スクリーンショット 2023-10-12 14.46.50.png 2.09 MB (左上)石川県 兼政隆志さん、(右上)NEC 須藤弘康さん (左下)国立アートリサーチセンター 稲庭彩和子さん、(右下)長岡造形大学 福本塁さん ──「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(以下、「共創拠点」)の価値に関しては、皆さん、どのように捉えていますか。 福本塁(以下、福本): 問題や課題に対してソリューションを提供することで解決・達成できるというのは、ビジネスでもアカデミックでもある話ですが、望まない孤独・孤立に対する取り組みについては、私自身の現場感覚ですが、見えている範囲のものに対する事後の対処というイメージが強く、問題発生の根本に取り組めていないと感じています。病気になったときに薬を出すという「医学的処方」だけでなく、病気になりやすい環境自体に目を向け、しっかりと人の繋がりをつくったり環境改善の解決を図ったりしていく「社会的処方」のほうが、何かそういう視野が広がる可能性があると思う。地域活動は、栄養にも薬にもなり得るというか。
さらにそこをきちんとやっていくには、人と人とのタッチポイント、繋がる接点のデザインがすごく大事だと思っています。その接点の在り方を考えてみると、やはりハッピーなものや人生を豊かにするもの、それを誰かと共有できるものがよくて、例えばアートとか美味しいご飯とか、そういうところの力は強いのではないかなと。特にアートはどういう形であれ、その人の感性が表現される点が良いですし、一人ひとり異なることの楽しさや面白さを知ることは可能性そのものであり、豊かな気持ちになれるアプローチだと思うので、いろんな人との繋がりが既存のものに囚われ過ぎず、よい意味で新しい関係が見直されたり始まったりしていくのではないか。そこに可能性を感じていますね。
稲庭彩和子(以下、稲庭): 国や行政など公的な機関でも、新しいことにチャレンジして社会の変化に応じた事業をしていく必要があるわけですが、時代の変化の流れも大きく、なかなかその一歩が踏めないという性質があると思います。そういうなかで「共創拠点」というプラットフォームがあって、コレクティブインパクトという、それぞれの組織が同じ社会課題を認識しながら、そこにどういうふうに取り掛かるのかを一緒に考えられるというのは、すごく大きい。前例主義から少し逃れられるような構造ができますから。
あとは、始まったばかりなので、どういうコラボレーションの仕方をしていくのかが大事ですよね。例えば話し合いの仕方もそうですし、自分たちの知見の出し合い方、もしくはお金の出し合い方、時間の提供の仕方もそう。やり方が決まっていないので、ある意味、やればやっただけの時間がかかってしまいますし、かけた時間に対して、ソーシャルインパクトをどれぐらい出せるかというのも見えないので、結構迷う部分も出てくると思うのですが、それも正直に「今こういう状況だからここまではやっていきたいと思う」と話し合う必要があると思います。すべてが新しく一つひとつクリエーションしていくという点では、おもしろさであり価値であると。
また、「共創拠点」では医療福祉との連携を考えるフェーズにおいて、テクノロジーが非常に重要なファクターになっていますが、その分野の知見や経験値が自分には少ないので、NECの須藤さんをはじめ、企業の方々とどんどん話す場をつくっていく必要があると痛感しています。
須藤弘康(以下、須藤): こちらこそよろしくお願いします。
兼政隆志(以下、兼政): 今の稲庭さんの話に共感しました。どうしても国や自治体というのはいろんな縛りがある。さきほどの石川県の防災トランプを僕が知らないというのにも象徴されますが、縦割りもきつくて、福祉と文化は互いに情報が交換できていないんです。障害者芸術という話になって、初めて少し話をしようかという感じで。
あとはいろんな法律や条例が背景にあるので、ルールが厳格に決まっていたり正解がひとつだけに限られていたり、そういうことが結構多い。一方、「共創拠点」でいろんな企業の方や団体の方と一緒になると、「正解はひとつだけではない」と感じられる。いろんな立場の人が自由に意見を述べられるところにこそ、新しい価値観が生まれるような気がします。
課題は稲庭さんのお話でもありましたが、予算、そして人ですね。それがうまく担保できると、かなり前へ物事が進んでいくと思います。石川県では、東京藝大と連携協定を結ぶことによって、今までにない新しい事業ができるのではないかと非常に期待しています。
──やはり「この共創拠点ありき」で話を進めるとスムーズになりますか。 兼政: 実際はなかなか難しいんですけどね。例えば、私は文化振興課にいますが、別の課になれば「共創」という考え方はなかなか理解してもらえない。まずは自分の課の中で少し広げていって、予算をとったり、人を確保したりしたいです。
須藤: NECって、所属している自分が言うのもなんですが、たくさん技術をもっているんです。逆に多すぎて回しきれていなかったり、フォローできる人間がいなかったり、宝の持ち腐れ的な部分があるようにも感じる。実際、「NECにはこんな技術ありますか?」と問われたとき、あるにはあっても、その技術が将来的に儲かる広がりがあるかが重要だったりして、単純に「こういうのあるから使ってみる?」とは言えない。紹介するからには将来性がないとダメだし、紹介した結果、いくら儲かるのとかいう縛りがあるわけです。個人的にはいっぱい応えてあげたいのですが(笑)、歯がゆいですね。
縦割りに関しては、僕らの部署自体が「クロスインダストリー事業開発部門」という名前で、全社横断の部隊なんです。NEC社内のいろんな技術や研究要素、自治体との繋がり、営業もいますので、基本的にはどこの部の組織もどこの部門も協力体制にはなってくれる。ただ、やはり「それって本当にビジネスの可能性あるの?」「10年も待っていられないよ」と言われる可能性は多々あるので、僕がうまくコミュニケーションをとって懐に入ってやっていこうと。僕らの力量的なところで、共創の場にNECの価値を提供できるかが変わってくるとは思っています。
──なるほど。何が生まれたら須藤さんとしては「成功」ですか? 須藤: 企業の立場で言うと、売り上げが上がったら評価されますよね。それが例えば今年度なのか、中長期的な5年後なのか、10年後なのかというのは別として、正直、数字を上げないと。部門メンバーの人件費や給料もあるし、ビジネスライクな数字の達成というドライな側面はどうしてもあります。
一方、僕個人は、当事者として考えたい。「孤独・孤立」というのは、もしかしたら自分も10年後、20年後に陥るかもしれないし、そのときにアートコミュニケーションで孤独・孤立が改善されるのであれば、自分もそこに頼りたい。その結果、自分に役割ができたり、社会との繋がりができたりしたら、素晴らしいなと。それを今つくろうとしているのは、すごくやりがいがあるし、モチベーションが上がります。今6歳の息子が大きくなってから、「これ、パパがつくったやつなんだよね」と言いたいですしね(笑)。
スクリーンショット 2023-11-17 14.34.42.png 630.77 KB NEC 須藤弘康さん ──福本さんはコミュニティデザインの第一人者ですが、今回OSIROがツールとして導入された前後をコミュニケーションの観点で見て、どのような違いなどを感じられていますか。 福本: 第一人者ではなく、地味で地道な活動を続けてきただけです(笑)。その視点からですと、OSIROの得意なところとそうではないところがあると思うのですが、いいところは、関わっている人たちが明るくなる面ですね。本来アカデミックに、そしてプロジェクトベースで事業としてかっちりやっていくものを、かなり柔らかくしてくれる。これはすごいと思います。
──ありがとうございます。他のコミュニティではどういうツールを使われていらっしゃいますか。 福本: 実はITやWebプログラミングが得意なので、自作しちゃうんです。コロナ禍のときに、なんでもオンラインでという雰囲気でしたので、クローズドな交流コミュニティをつくって、みんなのやり取りを見えるようにしました。お互いのやっていることやつくった作品を覗けるだけでも、学生たちは「あそこ元気だな」「私も頑張ろう」という雰囲気や気持ちが出てくるからですね。
とはいえ、ある程度対面が許される状況になりましたので、オンラインのみに頼ることなく、リアルなコミュニケーションの場とそれを補完するオンラインコミュニケーションという視点で使い分けてやっています。
一方で、コロナ禍を通して遠隔の伝え方とリアルの大切さの両方をみんなも感じているかと思うのですが、リアルとオンラインが交わるところをきちんとデザインしないと双方にとって良くないなと感じる点もありますよね。共創拠点などの大人数が活動するプロジェクトでは、活動的な人がいないとお互い空気を読み合って待ちの姿勢が発現しやすいので、自らが接点になろうと毎週に近いぐらい、東京藝大のラボに顔を出して騒がしくしています。
──なるほど。実際、オンラインの部分のコミュニケーションはどうですか。 福本: OSIROのツールとしては、データが見えるし、良いところがたくさんあると思います。一方、これは「共創拠点」側の難しさなのかもしれませんが、組織を背負った発言ということに対して敷居の高さがたぶんある。やはり「個」としての参加というのがないと、モチベーションが続きにくいと思うんです。そこを促していきたいのだけど、「発言はこれでいいのかな」とか「もっとちゃんとした発言をしないといけないんじゃないか」と考えている方が多いと感じていて。自分みたいな立場の人間が、少し抜けたぼんやりとした投稿をした方がいいのかなとか思い始めています。皆さんにも助けて欲しいです。
──須藤さんはOSIROのツールについて、今どういうふうに使われていますか? またこういうふうに使っていきたいなど思われていることはありますか。 須藤: 「共創拠点」という観点で非常に重要なツールだなと正直思っています。38団体が参画しているわけで、普通に何もアピールせずにそのままいても、たぶんそれなりに何かが生まれ何かが解決できるとは思うんですよ。ただ、僕はNECが3社目で、「はじめ」ってすごく重要だと思っていて。一発、何でもいいからかますことによって(笑)、「NECに須藤という奴がいる」と思わせられれば、作戦的には成功かなと。「元気そうな人だったな、須藤さんって」とみんなの記憶に残っただけでも、何をするにしても優位になれるのではないかと思うんです。
そういった意味でも、「この指とまれ」のテーマでは「本当にこれ書いていいの?」というぐらいの内容を書きました。「このプロジェクトのわからないことを正直に聞こうぜ」みたいなテーマだったんです。みんな知ったかぶりしながらそのままにしてしまうケースが多いから、本気でプロジェクト化したいのであれば、そういう場所をつくってもいいのではないかと思って。参加してくれた8、9名ぐらいの方々とも個別に繋がりができて、やってよかったですね。
あとはひとりでも多く、恥ずかしがらずに、「いいね!」を押すだけでも全然違うと思う。「いいね!」する人も書き込む人もだいたい決まってしまうので、一歩勇気を振り絞ってほしい。そうすれば新しい繋がりができますし、そういった意味で良いツールだと僕は思います。
兼政: 私の場合、自治体が公式に使うものは限られるので、OSIROについては個人のスマホで使っています。それで、お名前だけ見てもご本人をあまりイメージできないので、なかなか参加しにくいのはちょっとあるかもしれません。今、こうやって須藤さんのお話しを聞いていくうちに、須藤さんが何か立ち上げる際には「絶対おもしろそうだから行ってみよう」という気持ちにもなりました。親近感と言ったら変ですけど、こんなにお話ししやすくなるとは思いませんでした。
よく行政では何か新しいことをやる時には検討委員会をつくるんです。ただ、どうしても検討委員会のメンバーには各種団体の代表の方が多くなりがちで、若い方や女性が少ないのが現状です。しかし、OSIROでは「この指とまれ」のようなところでいろいろな方の積極的な意見や具体例を聞けるし、議論がおもしろく闊達になる。これを行政での施策の検討に活かせていけたらなと考えています。
稲庭: 確かにツールはコミュニティ形成において、とても重要だと思いますね。とびらプロジェクトでも、どのようにITのツール、オンラインのコミュニティを醸成していくかでリアルのコミュニティも変わっていくということを実感していたので、それをどうハイブリッドに組み合わせていくかは今後の鍵になるかと思います。
──ありがとうございます。最後にこの共創拠点をどんな存在にしていきたいかも含め、座談会の感想をお願いします。 福本: 一番はコミュニティの考え方ですよね。たぶん、これまで考えてきたものとは違う発想になる。分断されてきたものを、アートを中核にすることで、再度壁をとかしていきたい。そういうことが各地域でできるようにしたい。次の時代の当たり前をこの「共創拠点」でしっかりつくっていきたいです。そして、須藤さん、いつも盛り上げていただいて感謝しています!
須藤: (笑)とんでもないです。
福本: NECさんのいろんなシステム、社会実装に対する考え方に共感しているので、ぜひお力をお貸しいただければと思っています。
須藤: ぜひとも。福本さんだけでなく、今後皆さんと実際にお会いしたときに、緊張感なくいろいろと聞きやすい環境になって、とても嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。
兼政: 本当ですね。OSIROを通して文字でいろんな人の話を聞いていましたが、今日それが人間の声に変わり、強弱だったり喜怒哀楽みたいなのがプラスされたので、今後がますます楽しみになりました。
稲庭: OSIROをどう使っていくか、それをどのようにリアルに繋げていくのかを考える、とてもいい機会になりました。ありがとうございました。
スクリーンショット 2023-10-12 14.47.30.png 2.26 MB ▷【前編】~大学、文化施設、企業、自治体の代表者による座談会~「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」への期待とそれぞれの目標 text by 堀 香織