジュースの加工工程では通常、果汁を絞った後の40%が食品残渣となり廃棄されていますが、早和果樹園ではみかんの皮を乾燥し生薬の「陳皮」へと加工することで商品化しています。さらに、みかんの搾汁にも無駄のない方法を採用しつつ、搾汁で発生した搾りかすなども調味料や化粧品の原材料として活用することによって、「すてない加工」を実現しています。
早和果樹園では現在、生産設備、販路の双方で拡充を進めているといいます。秋竹さんは最後に「私は早和果樹園のアトツギでもありますが、有田みかんのアトツギでもあると考えています。今後はみかん産業を盛り上げつつ、みかん産地の継続に貢献していきたい」とピッチを締めくくりました。
DSC00675.jpeg 736.98 KB 井上株式会社 代表取締役社長 井上大輔さん 続いてのピッチは、
井上株式会社 代表取締役社長 井上大輔さん。井上さんが京都府福知山市に本社を構える同社を引き継いだのは2003年のこと。電気工事資材の卸売を祖業とし、北近畿で地域に寄り添いながら事業を展開してきた同社ですが、井上さんが事業承継をした際には債務超過10億円と、深刻な経営危機に直面していたといいます。
当初は苛立ちから先代である父や従業員を責める姿勢でしたが、井上さんは内省を重ね、「こんなダメダメな会社でも長く勤めてくれた社員が会社を去る時、『会社で働いてよかった』と思ってもらえる。そんな経営者になりたい」と決意。第2創業を宣言し、経営改革を進めました。
同社の経営改革で特徴なのは、従業員を第一とし、我々経営陣はサポートチームと位置付ける組織構造にあります。従業員主導で進める取り組みを徹底して、経営が徹底してサポートしていく経営スタイルをとった結果、同社の快進撃が始まります。
現在、同社では既存事業である電気設備資材の販売・工事を中心に、IoTやDXにも注力するなど、幅広いビジネスモデルを確立しています。その結果、2011年から2023年の12年間で社員給与1.6倍、限界利益2倍、限界利益率1.8倍と躍進します。社員提案は10年間で6000件、年間3万件の「ありがとう」が交わされる活気ある企業文化が醸成されました。
同時に、
廃校を活用したいちご農業やクラフトビール事業 など、地域貢献にも積極的に取り組み、年間1万人以上が訪れる場を創出。障がい者と共に農業を行うなど、多様な人々が関わるプロジェクトを推進しています。
井上氏は「社会も組織も常に未完成であり、だからこそ変革し続けることができる」と語り、今後も社員と共に挑戦を続けていく決意を述べ、ピッチを終えました。
DSC00753.jpeg 1.05 MB 株式会社ケルン 代表取締役社長 壷井豪さん 株式会社ケルン 代表取締役社長 壷井豪さんは、創業78年を迎える神戸の老舗ベーカリーの3代目として、フードロス削減と社会的弱者支援を目的として始めた
経済循環型サービス「ツナグパン」 について紹介しました。
ツナグパンは、前日の売れ残りのパンを袋詰めし、定価の65%で販売する仕組みです。パンの種類は選べず、購入者には100エシカルコインが付与され、次回の買い物時に使用できます。このエシカルコインは、伐採された木材を再利用して作られ、ケルンの店舗で流通するだけでなく、児童養護施設や母子生活支援施設にも寄付されます。
この取り組みにより、パンの廃棄率は11%から2%に減少。さらに、エシカルコインの循環率は70%以上を維持しています。寄付されたコインは、施設の子どもたちが自由に使える仕組みになっており、彼らが自らの意思でパンを選び、購入する経験を通じて、自立心を育むことを目指しています。
壷井さんは現在日本でも普及しつつあるフードバンクを「なくてはならない大切なもの」と強調する一方で、食品が適切に配分されず、余剰食品として二次廃棄されてしまう課題があると説明します。そのような課題を解決するため、ツナグパンは支援を受ける側が必要なタイミングで利用できるため、二次廃棄が発生しにくい仕組みを構築しています。
また、エシカルコインはデジタルクーポンとは異なり手に取って使用できるため、高齢者や子ども、障がいを持つ方でも直感的に利用可能です。開始当初、コインがパンの袋に同封されていたため、気づかずに捨てられてしまうこともありましたが、レジで手渡しする方式に変更したことで解決したといいます。
ツナグパンは、支援を「施し」ではなく「経済活動」として成立させることで、持続可能な仕組みを実現しています。壷井さんは「『捨てさせないことが心を豊かにし、人生を幸せにする』という理念のもと、地域に根ざしたソーシャルグッドな事業を展開し、次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる未来を目指していく」と展望を語り、ピッチを締めくくりました。
スペシャルトークセッション「カリスマ創業者からの事業承継」
DSC00894.jpeg 1.01 MB 両部門のピッチが終了した後は、ゲストを招いたスペシャルトークセッションが実施されました。登壇したのは、株式会社スープストックトーキョー 取締役副社長 兼 CFOの松尾真継さんと千房株式会社 代表取締役社長の中井貫二さん。
今回のセッションは「カリスマ創業者からの事業承継」をテーマに、遠山正道さんが創業し現在では全国に店舗を拡大する「Soup Stock Tokyo」の経営継いだ松尾さんと、国内外でお好み焼き・鉄板焼チェーン「千房」を展開する千房を事業承継した中井さんのそれぞれの視点から意見が交わされました。
セッションはまず、松尾さんと中井さんそれぞれの事業承継の経緯が紹介された後、事業を引き継ぐことの難しさや、創業者との関係性について話し合われました。
DSC00901 (1).jpeg 890.47 KB 株式会社スープストックトーキョー 取締役副社長 兼 CFOの松尾真継 松尾さんは、スープストックトーキョーの創業者である遠山正道氏について、「遠山さんを尊敬しているが、憧れているわけではない」といいます。一方で、現在のSoup Stock Tokyoがあるのは「創業者の遠山さんが信頼して預けてくれたこと。それに応えたいという思いでやってきた。都度ビジネスモデルを見直し、制度を考え直し、経営理念の言葉を紡ぎ直してきました。本当に、自分のものだと思ってやり続けてきた結果が、今のSoup Stock Tokyoにつながっています」と振り返りました。
また、松尾さんは創業者のビジョンを理解しつつも、「Soup Stock Tokyo=遠山ではなく、またSoup Stock Tokyo=松尾でもない。Soup Stock Tokyoというブランドが、まるで一人の人のように成長し、人格を持つように育っていく。そのためにブランドを守り、次の世代へとつないでいくのが2代目、3代目の役割だと考えている」と語りました。
中井さんは、千房の事業を引き継ぐにあたって、創業者である父との関係性が重要だったと話します。「父とは10年間、ほぼ毎日昼食を共にし、仕事以外の話をしながら価値観や哲学を学んできた」と述べ、創業者の考えを理解するためには、経営上の決断だけでなく、日常の会話が大きな役割を果たしたと語りました。「取締役会では意見がぶつかることもありましたが、最終的な目標は同じ。その理解があったからこそ、事業承継のプロセスをスムーズに進めることができた」と強調しました。
続いて、事業承継後の取り組みについての議論が交わされました。
中井さんは、会社の50周年を迎えた際にリブランディングを行い、ミッション・ビジョン・バリューを再定義したことを紹介しました。「時代の変化に対応しながらも、人を大切にするという創業時の理念は変えない」とし、元受刑者や外国人社員の採用や多様な働き方の推進など、事業の発展に向けた取り組みを行っていると述べました。「理念を守りつつ、変えるべき部分は変えていくことが、長く続く企業にとって必要不可欠」と語ります。
松尾さんも、「世の中の体温を上げる」というSoup Stock Tokyoの理念を基軸に、「理念がしっかりしていれば、数字は後からついてくる」と信念を持って経営に取り組んでいると述べました。「事業承継とは、創業者の思想をリスペクトしつつも、そのまま継ぐことではなく、時代に応じたアプローチを考えることが重要」とし、事業を引き継いだ際には「理念をいかに『自分ごと』として捉え、ブランドや会社をどう育て、どう守っていくのかを考えることが大切になる」と説きます。
質疑応答では、創業者との関係性について質問が投げかけられました。家業の事業承継の場合、経営者と後継者だけでなく、親と子という側面も存在します。そのため、場合によっては感情的なぶつかり合いが増えてしまうこともあります。
DSC00846 (1).jpeg 725.52 KB 千房株式会社 代表取締役社長 中井貫二さん 中井さんは「今の会社があるのは、創業者が立ち上げたからこそ。創業者の理念や考え方は、会社の根幹にあるはず」と述べた上で、以下のようなアドバイスを送りました。
「私はいつも『創業者と一緒に仕事ができることを幸せに思ったほうがいい』と話しています。松下幸之助さんや本田宗一郎さんと一緒に仕事をすることは叶いません。今いる創業者とともに働けるというのは、それだけで貴重な経験なんです。だから、創業者の話はしっかり聞くべきです。
もちろん、意見がぶつかることもあります。僕も会長(父)と意見が食い違うことはよくあります。でも、最終的な『目指すべき頂』は同じなんです。表現やアプローチの違いがあるだけで、本質的な部分では一致している。
だからこそ、しっかり対話をしながら、お互いの考えを尊重しつつ、共通の方向性を見出すことが大切です。後継者としての立場であっても、創業者の想いや会社の歴史を軽視せず、しっかりと受け止めること。それが、より良い関係を築く鍵になるのではないかと思います」
松尾さんは「創業者がどんな気持ちで事業を立ち上げたのかという精神はしっかり学ぶべきだ」と中井さんの考えに賛同しつつ、以下のように語りました。
「理念や根幹となる価値観は大切にしつつも、今の時代に置き換えたときの具体的なアプローチの仕方は、次の世代が責任を持って考え進化させていく必要があると考えています。
お客さまや社会の変化に合わせて、変えるべきものは変えていく。もし今、自分が社長という立場になったのなら、その責任を自覚し、堂々と自分の考えをぶつけていけばいいのではないかと思います」
本セッションでは、事業承継は単なる引き継ぎではなく、理念を深く理解し、時代に適応させながら発展させていくプロセスであることが改めて示されました。それぞれのエピソードを踏まえつつも、創業者と後継者が互いに歩み寄り、それぞれの役割を明確にしながら協力することの重要性が強調されたセッションとなりました。
アトツギ企業の成長は、覚悟を持った経営者のもとで生まれるイノベーションや地域への貢献にある
環境大善 代表取締役 窪之内誠さん 当社がある北海道北見市は急速に過疎化が進んでいて、ビジネス環境としても決して良いものではありません。ですが、我々は北見市の外へと拡大して外貨を獲得し、地域に還元するという強い思いがあります。 今日受賞したことを励みに、今後もビジネスにチャレンジしていきたいと思っています。本日はありがとうございました。
株式会社ケルン 代表取締役社長 壷井豪さん 私はベーカリーの3代目として事業を営んでいますが、町のパン屋さんが食べ物をつくり、販売し「美味しい」と言っていただける。それだけでもありがたいことです。ただ、私たちはそれだけではなく、街のパン屋さんだからこそできることがあると考えています。自分たちの事業が社会や地域に対して存在価値を最大化し、もっと可能性を広げていけると思っています。今後とも応援をよろしくお願いいたします。
DSC01020.jpeg 4.92 MB 審査員の講評後、AVS2024およびアトツギアワードを主催する一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事山野千枝さんからあいさつが述べられました。
「私は6年前、『アトツギが憧れられる存在になる社会を作りたい』と考え、この団体を立ち上げました。その中で、『アトツギ企業の成長指標とは何か?』という疑問を持ち、議論を重ねてきました。その結果誕生したのが、このアトツギアワードです。
今日の受賞者の皆さんの話を聞き、「地域の会社、地域に求められる会社とは何か」を改めて実感しました。アトツギ企業の成長は、覚悟を持った経営者のもとで生まれるイノベーションや地域への貢献にあるのではないでしょうか。もし、今日のような企業が全国に増えれば、日本の未来は明るくなると確信しました。
アトツギの皆さん、そしてアトツギを支える皆さん、これからも共に成長し、日本の未来を創っていきましょう」
ファースト 「挑戦するアトツギが日本経済に地殻変動を起こすエコシステムを実現する」を掲げる一般社団法人・ベンチャー型事業承継が主宰するアトツギのためのコミュニティ。 「自分らしく家業を継ぎたい」「家業を成長させたい」そんな未来志向のアトツギが集まり、社長になるまでの学びを得る「予備校」のような場を提供。アトツギが自らの機会を創り出し、課題を解決する中で、経営者としての成長を実感できることを目指す。https://atotsugi-1st.com/about