【対談】前編 | 創刊35周年を迎えた『Tarzan』は、なぜコミュニティを必要としたのか
OSIRO Dialogue − インタビュー
コミュニティープロデューサーによる、コミュニティダイアローグ『OSIRO Dialogue』日々コミュニティ運営者と伴走するコミュニティプロデューサーが何より大切にしていること、それは「ダイアローグ」。 コミュニティオーナーが本気でやりたいことを理解し、 どうやってコミュニティで実現するかを共に考え、伴走します。このシリーズではそんな一コマをシェアしていきます。『POPEYE』『BRUTUS』など、独自の世界観を持ち時代を創ってきたマガジンハウス。その中で30年以上にわたって「快適な生活のためのフィットネス!」をテーマに発信しつづけてきた雑誌『Tarzan』があらたに取り組んだのは「オンラインコミュニティ」でした。目指すは読者と編集部、そして読者と読者がつながる、Tarzanらしい新しいフィットネスライフの提案。現在、運営リーダーを務める髙橋優人さんに、サービス導入のきっかけや「TEAM Tarzan」開始から現在までの変化について伺いました。
Vol.04 髙橋 優人さんマガジンハウス デジタルビジネス ディレクター
雑誌を届けることだけが編集者の仕事ではない
高田:あらためて、Tarzanはどんな雑誌ですか?髙橋:1984年に創刊した雑誌で、“快適な生活のためのフィットネス!”がコンセプトです。当時は全然フィットネスという言葉も日本になかった時代で、アメリカを訪れたマガジンハウスの編集者が、たくさんの人がジムに行ってトレーニングをしている様子をみて、これは日本で紹介したら面白いのではないかと言って持ってきたのがTarzanのはじまりでした。高田:創刊号読みました。方向性が今とは少し違いますよね。髙橋:今はライフスタイルから若干方向性が変わっていて、より正しい知識とともに健康をつくろうというような感じですね。時代のニーズに合わせて筋トレとか健康雑誌という形になっています。35年前からやっているってすごいですよね。編集部員が言うのもなんですけど(笑)▲ sarzan創刊号(1984年) / 日本に“フィットネス”の言葉を広めた仕掛け人高田: そんな35年のブランドを持つTarzanがあたらしくオンラインコミュニティに挑戦したわけですが、始めてみていかがでしたか。 髙橋:思っていたより楽しいのと、思っていたより大変の両方ですね。楽しいというのは、読者と直で繋がっていること。自分たちが一生懸命つくった雑誌の反応がダイレクトに得られるのは嬉しいですね。大変なのは、当初の想定よりは手がかかっていること。ただ、コミュニティ自体、トライアンドエラーでやっていますし、そのプロセス自体楽しんでますね。サブスクリプション型のコミュニティ運営は、弊社の中でも1番先進的なことをやっていると自負しているので、どこまで成功させられるか楽しみです。高田: ありがとうございます。まずは髙橋さん自身のことをお聞きしたいのですが、髙橋さんがTarzan、マガジンハウスに入ったきっかけは? 髙橋:大学時代に写真サークルに入っていて、部室に写真特集の雑誌がありました。それを見ていて、「かっこいい写真だな」と思って、その中に載っているテキストを読んで、どんどん自分の知識が拡がっている感じとか、世界が拡がっている感じが面白かったんです。だいたい僕が面白いなと思う雑誌は、マガジンハウスから出ていて、これは面白い仕事ができそうだ、と思ったのがきっかけです。高田:入社してからはどんな仕事をされてきましたか?髙橋:最初に配属されたのが『Tarzan』でした。そこでみっちり雑誌編集者としての基礎を教え込まれて、『Hanako』に移りました。ただ、その後組織を再編することになり、僕は宣伝部として会社のPR部門に異動になりました。 高田:雑誌をつくる立場から、魅力を伝える側に変わったのですね。髙橋:はい。でも編集者がやりたくて入ったので、大きな声では言えませんが、当時は「俺の編集者人生終わったわ」と思ってました(笑)ただ、今思うとその部署に行ったことで、良いものを作った上でどう読者に届けるか?という視点が身についたと思っています。今までは特集の4ページをクオリティ高くどう作り込むかという考え方だったのが、「この1冊をどう読者に届けたら良いのだろうか」という視点。とくに編集長の方々はコンテンツを作る人でもあるけれど、それを売る責任もある人なので、その人たちがどう考えているかを知れたのはとても良い経験でした。高田:立場が変わって、仕事の面白さにも変化がありましたか? 髙橋:Casa BRUTUSで猫村さんの展示をやろうということになったんですが、休日にあり得ないくらい長蛇の列ができたんです。混乱するくらいの人で。それでも、お客さんが「待っていて良かった」と入ってきてくれて。猫村さんのグッズを買ってくれたり、最新号を買ってくれて、普段見られないリアルな読者の熱量に直接触れられた感覚を得られたんです。
高田:それは嬉しいですね。髙橋:僕の話をするのは恥ずかしいんですが、学生時代に音楽フェスのバイトをしていたんですよ。その現場の何が1番面白かったかというと、アーティストが音楽を奏でているときに、会場にいる人たちがみんな幸せそうにノっている感じ。それがすごく良いなと思ったんです。人が楽しそうに、嬉しそうにしている空間にいられること、そのパワーに触れられるのはすごく良いなと思っていて。それを猫村さんの展示の時にも感じました。読者からよりダイレクトな反響を得られるというのは、編集者では気がつかなかった面白さだったのかなと。高田:まさに今のコミュニティ、「TEAM Tarzan」とも繋がるところですね。髙橋:そうなんです。実は、自分自身は趣味嗜好も含めてTarzan的な人ではなかったので、自分がうまくできるのかなと悩むことが多かったんです。それでも、「TEAM Tarzan」は読者と直接向き合うことができて、自分が起こしたアクションに対しての反応が明確にあるのはすごく面白い。良くも悪くも反応が出てくるというのは難しさでありつつも、ライブ感があって、やりがいでもあるというところです。
「共創」を体現するコミュニティを目指して
高田:そんな髙橋さんがコミュニティに興味を持ったきっかけは何だったんですか?髙橋:僕がTarzanに入ったタイミングで、「Club Tarzan」という無料組織の立ち上げをしていました。それの年間登録者目標が3,000人だったのが、1ヶ月で達成してしまったんです。思ったより引きがあると思ったと同時に、逆に僕らもどうしたら良いかわからなくなってしまって。そんな時にOSIROさんのセミナーに参加させてもらって、「これが求めていたものだ!Tarzan的ですごく良いかも!」という感覚を覚えたんです。高田:「これはTarzan的だ」と思ったポイントはどういうところですか?髙橋:「共創」というキーワードです。『Tarzan』って、よく言うのが「Doの雑誌」。直接読者に「やるとこうなるよ」と働きかけて、読者が動くところまでが完結なんです。それがまさしくOSIROさんの掲げる「共創コミュニティ」というところに合致していると思いました。 また、Tarzanでは「脱げるカラダ」という読者参加企画を毎年やっているんですが、そこにも読者のものすごい熱量を感じる機会があったんです。 ▲「脱げるカラダ」初回号 / 読者参加企画として毎年Tarzanが行う企画弊社の7階の会議室で、午前中から「脱げるカラダ審査会」を行い、審査に通った人がそのまま地下のスタジオで表紙の撮影をする、そんなイベントです。そこで参加者の皆さんがいかに日々のカラダづくりに『Tarzan』の記事が参考になったか、熱く話してくれたんですよ。「なんて愛されている雑誌なんだろう」と感動しました。 さらに、控え室では参加者同士が「どんなトレーニングしたんですか」っていう話をし始めるんですね。審査のために皆さんおもむろにプッシュアップしながら(笑)いろんな意味で“熱い”部屋の中で、お互いに連絡先を交換したりして、自分たちが表紙に掲載された号が出たら、書店に一緒に見に行って一緒に写真を撮ったりしていて。こうして読者と読者がつながるのはこんなにも面白いことなんだな、と思ったんですよね。
▲ 脱げるカラダ審査会の風景高田:“ 共創 ”は、雑誌と読者だけでなく、読者同士をつなげることで起こる、と。髙橋:そうなんですよ。大げさかもしれないですが、『Tarzan』は日本人全員の健康を底上げするメディアだと思うんです。それを実現するためには、僕たちが発信するだけではなくて、読者をつなげることが必要だと。自宅やジムでトレーニングするのは孤独ですし、「TEAM Tarzan」はそういう方々の助けにもなるのではないかと感じました。コロナ禍では、よりコミュニティの重要性が増したと思います。高田:突然のコロナ禍でしたが、想定外だったことはありますか?髙橋:企画当初はリアルなイベントを中心に設計していたのですが、それができなくなったのは想定外でした。一方で、だからこそオンラインがベースになり、金沢や福島、熊本、北海道など全国のメンバーがつながれるようになりました。今ではカリフォルニアやバンコクなど、海外在住のメンバーもいます。嬉しい想定外です。こんなに離れたところでもTarzan愛がまだ続いているということに感動ですし、そういう人たちも繋がりを求めているんだなと、いい場を作れているんだな、と感じています。高田:髙橋さん自身も「TEAM Tarzan」内でオンラインイベントを立ち上げられましたよね。髙橋:「Barタカハシへようこそ」です(笑)トレーニングのイベントでもなんでもないのですが、メンバーの皆さんと「ちょっとお話ししましょう」という会として。参加者の中には、家族がお風呂に入っている30分だけ参加しますという方もいたりしました。リアルですよね(笑)それでその方が、イベントを経て、「TEAM Tarzanに入って良かった、仕事と家庭とは別の、もう一つの居場所をつくれた」と言ってくれて。すごく嬉しかったですね。よくスターバックスが「サードプレイス」を提唱していますけど、それに近づけている感じがしました。
▲ Barタカハシのマスターに扮する髙橋さん高田:それは『Tarzan』と読者にとってもいいですし、読者同士にとってもいい場所になっていますね。 髙橋:そうですね。最初の頃はどうしても、僕たち運営側が思っていた方向とは違うメンバーが集まってきたり、思っていた方向にみなさんが進んでくれないというジレンマはありました。僕たちもうまく仕切れなくて、メンバーのみなさんの期待と僕らがメンバーの皆さんに期待することのズレから退会される方もいて。たとえそれが1人だとしても退会って結構傷心するので、高田さんにもその都度相談に乗ってもらいましたね(笑) その頃からすると、すごくいい形になってきていると感じます。「TEAM Tarzan」に来れば、“自分の存在を認めてくれるメンバーがいる”という安心感が醸成されてきている。そのような場づくりを、僕たちも意識して運営していきたいですね。〈後半に続く〉 ***
髙橋優人(たかはしゆうと) / マガジンハウス デジタルビジネス ディレクター1992年生まれ。2015年、早稲田大学卒業後、マガジンハウスに入社。『Tarzan』編集部、『Hanako』編集部、マーケティング局宣伝部を経て、現職。学生時代には音楽フェスでのアルバイトでアーティストと観客が一つになり生まれるパワーに魅せられる。現在、TEAM Tarzan運営リーダーとして「読者と編集部、読者と読者がつながる、Tarzanらしい新しいフィットネスライフの提案」を目標に活動。
▼ TEAM Tarzanのコミュニティページはこちら全国から集まるメンバー、一流トレーナー、『Tarzan』編集部から “フィットネスインスピレーション”を得られる場。
▼ OSIRO Dialogurバックナンバーはこちら コミュニティプロデューサーによるコミュニティダイアローグ
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高田 和樹コミュニティコンサルタント・プロデューサーアパレル、大手メディア運営企業、外資系研修会社等を経て、プロのカヌー選手として国内外を転戦。アスリートの傍ら、オンラインコミュニティ黎明期の2010年代からコミュニティプロデューサーとして活動開始。会員組織の活性化はもちろん、コミュニティを起点とした新規ビジネス創出を得意としている。理論だけでなく、自らコミュニティを運営してきたリアルな成功、失敗体験に裏打ちされたアドバイスで大手出版社、メディアコンテンツのコミュニティDXを推進。SNS運営やPCのセッティングまで「コミュニティ成功のためならできることは何でもやる」のが信条。最近の趣味は焚火。以来、コミュニティと薪に火を着け続けている。
Photo. 山本 嵩(ヤマモト シュウ) / 髙橋さんプロフィール Text. 高田和樹 / コミュニティプロデューサー