「ウクレレ音ライン 」は、ウクレレ奏者・ベーシストとして活躍し、ヤマハ音楽教室のウクレレ科・ベース科でチーフ講師も務めるトモsun(河野友弥さん)が、2023年にOSIROを導入して創設したオンラインコミュニティです。ミュージシャン、講師の両方で日本トップクラスの評価を得るトモsunは、なぜコミュニティを立ち上げたのでしょうか。その背景と導入経緯、コミュニティへの想いを聞きました。
背景と課題
・ウクレレ、ベースの講師として教室運営を行っていくなかで経験知やノウハウが蓄積されていっているものの、既存の教室運営のシステム上では実行に移せる機会がなかった。
・時間や場所に縛られず、自由なスタイルでレッスンができる教室運営にシフトしたいと考え、そのための場を検討しオンラインコミュニティの導入を決めた。
導入の経緯
・自身が評価されている点、強みとされている点を客観的に分析し、数値による実証を重ねながらコミュニティを設計。
・これまでの教室運営の知見から、コミュニティへの集客経路を確立させ新陳代謝が生まれるような循環をつくる。
導入効果
・YouTubeやInstagramなどSNSによる多面的な宣伝を行なった結果、コミュニティオープン時の集客目標の3倍のメンバーがウクレレ音ラインに参加。
・リアルの教室運営のノウハウをコミュニティから、メンバー同士が気軽にコミュニケーションが取れる「教室ロビー」やセッションができる「アンサンブル同好会」など、ルーム機能を活用することでメンバー同士の交流が活発化。
・2024年10月発売の教則本の制作にあたり、ウクレレ音ラインのメンバーの声を活用。YouTubeでの評判と照らし合わせ、想定読者のニーズを深く理解した教則本が完成
・コミュニティが盛り上がりつつも安定しているため、新たな挑戦に乗り出せている。
事業もコミュニティも、根底にある「想い」がなければ成立しない
トモsunはベーシストとしてミュージカル舞台の音楽やトップアーティストのバッグバンド、レコーディング・ミュージシャンなど多彩な舞台で活躍しているほか、ウクレレ奏者としてもグラミー賞アーティストであるダニエル・ホーとの共演やゲーム『どうぶつの森』アプリ版のレコーディングに参加するなど高く評価されています。
また、ヤマハ音楽教室ではチーフコーチを務め、在籍生徒数が全国1位を記録するなど、日本トップクラスのレッスン力を持つ講師として新任講師の採用や指導・育成にも携わっています。
横浜ハンマーヘッドで開催された日本最大級のウクレレフェス「UkulelePicnic2024」に出演するトモsun
アーティスト、講師としても高い評価を得るトモsunですが、コミュニティ立ち上げにはどのような背景があったのでしょうか。
「コミュニティをプラスのパワーだけがきっかけで立ち上げようと思う方は少数だと思います。現状なにかしらの要因で課題感を持っていて、『それならば自分で動き出した方が早い』と決心してコミュニティを立ち上げる方が多いと思っています。
僕の場合だと、ヤマハ音楽教室の中でも上の立場である「チーフ講師」という立場にいます。レッスンに使用するテキストや教材、システムなどを制作する業務もしていています。しかし、経験値が蓄積されていくにつれて、かなり前から『こうしていけば上手くいく』と思うことがあっても、チャレンジしきれないもどかしさがありました。
加えて、僕はミュージシャンでもあり、個人事業主でもあります。『自分自身で動き出して、より良いものをつくっていきたい』という思いは昔から強くあったんです」
そのようなトモsunにとって、一つの
契機となったのはYouTubeチャンネル「ウクレレレッスンTV 」の開設でした。自分自身で組み立てたウクレレレッスンを動画にし、アップロードしていくと、チャンネル登録者は順調に増加していきます。記事公開時点(2024年11月)で、「ウクレレレッスンTV」の
チャンネル登録者数は8.5万人を突破しています。
「自身のチャンネルに動画を投稿することで、パーソナリティを表現するとともにブランド化にもつながりました。『こういう方法で人に集まってもらって、こういうレッスンをつくっていけば確実に利益が出る』という目算がありましたが、それがYouTubeによって実証され、自信が生まれましたね」
YouTubeチャンネルの成長から自身のレッスンシステムに確証を持ったトモsun。そこで必要となったのは、自身のウクレレレッスンを事業としていくための戦略でした。そこでトモsunが着目したのが、オンラインコミュニティです。
「フリーランスは時間を切り売りしてお金をいただくものです。しかし、稼働単位でお金をいただくような事業の場合は、1日の売上には限界があります。そこから抜け出すためには、いかに1時間あたりの生産性を上げていくか、または
時間や場所に縛られない自由な仕事へとシフトしていかなければなりません。
それを実現していくためには、必然的にWebを活用することになります。そこで武器になるのは、全国区で視聴者を獲得しているYouTubeです。必要になるのは、
集めた人にレッスンを提供し、Web上でも身近にコミュニケーションが取れる『場』。そう考えたからこそ、オンラインコミュニティを立ち上げることには必然性がありました」
事業戦略としてコミュニティのメリットを感じるとともに、トモsunにはコミュニティを通してウクレレを弾く楽しさを教えていくことへの強い想いを持っていたといいます。
「今までの話だと、とてもドライでビジネスライクに聞こえてしまうと思います。しかし、
事業にしろコミュニティにしろ、やはり根底にある『想い』がないと絶対成立しないんです。僕はレッスンに関しては絶対に日本一でいようと10年以上前から努力し、今現在も研究を続けています。その根底には
『ウクレレを通して人の幸せをつくる仕事がしたい』という想いがあります。それさえ揺らがなければ大丈夫だという確信は、実はコミュニティを立ち上げる前からありました」
集客経路を確立し、新陳代謝が生まれる循環をつくる
こうしてコミュニティの立ち上げへと動き出したトモsunは、コミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を導入し、オンラインコミュニティ「ウクレレ音ライン」をスタートします。
ウクレレ音ラインの紹介ページ(https://ukulele-online-lesson.com/about )
スタートにあたり、トモsunはどのようなコミュニティの姿をイメージしていたのでしょうか。
「これについてははっきり決まっていて、
『演奏に高度な技巧を探求し続けるような場とはしないこと』でした。例えば、ピアノやエレクトーンの実力で日本トップ10に入ったら、その方はプレーヤーとして生きていけるでしょう。でも、11人目からはそうはいきません。それが音楽で食べていくという世界で、そういったプロフェッショナルを目指す人たちを教える専任の仕事もあります。ただ、僕はウクレレでそのような領域で戦いたくないと思っています。なぜなら、僕は『ウクレレを通して人の幸せをつくる仕事がしたい』からです。
一方で、そことは違う領域でやる以上は、その人たちよりも音楽的に秀でた『なにか』が必要になります。僕の場合だとそれがレッスン力、特にグループレッスンの力でした。それはグループレッスンの生徒在籍数が日本一を記録したというヤマハ音楽教室での実績にも表れていたので、それなりに評価をいただかなければ出ない結果だと客観的に分析しています。そしてYouTubeを始めて多くの方にレッスン動画を観ていただいていることが実証となり、それがコミュニティを立ち上げるベースの根拠となりました」
このように、トモsunはコミュニティの立ち上げにあたり、
自身が評価されている点、強みとされている点を客観的に分析し、数値による実証を重ねながらコミュニティを設計していったといいます。その上で、コミュニティに参加したメンバーの方々に体験してほしいこと、提供したい価値を考慮し、ウクレレ音ラインの場づくりをしていったといいます。
「僕がウクレレを始めたのも、プロのベーシストとして活動していく中で、あることをきっかけに感じた『しんどさ』からでした。そんな時に不思議と手にとっていたのがウクレレで、弾いてみると『技量を磨かなければいけない』『誰よりも上手に弾かなければいけない』というしんどさがない。
純粋に音楽を楽しめる幸せがあることを、ウクレレで初めて知ったんです。
それまでは、有名なアーティストのステージやレコーディングで演奏し、クレジットに名前が載ることが自分にとっては一番の名誉で幸せなことだと思っていました。しかし、ウクレレを弾いた途端、そうじゃない幸せな音楽体験を味わうことができたんです。
そういった体験をもっと多くの方々に知っていただき、味わってほしいと思いました。
そういった想いが今にも心の芯にあるからこそ、わかりやすいレッスンをお届けしたいと思いますし、そこに競争を生むこともしたくない。
ウクレレを楽しみ、その体験を分かち合う場を創出したいと思ったんです」
しかし、コミュニティ運営は初めての取り組みであり、トモsunにとってもコミュニティへの集客は「前例がなく、未知数だった」と語ります。しかし、
YouTubeやInstagramを活用して宣伝を行った結果、ウクレレ音ラインのオープン時の集客目標の3倍以上のメンバーが集まったといいます。
一方で、コミュニティ運営を始めた後の集客に関しては、トモsunには明確な方針があったといいます。
「先ほどコミュニティには参考がないと話しましたが、実は運営を始めてからの集客は、リアルレッスンとほぼ一緒だと思っています。つまり、
どれだけ生徒さん同士で仲の良いグループでもいつかは必ず解散してしまうものであり、常に新しい方に入ってもらえる経路を用意しておく必要があります。
例えば、8人の合同レッスンをするクラスで全員が仲が良かったとしても、 3〜4年ほど経つとさまざまな事情で辞める人が出てきます。そのまま放っておくと人数は減っていく一方なので、リアルレッスンでは前後30分を体験教室の時間をとり、グループレッスンに入ってもらえるような経路にしています。
こういったことと同様に、人が入ってくる経路が確立されていれば、コミュニティも続いていくと考えています。運営後の集客に感しても無理にメンバーさんを引き止めるようなことをするのではなく、むしろ
YouTubeやInstagramなどでしっかりと集客経路をつくり、新陳代謝がしっかりと生まれるような循環をつくっていった方がいいです」
コミュニティが「凪の状態」だからこそ、新たな海原に挑める
分析と実証を重ねてコミュニティを設計し、初期メンバーの集客にも成功したウクレレ音ライン。実際に運営してみると、コミュニティに参加したメンバーからは数多くのポジティブな反響が寄せられました。特に喜びの声が多かったのは、地方でウクレレを独学するメンバーだったといいます。
「地方に行けば行くほど、ウクレレ演奏者の人口は少なくなります。身近にウクレレを弾いている人もいなければ、ウクレレレッスンをやっている音楽教室もない。そんな方にもまるで
リアルレッスンに通っているような体験をしていただきたいと考えました。そのため、ウクレレ音ラインには僕が持つ教室運営のロジックやノウハウのすべてを注ぎ込みました。
入会した地方在住のメンバーの方々からは『こんなにウクレレを弾く人たちがいっぱいいるんですね。すごく嬉しいです!』という声をよくいただくと同時に、仲間とともにウクレレを弾く楽しみを喜んでいただけていますね」
リアルの場で行われる教室レッスンの楽しさ、教室運営の知見をコミュニティの中で再現し、ただレッスンをするだけでなく交流の楽しさを生み出しているというトモsun。では、メンバーは具体的にどのような活動ができるのでしょうか。
「先ほどもお話ししましたが、教室運営もコミュニティの一つの形なんですよ。
ただレッスンをするだけ、弾き方を習うだけではなくて、一緒に同じ楽器をレッスンする人たち同士でつながりをつくっていくことが大切です。そこで一番大事になるのが、レッスン前後のロビーでの会話です。そこでウクレレ談義や何気ない会話でつながり形成が生まれ、仲間と一緒にウクレレを弾くから、より楽しくなっていくんです。
そのため、
ウクレレ音ラインにも『教室ロビー』という雑談ルームを設けています。そこには気軽に雑談ができて、横のつながりができる喜びを知ってほしいという思いがあります。『ウクレレ音ライン』のコンセプトは
『どこにいても仲間と通えるウクレレ教室』。だから、ロビーもありますし、 音楽室という別の練習部屋や演奏動画でシェアできる部屋もある。このようなレッスン前後でメンバーとつながれるような仕組みをつくることで、身の回りにウクレレ仲間がいなくてリアルの教室に通えないメンバーでも、
仲間とウクレレの楽しさを分かち合うことができる場にしているんです」
このように、ウクレレ音ラインではただレッスンや学びがあるだけではなく、メンバー同士が横でつながることができ、ウクレレを共通項とした活発な交流が生まれています。トモsunはコミュニティの現状を「温かい場所になっている」といいます。
ウクレレ音ラインのスタートから、トモsunの誕生日にはメンバーによるサプライズ動画がアップされるのが恒例になっている
「今は良い意味で、コミュニティが『凪の状態』になっていると思います。実は、コミュニティをスタートしてから1年くらいは運営が大変になるんじゃないかと思っていたんです。しかし、今はメンバーの方々もとても楽しそうに参加してくださっているので、コミュニティとして徐々に完成してきていると思っています。
コミュニティとして凪の状態になっているおかげで、僕は別の海に行くことができる。つまり、新しい挑戦ができるということです。今は新しい海原へ出る船をつくるための木材を探している状態ですね」
トモsunが語る「新しい海原」とは、リアルの場での教室の立ち上げだといいます。
「オンラインコミュニティの存在は僕にとってもとても大切なものですが、やはり将来的には自分自身の教室運営のシステムで、より多くの方にリアルの場でレッスンや交流を楽しめる場を増やしていきたいと考えています。僕は15年ほどで日本一の教室をつくれると思っています。しかし、そのためには時間が必要で、教室をつくるために出血しながら走り続けるための点滴も必要になります。そう考えると今の僕には絶対にコミュニティが必要で、ウクレレ音ラインはかけがえのない存在なんです」
より多くの人に、ウクレレを弾く幸せを体験してほしい
コミュニティの存在が自身の活動の支えとなり、新しい挑戦に踏み出すことができる。ウクレレ音ラインは、まさに理想的なコミュニティ運営の姿となりつつあります。トモsunは身近でもコミュニティがあることのメリットを感じているといいます。
『トモsunの いちばんわかりやすい ソロウクレレ レッスン』トモsun著、ヤマハ楽譜出版刊(2024年)。全国の楽器店、書店で発売中トモsunは2024年10月に『
トモsunの いちばんわかりやすい ソロウクレレ レッスン』を出版しました。本書の執筆や参考曲の構成に当たっても、ウクレレ音ラインでのレッスンやメンバーとの交流が役立ったといいます。
「収録曲に関しては、私のオリジナル曲が2曲入っているのですが、選曲にはメンバーに意見を募り、人気のある曲を採用しましたね。楽譜もウクレレ音ラインのレッスンで使ったものを掲載しているので、出版にあたってはかなり助けてもらいました。
元をたどると、
リアルレッスンやYouTubeで反応が良かったものを選曲し、さらにウクレレ音ラインでメンバーから反応がよいものを最終的に採用したという流れです。やはり、教則本は内容のわかりやすさもありますが、ウクレレを習いたいと思っていている方々が弾きたいと思っている曲を採用しなければ手にとってもらえません。
そういった意味では、今回出版した
書籍はレッスン内容も収録曲も実証に実証を重ねているので、多くの方々に手にとってもらいやすい本になったという確信があります。自分がやりたいという思いだけでは結果がついてきません。だからこそ、
数字やファンの声を基にして客観的に考えていき、その上で自分がやりたいことを落とし込んでいくのが正解だと思ってます」
オンラインコミュニティのメリットは、より近い距離でメンバーの声や反応を確認できること。特に、今回のような教則本の出版の際には、特に想定する読者像の解像度を高めていくことが求められます。ウクレレ音ラインのメンバーはまさに、トモsunが届けたい読者像であり、レッスンや雑談でより深いニーズを理解する場ともなっているのです。
「ウクレレを通して人の幸せをつくる仕事がしたい」という想いを持ち、それを実現するためのビジョンに向かい挑戦を続けるトモsun。ウクレレ音ラインは、講師と生徒という関係性を超えた「仲間」ともいえる存在になりつつあります。最後に、トモsunにウクレレ音ラインの展望についてお聞きしました。
「実際にウクレレを弾いてみるとわかると思いますが、ウクレレを弾いていると、人生が少しだけ幸せになる感覚があるんです。そんな体験をより多くの皆さんと常に共有できる空間をつくり続けていきたいと考えています。急速にウクレレ音ラインを大きくしようとは考えていませんが、まずはもっと多くの方々にウクレレを楽しんでいただけるコミュニティにしていきたいですね」
ウクレレ音ライン
「どこにいても仲間と通えるウクレレ教室」をコンセプトに、月に2回90分のオンライングループレッスンのほか、メンバー同士で交流できるコミュニティ。リアルタイムでのグループレッスン(アーカイブあり)のほか、レッスン後や練習中に浮かんだ疑問を気軽に質問できる「質問広場」、メンバーと気軽に雑談や交流を楽しめる「教室ロビー」などさまざまなアクティビティを用意。ただウクレレを習うだけではなく、メンバー同士の交流し、横のつながりを持つことで「仲間とともにウクレレを楽しみ、シェアする場」を醸成している。
https://ukulele-online-lesson.com/about
トモsun(河野友弥さん)
ベーシストとしてはミュージカルの演奏、アーティストのバックバンド、レコーディングなど、スタジオミュージシャンとして活動中。共演アーティストは、松平健、稲垣潤一、相川七瀬、小柳ゆき、柚希礼音、前田美波里、ソニン、(敬称略)など多岐にわたる。ウクレレでは、グラミー賞アーティスト「ダニエル・ホー」氏と共演。ゲーム「どうぶつの森」アプリ版のレコーディングにも参加。YouTubeウクレレレッスンTVで初心者から中級者にむけレッスン動画を精力的に公開している。
ヤマハ音楽教室のベース科&ウクレレ科のチーフ講師として、全国で使用されるヤマハ音楽教室のテキストの作成に携わる。また、ヤマハ新講師の育成研修も全国区で担当しており、採用試験の試験官なども務める。ウクレレの在籍生徒数が全国1位になったこともある。
ウクレレレッスンTV: https://www.youtube.com/@ukulele.lesson.tv1013
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