2024年11月27日から12月3日までの7日間、東京藝術大学大学美術館本館で東京藝術大学 芸術未来研究場と共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点(ケア&コミュニケーション領域。以下、ART共創拠点)が共同で主催する展覧会「芸術未来研究場展」が開催されました。今回は、本展覧会の様子をレポートします。
「芸術未来研究場」と「ART共創拠点」とは?
“芸術をもって社会に貢献する”
「
東京藝術大学の使命と目標 」を締めくくる一文です。現在、東京藝術大学ではまさにアートの社会実装に向けた産学官の連携プロジェクトが数多く進んでいます。
芸術未来研究場 は「芸術と社会の未来を切り拓く新たなプラットフォーム」として、東京藝術大学の全学横断的な連携を推進するだけでなく、企業・官公庁・他の教育研究機関との連携を強化し、社会の様々な領域におけるアートの新たな価値や役割を増やしていくことを目的としています。
「研究場」という名の通り、社会に開かれたアートを実践し、未来をともにつくっていく場として機能しています。芸術未来研究場では6つの横断領域を定め、その中での「ケア&コミュニケーション領域」の中心的なプロジェクトと位置付けられているのが、
ART共創拠点 です。
ART共創拠点は「芸術×福祉×テクノロジー」の研究により「誰もが孤立しない共生社会」を目指すために創設された共創の場。現在では大学、企業、自治体など41の機関がともに「文化的処方」の開発・実装に取り組み、超高齢社会の孤独・孤立の解決を目指す大型プロジェクトです。
プロジェクト構造図.png 272.22 KB
文化的処方とは? 個々人が抱える諸課題や社会との関係性、地域の文化芸術資源や場所の特性などを踏まえ、アート活動と医療・福祉・テクノロジーを組み合わせ、その人がその人らしくいられるレジリエントな場所やクリエイティブな体験を創り出します。それによって、楽しさと感動を生み出し、心が解放され、人と人との緩やかなつながりや心地良いコミュニケーションを自然と発生させる。個人の対象には、活動する意欲や幸福感の増進および健康状態の回復・予防に係る継続的な効果を、面的な対象には、寛容性や包摂性の向上に係る効果を与えようとする手法・方法・システムと定義しています。 引用:ART共創拠点ホームページより
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「芸術未来研究場展」でのART共創拠点の展示内容
DSC01965.jpeg 2.79 MB 「芸術未来研究場展」は、芸術未来研究場6つの横断領域の今を展示するもの。2023年に続き2回目の開催となった本展覧会では、メイン会場となった東京藝術大学美術館だけでなく複数の会場をつなぎあわせ、大学の内外で取り組まれているプロジェクトを視覚・体験の両面から鑑賞できるものとなっています。
ケア&コミュニケーション領域のART共創拠点では、現在共創により生み出されている「文化的処方」の取り組みや東京藝術大学の教員・学生を対象とする共同研究企画公募事業「I LOVE YOUプロジェクト」に採択された「
文化的処方の種 」を展示しました。今回はART共創拠点の展示内容からピックアップして紹介します。
「文化的処方」の一例として紹介されたのが、ART共創拠点に参画する東京都美術館と、東京藝術大学が主催する「
Creative Ageing ずっとび 」です。Creative Ageingはクリエイティブ(創造的に)とエイジング(年を重ねる)を合わせた造語です。アクティブシニアに向けたプログラムや認知症が気になる方とその家族に向けた鑑賞会「ずっとび鑑賞会」では、アート・コミュニケータが参加者に寄り添い、「つながり」と「コミュニケーション」が生まれ、社会参加の機会を増やす取り組みを進めています。会場では「ずっとび鑑賞会」のパネルとともに実際に鑑賞した作品が再現展示され、鑑賞会の様子を収めた映像も上映されました。
DSC01962.jpeg 2.66 MB 「文化的処方の種」では、地域やそこに住む人々に寄り添ったプロジェクトが印象的でした。その一例として展示されていたのが、千葉県松戸市にある常盤平団地を舞台としたプロジェクト「
ときわ平のコエ・カタチ 」です。
本プロジェクトは、団地住民の減少と住民の高齢化によって引き起こる問題に着目。常盤平団地を拠点として、世代や国籍の異なるコミュニティ同士の境界を超えて、孤独から解放する新たな交流のかたちを創出しています。
着目したのは団地を含む地域住民の方々が持つ一人ひとりの「物語」。常盤平団地に住むライターと演出家、そして地域住民が協働し、能動的な参加と共同制作、対話の機運を作り上げているといいます。
DSC02013.jpeg 3.38 MB もう一つの展示が、「本読みワークショップ:他者の語りを歩く」です。本プロジェクトは、個人が抱えている痛みを伴う物語を他者が語り直すことで、分かちあえないと感じていた自分の物語を他者が語るのを聴き、参加者が抱える物理的・精神的孤立にアプローチする取り組みです。
DSC02000.jpeg 1.45 MB これは心理療法として行われているナラティブセラピー、ドラマセラピーの知見を取り入れ、語りと身体表現が持つセラピューティック(治療的)な効果を用いるもの。
2024年11月には、ワークショップ「
他者の語りを歩く(谷中編)ーカヤバ珈琲ものがたりー 」を実施。これは東京・谷中にある1938年創業の老舗喫茶店「カヤバ珈琲」にまつわる記憶をインタビューに基づき脚本を執筆、参加者が演じることによって、谷中という一つの街の記憶と個人の記憶の交差点を探るものです。
共創により社会に広がる「文化的処方の種」
今回展示されたプロジェクト以外にも、「文化的処方の種」は多種多様な分野で採択されています。美術、音楽、映像、演劇などあらゆる芸術分野と他の学術分野、業種業界、さらには社会課題などさまざまな分野・領域と掛け合わすことで、すでに多くの可能性が見出されつつあります。
そのような「文化的処方の種」の広がりを可視化する展示もありました。こちらはART共創拠点と大日本印刷株式会社(DNP)の共同プロジェクトにより、同社の「みどころキューブ®」を活用、現在取り組まれるプロジェクトの全容が立体的にわかる鑑賞体験を提供していました。
DSC02008 (1).jpeg 2.25 MB 常設展示ではタッチパネルによる表示でしたが、会期中には「みどころキューブ」はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を利用したMR(複合現実)の鑑賞体験「みどころキューブMR型」のイベント体験も実施されました。
また、本展覧会と同時期の 2024年11月27日に千葉県浦安市で開催された
浦安藝大プロジェクト展「アートで浦安市の社会課題と向き合う。」 では、浦安市の埋立護岸やその周辺景色のデジタルアーカイブ化した取り組みを紹介。VR空間上に再現された風景を歩く体験ができる「みどころウォーク」の体験会も開催されています。
このように、ART共創拠点をハブとした大学・自治体・企業・美術館などとの連携による「文化的処方」は、着実に社会実装へと進んでいます。このような共創が生まれるエコシステムの構築はコミュニティが不可欠なものといえます。
オシロ社は今後ともART共創拠点をはじめとするすべてのコミュニティオーナー様、メンバー様がよりよい活動と共創の実現を支援できるよう、今後ともサービスと機能の改善に努めて参ります。
「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」 芸術×福祉×テクノロジーの融合による誰もが孤立しない共生社会の実現を目指す、東京藝術大学をはじめとした大学・企業・団体によるコミュニティ。拠点に参画するメンバーが自由に交流できる共創プラットフォームで、お互いの知見を差し出しあい、新しいプロジェクトの検討と発信が行われる場となっている。https://kyoso.geidai.ac.jp/