【OSIRO Dialogue】講談社、マガジンハウスに聞く「オンラインコミュニティで起こす読者との共創」
OSIRO Dialogue – 対談まとめ
世の中がどんどん便利になり、多種多様な情報コンテンツが簡単に手に入る時代になりました。その反面、本当に読んで欲しい相手にコンテンツを届けることも、本当に欲している情報を得ることも難しい時代になってきました。そんな中、新しいメディアの可能性を切り拓くパイオニアがいます。講談社「mi-mollet」、マガジンハウス「Tarzan」は2020年コロナ禍に先駆けてオンラインコミュニティをスタートし、いま確実に雑誌の新しい在り方を体現しています。両媒体ともにコミュニティに求めるのは「メンバー数ではなくコアな読者とのエンゲージメント」。そんな時代を切り拓く2つのコミュニティの運営リーダーに実際の運営からオンラインコミュニティのポテンシャルまで、さまざまなお話をお伺いしました。Vol.06 川端里恵さん講談社「ミモレ」編集次長・ブランドマネージャー髙橋優人さんマガジンハウス Tarzan編集部 デジタルビジネス ディレクター対談動画フルバージョン | 2021/11/19 MAH01225.jpg 2.15 MB〈目次〉・コミュニティを始めた経緯・読者と編集部の距離を近づけるコミュニティの力・読者との「共創」を生み出すための工夫・正解のないコミュニティ運営へのチャレンジ・これからコミュニティを始めたいと思っている方へ
コミュニティを始めた経緯
高田(聞き手):オンラインコミュニティを始めた理由やきっかけを教えていただけますか?講談社 川端さん(以下 川端):2020年3月にオンラインコミュニティをスタートしたのですが、2020年はmi-molletが創刊5周年となるタイミングで、5周年を記念して何か新しいことをやろうと考えていて、コミュニティを立ち上げることにしました。コアを再確認しようという目的が大きかったと私個人的には感じています。mi-molletが好きで関わりたい、手伝いたいと言ってくださる人たちにもう一度出会い直して、自分たちの記事が生活の中のどんなシーンで役に立っているのかを再確認したいという欲求が、コミュニティをつくった大きな理由でした。マガジンハウス 髙橋(以下 髙橋):Tarzanは創刊から今年で35年経つんですね。今はTarzanという雑誌自体がブランドとして存続していけるかどうかという過渡期だと思っていて、何か変わらなくてはいけない、新しいことに挑戦しなくてはいけないという気持ちが強かったと思います。2018年からTarzanのWEB版がスタートして好調だったのですが、雑誌とWEBがあることがスタンダードな世の中になってきた時に、Tarzanとしての新しい挑戦の形はどこなんだろうと考えて、「CLUB Tarzan」という無料のメルマガ会員組織を立ち上げました。思いの外、会員が好調に集まり、次のステップをどうしようかという話になって、読者同士をつなげられる場所ってどういう場所だろうと考えていた時にちょうど高田さんにお会いしたんです。今思うと運命的な出会いでした。オンラインコミュニティは読者の方と編集部、読者同士がコミュニケーションをとり、共創していく場所だと教えていただき、これがまさしく今Tarzanのやるべきことなんじゃないかと思い、コミュニティを始めることになりました。MAH00024.jpg 1.95 MB▲「脱げるカラダ」と称した、読者対象の誌面オーディションを実施してきたTarzan。
読者と編集部の距離を近づけるコミュニティの力
高田:コミュニティを始めたことによって、読者との関係はどのように変わってきましたか?川端:〔ミモレ編集室〕は、月額5,500円で150〜60人の方が参加してくださっているのですが、日々メンバーさんと接していると、どんな方々なのか見えてくるんです。"読者の解像度が上がった"という言い方をしているのですが、読者をすごく具体的に思い浮かべて記事を作れるようになったことは、想像以上のメリットだと思っています。髙橋:僕らもmi-molletさんに近しいと思います。本誌、WEBとメディアをやっていますが、コミュニティでは、本誌の最新号がメンバーのみなさんの手元に届くというサービスの形をとっています。最近は、最新号の感想をコミュニティの中で募集しているのですが、みなさんすごく細かいところまで読んでくださって、たくさん感想を書いてくださるんです。今まで電子版で読んでいた方が雑誌が手元に届くことで、より細かいところまで読んでくださって、そこはプラスアルファのことができたんだと思います。コミュニティの中で盛り上がっていたサウナをTarzan本誌で取り上げたり、そこにコミュニティのメンバーに出演してもらったりなど、メディアの新しい作り方のサイクルがひとつできている気がしています。高田:コミュニティがコンテンツや記事作りに活かされているんですね。他にコミュニティをやっていてよかったという部分は何かありますか?川端:WEBメディアでは広告収入が大きな収入になるので、クライアントさんとお話する時に、“どういう人達が、どういう生活の中で、どういう商品を欲しているのか”、“どんなことに悩んでいて、何を楽しみにしているのか” が手を取るようにわかるようになると、提案にもより具体性が出ますし、その辺のメリットも大きいと思います。髙橋:もちろん広告的な収益というのは大きくありつつ、僕個人的には、すごくプライベートな話なのですが、ちょうど昨年の夏頃、メンバーと一緒にランニングして、サウナに行って、翌週には山に登ってと、プライベート込みでコミュニティのメンバーと一緒にTarzan的な価値観を楽しむことにジョインできたんですね。働きながらも楽しみつつやっていく感じというのでしょうか。自分の中でのそういう広がりができたのは嬉しかったですね。
読者との「共創」を生み出すための工夫
高田:コミュニティではメンバーさん同士の活動も盛り上がっていると思いますが、何か工夫されていることや、盛り上がるきっかけはありますか?川端:これまでもイベントに来た読者さんたちが仲良くなるのは感じていました。きっと同じメディアが好きな人同士は、つながったらいくらでも話すことがあるのだろうと想像していたので、その辺は特に心配ぜずに自然にそうなったと感じています。特にメンバー主催のイベントをやり始めてからが転換期だったように思います。高田:メンバーさんがイベントを主催するきっかけを作るのは結構難しいと思うのですが、その辺りは何か工夫などありますか?髙橋:すごく意識していたわけではないのですが、コミュニティを先導できそうなメンバーさんが数名いらしたので、そういう方々にお声がけしたことがありました。その方が興味のあることが際立っていたとしたら、「今度それをご自身でもオンラインイベントを開いてみませんか?」というようなちょっとした声がけです。そういう後押しからやってみた結果、意外と反応が良くて、もっとやってみようというサイクルに入ると、そこから他のメンバーにも広がっていくような感じです。そのきっかけとなる人が1,2人見つけられると運営側としてはすごく心強いですね。高田:コミュニティの中でそういうきっかけになる人をいかにサポートしていくかということですね。川端:毎月の編集ライティング講座や編集会議の時、最初は割とこちらが一方的に話をして終わりという感じでした。でも、だんだんとグループに分かれて話し合っていただく機会を設けたりするうちに、メンバーさん同士でお互いの個性や得意なことがわかってくるようになりました。誕生月が一番近い人がリーダーというように、リーダー役がランダムにあたるようにしています。そうすると、意外と仕切りが素晴らしいとか、積極的に手をあげるタイプではないけれど、チームをまとめてくれたりと、スポットライトがあたるタイミングをこちらから作ることができるようになります。髙橋:オンラインコミュニティだからという訳ではなく、日本人は基本的にみんなシャイなので、自分から目立とうとする人はあんまりいないんですよね。でも、想いを持っていらっしゃる方はやっぱりいらして、そこを汲み取って後押ししてあげるとうまくいくことがありましたね。
正解のないコミュニティ運営へのチャレンジ
高田:実際にコミュニティを運営していろいろな課題や難しさがあると思います。紙やWEBメディアの編集と、コミュニティの運営、これはある意味コミュニティの編集とも言えると思うのですが、これらの違いについてお考えはありますか?川端:編集者は、逆算型というか、あらかじめ締切と成果物が決まっていて、締切までに求められる成果物を出すために遡って段取りする係みたいなものじゃないですか。でも、コミュニティはやっぱり人なので、計画通りにスムーズに進んだらそれが良いってことではないというのが難しいところだと思います。髙橋:僕もまさしくそういうところは大きいですね。成功ばかりじゃないわけですよね、コミュニティの運営って。メンバーの求めていることが必ずしもこちらの予想通りではないところがおもしろくて、逆にそのイレギュラーを楽しめるかどうかは、コミュニティ運営に関わる人にとって重要なポイントかなと思いますね。高田:イレギュラーな部分、想定外の部分をいかに楽しめるかというところですよね。他にすごく難しいと思っていらっしゃるところはありますか?髙橋:難しさには大きく3つあって、人的リソースの問題、収益的な問題、メンバーの満足度の問題があると思っています。人的リソースは、僕以外にもう2人、運営にメインで携わっている者がいて、運営会議には編集長、副編集長という編集部のメンバーも加わっているのですが、3人ではなかなか回りきらないところがあります。今は立ち上げの当初よりも若干オーバー気味なので、都度力の入れ具合を調整し、強弱をつけてやっています。収益は、会費をこの7月に少し下げたんです。その代わりにオンラインイベントを有料にしますという形式にしました。会費に加えて、メディアならではの広告収益、TEAM Tarzan、Tarzanとタイアップしてくださるクライアントさんがつくパターンもあるので、そこはメディアがやっているコミュニティならではだと思います。そのバランスをうまくとっていくことが必要です。最後に満足度は、会費が下がったから良い、これだけのサービスをしているから良いということではなくて、メンバーさんが何に期待してコミュニティに入ってくるかが重要だと思っています。TEAM Tarzanに入る方には全員面接をさせていただいていて、前回は80人くらいの方を面接させていただきました。その中で短い時間ですが、TEAM Tarzanはこういう価値観でこういう場所なんですよということを改めてお話して、その上で入っていただくという合意を得る場を設けています。これらの3つの柱をバランスよく回していくことが大事なのかなと思います。川端:最初の頃は5,500円に見合うだけのコンテンツや、メンバー限定で参加できるイベントをたくさん提供しなくてはいけないと思っていました。でも、それをずっと続けられないですし、満足度がゲストやイベントに左右されてしまうので、途中からはメンバー同士の交流に価値を見出してもらうほうが良いんだと思うようになりました。
そこでメンバー主催のイベントもできるようにしたのですが、そうするとメンバー主催のイベントの満足度が高かったりするんですね。MAH01343 のコピー-2.jpg 1.14 MB
これからコミュニティを始めたいと思っている方へ
川端:コミュニティを立ち上げて、人が集まったからには責任をもってやらなくてはいけないということがあって、実際すごく大変なので、すぐにでもやった方が良いですという感じではないですが、なかなか得られない体験ができると思っています。編集者として、企業に勤めている人として、同じ趣味の人と会ったり、同じことで盛り上がることができる場が持てるって大人になってなかなかないことだと思うので、関われたら関わった方が “楽しみが増える” と言う意味で幸せだろうなと思います。大変なこともあるけど、“今日はコミュニティのイベントがある” というのは、私にとって楽しみのひとつなので。そういうことが日々の仕事とは別にもう一つできるのは良いなと思っています。髙橋:メディアをやっている人からすると、そのメディアを読んでくれる人と直接つながれるのはすごく貴重なことで、TarzanにはTarzanを好んで読んでくれている方が多くいます。コミュニティをやるとなった時にはファンの熱量が大事だとよく言われますが、そういったところに対してはメディアがあることはすごく大きい利点だと思います。なので、いろんなメディアがそれぞれのファンコミュニティを持つ時代が来たらおもしろそうだなと思って、僕は楽しみにしているんですが。運営者としての素養というのは、いろんなイレギュラーなことだったり、普段関わらないような読者と直接コミュニケーションを取ることを楽しめる人なのかなと思います。オンラインコミュニティは終わりがないので、生き物を相手にしているかの如く、元気がなくなったり元気になったりというのに、根気よく見つめ合って、ともに歩んで行ける人が良いのかなと思います。MAH00441.jpg 999.16 KB
***川端里恵 (かわばたりえ) 講談社「ミモレ」編集次長・ブランドマネージャー1979年生まれ。2002年立教大学卒業後、講談社入社。広告部、「with」「VOCE」「FRaU」、デジタル部、雑誌マーケティング部、新雑誌研究部など、女性誌のWEBサイトリニューアル、新雑誌創刊なども経験し、現ウェブマガジン「ミモレ」編集部へ。オンラインコミュニティ〔ミモレ編集室〕のディレクション、WEBライティング講座の講師を担当。Podcastにて本紹介のラジオ「真夜中の読書会~おしゃべりな図書室」も毎週配信中。髙橋優人 (たかはしゆうと) マガジンハウス デジタルビジネス ディレクター1992年生まれ。2015年、早稲田大学卒業後、マガジンハウスに入社。『Tarzan』編集部、『Hanako』編集部、マーケティング局宣伝部を経て、現職。TEAM Tarzan運営リーダーとして「読者と編集部、読者と読者がつながる、Tarzanらしい新しいフィットネスライフの提案」を目標に活動。▼〔ミモレ編集室〕の活動についてはこちら好きを伝え、つなぎ、つながるコミュニティ ▼ TEAM Tarzanの活動についてはこちら"フィットネスインスピレーション"を得られるコミュニティ
『OSIRO Dialogue』コミュニティープロデューサーによる、コミュニティダイアローグ日々コミュニティ運営者と伴走するコミュニティプロデューサーが何より大切にしていること、それは「ダイアローグ」。 コミュニティオーナーが本気でやりたいことを理解し、 どうやってコミュニティで実現するかを共に考え、伴走します。このシリーズではそんな一コマをシェアしていきます。
OSIRO資料ダウンロードはこちら 高田 和樹コミュニティコンサルタント・プロデューサーアパレル、大手メディア運営企業、外資系研修会社等を経て、プロのカヌー選手として国内外を転戦。アスリートの傍ら、オンラインコミュニティ黎明期の2010年代からコミュニティプロデューサーとして活動開始。会員組織の活性化はもちろん、コミュニティを起点とした新規ビジネス創出を得意としている。理論だけでなく、自らコミュニティを運営してきたリアルな成功、失敗体験に裏打ちされたアドバイスで大手出版社、メディアコンテンツのコミュニティDXを推進。SNS運営やPCのセッティングまで「コミュニティ成功のためならできることは何でもやる」のが信条。最近の趣味は焚火。以来、コミュニティと薪に火を着け続けている。Text: 村山 愛津紗 / コミュニティアドバイザー・ライター
【対談】コミュニティマネージャーが実践する『居心地の良いコミュニティづくり』
コミュニティ熱量研究所 – 対談まとめ
「コミュニティxデータ」で “所長” ことデータサイエンティスト鈴木がOSIROユーザーのリアルなコミュニティ運営に迫る『コミュニティ熱量研究所』。コミュニティ運営の成功の裏には “コミュニティマネージャー” と呼ばれる人達のたゆまぬ努力があります。オーナーが兼任するケースも多くありますが、今回は現役でコミュマネとして活躍するWasei Salon長田さん、Letus水谷さんをゲストに迎えコミュニティマネージャー視点から見るコミュニティ運営を伺いました。対談 Vol.04長田涼さん / Wasei Salonコミュニティマネージャー水谷明日香さん / Letusコミュニティマネージャー対談動画フルバージョン | 2021/09/30『Wasei Salon』〜 これからの“働く”を考えるコミュニティコミュニティ開始日: 2019年8月参加費:一般 1,650円・学生 825円 / 月(税込)メンバー数:開始時28名 – 9月対談時点80名『Letus』〜 投資のスクールで得た経験知を仲間と共有し学びを深めるコミュニ ティコミュニティ開始日: 2017年7月参加費:5,500円 / 月(税込)メンバー数:開始時10名 – 9月対談時点220名MAH08912-2.jpg 1.67 MB〈目次〉 ・コミュニティマネージャーになった経緯・前例がないコミュマネのチャレンジ・居心地の良さを創るための取り組み ・メンバーのアクション力を引き出す工夫
コミュニティマネージャーになった経緯
オシロ鈴木(以下、所長) : まず最初にお二人がコミュニティマネージャーになった経緯を教えていただけますか?長田 : 僕は、Wasei Salonがあったところに入ったというわけでなく、Wasei Salonの主宰者で株式会社Wasei代表の鳥井さんと出会い、彼の中でこういうコミュニティをつくりたいという構想があって、それを相談いただき、じゃあ一緒にやろうとなって、立ち上げのところからご一緒させてもらいました。それで、結果としてコミュニティマネージャーになったというのが、3年半くらい前の話になりますね。水谷 : 弊社はもともと投資を学び合う場所ではあったので、コミュニティのような人が関わる場所はいくつかあったのですが、オフラインで少しやっているだけで、今みたいなLetus主体ではなかったんです。4年くらい前に、弊社の代表とつながりがあったコルクラボさんがいろいろと活動をされていて、OSIROというシステムでやっていると教えてもらい、ここだったら自分たちが実現したいコミュニティのスタイル、オフラインとオンラインを掛け合わせた場所を作れるんじゃないかということでコミュニティを立ち上げることになりました。当時、コミュニティ事業はなかったのでどこの部署がやるの?となった時、広報部で私が携わることになりました。
前例がないコミュマネのチャレンジ
長田 : コミュニティの価値を自分たちで描くわけじゃないですか。そのために具体的にどういうことをやってきたのですか。水谷 : 当時は模範となったコルクラボさんの形があって、"コミュニティを育て、人が集まり、熱量が高まると、また人が集まって居心地の良い場所になる"ことが、最終的に企業としての価値、ブランディングの向上につながるのではと感じていました。なので利益との兼ね合いは一旦度外視して、まずは居心地の良い場所、人が集まる価値の高い場所をつくろうと考えてやっていましたね。長田 : 今はコミュニティの事例が増えたので、いろんな情報がインプットできるようになりましたが、4年前はそもそも情報が全然なかったじゃないですか。その中でコルクラボさんという見本となるコミュニティがいたのは結構大きいかもしれないですね。水谷 : 長田さんが3年半前にWasei Salonに参画された時は、初のコミュニティマネージャーだったわけですよね。長田 : そうですね。当時は周りもコミュニティマネージャーはあまりいなかったですね。コミュニティーオーナーは増えてきた印象があって、、ホリエモンさんや箕輪さんのようなインフルエンサーの方がオンラインサロンを生み出していくっていう流れはきていましたね。コミュニティマネージャーとして名乗っていた人は数える程しかいなくて、コミュニティマネージャーってみんな何やってるの?みたいな感じで。コルクラボさんみたいにコミュニティとして参考にできるものはたくさんあったのですが、コミュニティマネージャーがどう動くかみたいな話は全然可視化されていなかった。水谷 : 私もコミュニティマネージャーとしての立ち振る舞い方が全くわからなかったので、OSIROさんに手取り足取り教えてもらっていたのを覚えています。本業では"スクールと生徒さん"という1対1の要素がメインなところから、生徒さん同士を繋げる形をつくる必要があるので、私たち運営も参加する生徒さんも文化形成が大変でした。主体性を発揮し、"学ぶことが楽しいんだ"という文化をどう浸透させていくかというのは、運営の立ち振る舞いとしてかなり意識していたなと思いますね。私たち運営からの答えを待つのではなく、発信することやイベントを主催することを楽しんだり、自分が学んだことをアウトプットすることで反応が返ってくるという連鎖をコミュニティの中でどう生み出すのかは結構考えたと思います。そのために、最初に入ってくれたコアメンバーと密にコミュニケーションをとって、一緒に企画する取り組みをよくやっていました。
居心地の良さを創るための取り組み
所長 : 居心地の良いコミュニティづくりというテーマに対して、どういう人を入れていくか、どうサポートするかは大切な部分だと思っています。Wasei Salonさんは30名くらいからコミュニティをスタートし、今は80−100名くらいの方で安定しています。 "どういうタイミングで人を入れていくか"はすごく大事なポイントだと思っていて、Wasei Salonさんは毎月メンバーを入れているところが特徴的ですね。Letusさんは、2019年3月くらいから会員が一気に増え、2年以上200名をキープしています。2,3ヶ月に1回、新規メンバーを入れるという集客方法をされていますね。▶︎ Wasei Salon: 3つのポイントと文化長田 : 人を増やしたいというのはあまり思っていないです。それよりも、いかにWasei Salonの価値に共感した人がちゃんと集まってくれるかということを大事にしています。入会は月1回招待する形をとっていて、招待する方々は3つの条件を満たしている方に限定しています。1)事前登録ページから登録してくれた人2)事前登録後のアンケートフォームに回答してくれた人3)Wasei Salon主催のイベントに参加したことがある人この3つ目のハードルがめちゃくちゃ高い。この条件でやっていけば、本当にWasei Salonを大切にしてくれる人たちが集まってくれるという感覚があります。入会のハードルを下げたくないというのは、僕たち運営がいつも考えているポイントです。なぜなら、(入会条件が多少厳しくても)こっちの方が結果としてみんな幸せだよねということをすごく感じていて。よく聞くようなコミュニティで起こるエラーは、うちでは1回も起こっていないぞと。入り口設計のところであれだけこだわってやってきたからだなと思っているんです。主催のイベントでも、Wasei Salonについて簡単に話をさせてもらいますし、Wasei Salonの空気感を体験してもらう読書会なども開催して「こういう人たちがWasei Salonにいるんだ」「こういう空気感で活動できるんだ」ということを感じてもらい、コミュニティに入ってからも馴染んでくれているので、そこに大きなポイントがあるんじゃないかと感じていますね。 ▶︎ Letusの集客:学びと共有の場所水谷 : うちの場合は、広く一般の人に入ってもらうというよりも、学校がまずあるので、母体となる学校に通っている方をコミュニティメンバーの対象としています。入会の時は、スクールの通学状況、なぜ学びたいのかというアンケートをしっかりとるようにして、入ってもらっています。それを2,3ヶ月に1回というスタイルでやっています。最初の2年間は招待制で、こちらからお声がけをして特別会員として入っていただく形でコミュニティをしっかり作り上げ、その後スクール生が希望すれば誰でも入れるように切り替えて、そのタイミングで人数がぐっと増えた感じですね。所長 : 卒業生の方がコミュニティに入る一番の動機や目的はどのようなことなのでしょうか。水谷 : 大きく2つだと思います。まずは学び続けられる場所を求めている。スクールを通してしっかりと学んでいても、実践の場に行くといろんな壁にぶつかるので、それをコミュニティに属して解決するイメージですね。あとは、純粋に投資やお金のことについて話せる場所がないので、気兼ねなく話したいということ。お金や投資のことって思い切って話せないですよね。運営の工夫としては、私たちが運営として説明会や交流会をするのではなくて、メンバーに一緒に入ってもらって、運営サポートメンバーと、私と、新規メンバーと、という感じで一緒に交流会や説明会を運営し、しっかりとコミュニケーションをとる場をつくるようにしていますね。
メンバーのアクション力を引き出す工夫
所長 : リアルな数字になるのですが、お二人のコミュニティの解約率のデータもお見せしたいと思います。ちなみにOSIROのコミュニティの中で解約率の平均が月に7-8%です。Wasei Salonさんの場合は、平均の解約率が4.5%。居心地の良いコミュニティになっていることが数字にも出ています。Wasei 解約数.png 798.05 KBLetusさんは、会費は月額5,500円なのですが、それでも解約率が3.9%。こちらも低い数字になっています。継続して学ぶコミュニティになっているように思います。Letus解約数.png 760.43 KB先ほど、メンバーの方に主体的にどう動いてもらうかみたいな話があったと思うのですが、OSIROではメンバーのアクション量を示す指標を「熱量」と呼んでいます。コミュニティのアクションは、イベントやブログ、チャットなどいろんなコミュニケーションがありますが、そういったアクションを一つの指標にまとめたものが「熱量」です。OSIROでは、この熱量が200あるとコミュニティがとても盛り上がっている状態としています。Wasei Salonさんは200くらい。中でもイベントがすごく多くなっています。Letusさんは160くらいなのですが、学びという部分でブログの投稿が多くなっています。長田 : うちの場合は、コンセプトに「これからの働くを考えよう」というテーマをおいています。なので、一見「働く」に関することばかりやっているように思われるのですが、実は「働く」というテーマをど真ん中においたイベントはあまりないんですよ。"自分が納得できる「働く」を実現するってことは、つまり納得した人生を生きることだ"というくらい「働く」を広く捉えていて、哲学的な問いを考える対話型のイベントがすごく多くなっています。例えば、「今の時代にあう結婚とはなんだろう」とか、「楽しく働くってできるものなのか」とか、価値観の交換みたいな対話が起こるイベントが多いです。運営が主催しているイベントは数えるほどしかなくて、月20のイベントがあるとしたら、たぶん2、3。あとはメンバーの方々がそれぞれ企画してくれています。水谷 : メンバーから声が上がりやすいのは、当初からなのですか?長田 : これは本当にコロナのおかげがあって。以前はリアルの場のイベントが多かったのですが、会場費などの運営コストが高いので、できても月2,3回なんですよね。でも今は無料のZoomがあって、参加者1人になったとしても開催できるような状況なので、前のイベントという感覚ではなくなってきています。「ちょっとみんなで部屋に語りに行こうぜ」「ちょっとおしゃべりしに行こうぜ」みたいな感覚になってきていますね。運営が参加しなくてもコアメンバーの皆さんがサポートしてくれるんですよね。だから僕らは全然心配にならないし、コアメンバーに助けられているところはありますね。水谷 : うちのコミュニティは、自分が動いても良いのかなと探り合うメンバーが結構いて、やりたい気持ちがあるけど動けないというのがあったので、メンバーに役割をつけて、運営サポートメンバーとして動いてもらうことが多いんです。でも、そういったことなく、自主的に動かれるんですね。長田 : そうですね。自分はコミュニティに対してこれで貢献できるという感覚を持っている人が多いんじゃないかという気がしています。そういう人はその人なりのペースでやっているイメージはありますね。所長:今回もあっという間に時間がきてしまいましたが、最後に今日の対談はいかがでしたか。長田 : 今日はありがとうございました。すごく楽しかったですし、コミュニティの違いが見えたのがすごくおもしろかったなと個人的に思っていて、そのコミュニティにはそのコミュニティの色があって、もちろんWasei Salonの僕が言っていることは、もしかしたらLetusさんではうまくいかない可能性も全然あるし、その逆も然りというか、でもそういうのがコミュニティのおもしろさだなと思ったので、またこういう機会でいろんな人と話してみたいなと思いました。水谷 : 本当にお声がけいただいた時は緊張ばかりだったのですが、今日お話させていただいて、自分自身のコミュニティについて改めて4年間の歴史を振り返るきっかけになりました。またモチベーションというか、やってやろうという気持ちにもなりますし、また違うコミュニティの話を聞くことで、より自分たちのコミュニティの文化が強くなるなという気持ちがあるので、本当に貴重な機会をありがとうございます。▼ Wasei Salonの活動についてはこちらこれからの"働く"を考えるコミュニティ ▼ Letusの活動についてはこちら投資のスクールで得た経験知を仲間と共有し学びを深めるコミュニティ OSIRO資料ダウンロード 鈴木 駿介/オシロ株式会社コミュニティ熱量研究所 所長コミュニティ・データサイエンティスト筑波大学大学院、物理物質科学研究科で修士号を取得後、ライオン株式会社に研究職として入社。生産性を考慮した新製品の容器設計、工場での生産導入に従事。実際にユーザーとして、複数のコミュニティに属した経験からコミュニティの可能性を感じオシロに入社。2019年8月に導入されたコミュニティの状態を可視化し、運営者がスピーディーな意思決定を行えるサイドダッシュを開発。熱量研究所の所長としてコミュニティの盛り上がりを可視化する熱量指数を研究、データを活用した新機能開発やコミュニティプロデュースを行なっている。Text: 村山 愛津紗 / コミュニティアドバイザー・ライター