【対談】僕らの「熱狂」に共感するエンジニア仲間募集!
[四角大輔(オシロ共同創業者)× 佐渡島庸平(コルク代表兼オシロ取締役)対談] 「才能あるクリエイターを、自分たちの手で世に出したい」「ITを使えば、従来のメディアに頼らなくても、ファンの熱狂をつくることができるはずだ」――。 出版と音楽。ジャンルは違うが、四角大輔と佐渡島庸平の想いは同じだった。そんな2人が出会い、心から愛する作家・アーティストをエンパワーするために共同開発を始めたシステムが、「OSIRO」だ。いま、最も注目されているプロデューサー2人が考える、「オウンドプラットフォーム」の可能性とは。 TEXT BY ATSUKO MUROTANI マスメディアの「軒先を借りる」時代は終わった ――まずは「OSIRO」というシステムが生まれた背景を聞きたいのですが、そもそも「オウンドプラットフォーム」って何ですか。 四角大輔(以下、四角) アーティストや作家といった、表現活動をする「個人」がコアなファンとつながる場所、というのかな。オウンドプラットフォームはざっくり言うと2つの機能をもっていて、1つは「オウンドメディア」。アーティストの活動や、作品を独自に発信するメディアとしての役割です。もう1つは、「オウンドコミュニティ」。昔からあるアーティストのファンクラブの進化型で、ネットに構築したプラットフォーム上でファンと交流し、アーティストをより深く知ってもらい、応援してもらう。課金制で、金銭面でも、アーティストの活動を支える基盤になります。 佐渡島庸平(以下、佐渡島) 四角さんと僕は業界が違うけど、考えてることがすごく近い。ミュージシャンも作家もマンガ家も、作品をファンに届ける方法が、昔といまでは全然違います。いまはインターネットを使って、個人が情報を発信できる時代。一方向でなく、SNSで双方向のコミュニケーションを取ることもできる。個人がエンパワーされるようになって、ブランディングも自分で行える環境が整っています。 四角 そうそう。インターネットが普及する前は、ブランディングってマスメディアの力を借りないとできなかったよね。僕はもともとレコード会社でアーティストのプロデューサーをやっていました。アーティストの音楽活動サポートだけじゃなく、その魅力を世の中に伝えることも重要な仕事で、メディア戦略にいつも頭を悩ませていました。というのも、視聴率が高い番組や発行部数の多い雑誌は、それぞれ独自の「世界観=プラットフォーム」をもっている。こっちが表現したいことと、メディアがやりたいことが違って、しょっちゅう苦い思いをしていました。情報番組に出て知名度が一気に上がったけど、イメージを崩してしまうとか……。アーティストのために、自分でコントロールできるメディアを持ちたいというのは、そのころからずっと考えていました。 佐渡島 出版業界も同じですよ。従来、マンガ家を世に出そうとしたら、大手週刊誌で連載を持たせてもらうしかなかった。デザイナーが自分のブランドを立ち上げるときに、デパートの集客力を借りて店を出すようなものです。でも本当に自分の世界観を伝える店を開くなら、路面店がいちばんいい。ファンだって、より個性を味わえる路面店に行きたいですよね。デパートが従来のマスメディアだとしたら、インターネットは路面店。新しくそういう場所ができたってことです。 四角 音楽業界って、時代の先端をいっているように見られるけど、実際は全然そうじゃない。新しいイノベーションや変化を恐れる業界です。僕はITを使っていろんなことができると早くから感じていて、2000年初頭にCHEMISTRYの「オンラインファンクラブ」に挑戦しました。アナログのファンクラブは効率よく会員数を増やすのにも、運営にも手間とコストがかかる。オンラインで集客、管理することでその課題が解決できると確信していましたが、周囲は大反対。ただ、さすがに少し早すぎました(笑)。あれから15年経ったいまも、正直、業界が大きく変わったとは思えません。 佐渡島 出版業界も同じですね。才能ある人を世に出したいと思ったら、いまはすごくいい時代です。それなのに編集者も音楽プロデューサーも、なかなか新しいテクノロジーを使おうとしない。不便なままガマンする必要なんて、まったくないのに。 四角 僕は2006年くらいから、「これからは、他人のプラットフォームを借りる必要のない、独自プラットフォームの時代がくる」と周囲に話していました。誰も取り合ってくれなかったけど……。 佐渡島 (笑)。早すぎたね。 四角 2009年に会社を辞めてニュージーランドに移住してからは、半自給自足の生活や、ノマドなワークスタイルについて、僕自身が発信するようになりました。そんな自分のために、理想の「オウンドプラットフォーム」が欲しいという気持ちが強くなり、親友であり、クリエティブ・パートナーでもある杉山博一(現「OSIRO」創業代表)にお願いしたんです。その完成イメージは、まさにレコード会社時代に描いていたものでした。完成したのが2015年、「OSIRO」のシステムとしてローンチしたのが2016年。デザインやユーザビリティにこだわり抜いてつくったら、時間がかかってしまいました。 佐渡島 四角さんのオウンドプラットフォーム「Lifestyle Design Camp」ですね。 https://lifestyledesign.camp/ 僕はこのシステムを見て、「まさにほしかったものだ!」と思いました。すぐに共同開発を申し入れ、いま、僕が主宰している「コルクラボ」でも同じ仕組みを使っています。 https://lab.corkagency.com/ 四角 佐渡島さんのような最強の仲間を増やしながら、「OSIRO」のシステムはいまも進化を続けています。 小さな熱狂×コミュニティ=拡散 佐渡島 さっき、インターネットは路面店だと言いましたが、問題は店を開いた後です。もともと大勢のファンを持つ作家なら、Twitterやインスタを始めてすぐに集客できる。でも、知名度の低い新人だと、SNSを開設してフォロワー数ゼロから始めるのって、離島で店を開くようなもの。そこからの集客が、かなり大変です。その点、オウンドプラットフォームは、少人数のコアなファンから始めればいい。最初は20人、30人で、その人たちに作家のことをがっつり知ってもらって、熱狂を生む。そうすると彼ら、彼女らが拡声器になって、100人、200人、さらに1000人、2000人と、熱狂が広がっていくんです。 四角 それってリアルの世界でも同じで、僕がアーティストを手掛けていたとき、まずやることは「コアファン」づくりでした。最初から大金をかけてメディア・ジャックしても、砂漠に水を撒くようなもので、あっという間に蒸発してしまう。僕のスタート戦略はいつも、一点突破。同じ場所にポタポタと水を垂らしていると、そこに深い穴ができますよね。そんなイメージなんです。いきなりマスに売り出そうとすると、必ず失敗します。 佐渡島 コアなファンからすると、「みんなと同じ情報」じゃ、つまらない。恋愛もそうだよね。すごく好きな相手と外でばっかり会うのってよそよそしくて、部屋でも会いたいと思うようになる。アーティストが家で歌っている鼻歌とか、マンガ家が酔っぱらってちょっと描いた絵とか、そういう情報がファンにとってはたまらない。作家やアーティストがプライベートな空間でくつろいだ顔を見せてくれる場所として、オウンドプラットフォームは最適だなと感じています。 四角 あとは、どれだけ人々の話題にのぼるか。人が商品を買う動機って、広告よりも口コミなんですよね。だから広告も、「見た人が誰かに話したくなるかどうか」を基準に、つまりコンテンツとして価値を持つものになるようにディレクションしてきました。 佐渡島 それ、すごく重要ですね。広告で買わせるんじゃなくて、広告は口コミを起こすためのツールだっていう……。そのへん、AKBの総選挙は面白くて、結婚宣言をする子がいて大騒ぎになったり、いつも話題にしたくなる要素がある。きれいにまとまっているものより、なんかひっかかるところがあって、議論が起きちゃうコンテンツのほうが、ネット時代には強いでしょうね。 求む!僕らに共感する、エンジニア 佐渡島 リアルなコミュニケーションで目線やゼスチャーが重要なように、インターネットの世界でも、間合いや見せ方って重要です。LINEを返す速度とか、ほんの一言でも、「イラっとしてるな」とわかったりする。人間の感覚って、本当に鋭いなと思いますね。 四角 だからこそ、僕はインターフェースには徹底的にこだわってきました。僕も佐渡島さんも、ネットを使ってやりたいことが明確にある。テクノロジーには、もっと人の心を動かせる可能性があると信じているけれど、プログラミングやコーディングはできません。ぜひ、僕らの試みを「面白い!」と思ってくれるエンジニアがいたら、ジョインしてほしいです。 佐渡島 僕たちは「OSIRO」を使って、作家やアーティストの「感情」を伝えようとしています。デジタルであっても、人肌を感じるコミュニケーションは可能だと思っていて、それを一緒に追求してくれるエンジニアを探しています。僕らがやろうとしていることに共感するエンジニアに、仲間になってほしいですね。 ――お2人がいまやっていることって、作家やアーティストの魅力をいかにきちんと世の中に伝えるか。動機がすごくピュアというか、クリエイターへの愛を感じます。 四角 僕のアーティスト愛は半端なくて……担当しているアーティストからは、「はいはい、四角さんが自分のこと大好きなのはわかってるから」っていつも言われます(笑)。もともと、僕は子どものころから自分のやりたいことが強すぎて、周囲から浮いちゃう存在だったんです。で、中学生からそんな自分を封印した。日本の学校って、同調圧力がすごいじゃないですか。変わってるヤツと思われると、ボコボコにされる。ずっと大人しくしていて、社会人になってレコード会社に入って、「ここなら自由だろう」と思ってはじけたら、やっぱりボコボコにされた(笑)。 ――大変でしたね……。 四角 そんな中で出会ったのが、アーティストだったんです。みんな、僕以上の目にあってるんですよ。「音楽で食べていけるわけないでしょ」とか、親や周りから百万回くらい言われて、それでも自分のピュアさを必死になって守り抜いてきた。僕は一回諦めたけど、アーティストは血のにじむような想いをしながら、自己表現を貫き通している。そうやってできた曲は、彼ら、彼女らの命のかけらです。だから彼らのことは絶対に守りたいんです。できる限り、彼らの魅力と才能を最大化して、多くの人に届けたい。僕をふくめ、ファンは作品だけでなく、アーティストの「生き方」に憧れるんだと思う。 佐渡島 僕にとっての作家は、自分がなんとなく思っていることを、見事に言語化してくれる人。『ベルベット・ゴールドマイン』という映画で、思春期の主人公がテレビに映るロックスターを見て、「That’s me, That’s me!」と興奮するシーンがあるんです。実際は家族が回りにいて、「こう言えたらいいのに」という妄想になのですが。これってまさに、ふだん僕が作家に対して感じていること。自分の代わりに気持ちを表現し、大事なことに気付かせてくれる作家に対して、心の底から「That’s me!」と叫びたい。その活動をもっと近くで見て、熱狂を広めていきたい。そういう気持ちがありますね。 四角 自身の心にウソをついてる人って、絶対にいいものをつくれません。もちろんテクニックも必要だけど、わきあがってくる感情への「純度の高さ」が根っこにないと、人の心を動かすことはできない。アーティストというのは、究極に人間くさい、ピュアな生き物。その表現を、テクノロジーの力でどこまで拡張できるか。「アート×テクノロジー」。まさにそんな挑戦がしたいんです。 佐渡島 僕らには強い想いがあるから、その分、たくさんわがままを言います。それを「面白い!」と感じて、受けて立ってくれるエンジニアと一緒に、新しい歴史をつくっていきたいですね。 写真左:四角大輔(よすみ・だいすけ)写真右:佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 四角大輔 DAISUKE YOSUMI アーティスト育成、フライフィッシング冒険をライフワークとし、ニュージーランドで森の生活を営み、数ヶ月間は世界中で移動生活を送りながら、『Mac Fan』『ソトコト』『PEAKS』などの連載、Instagram、自身のメディア〈4dsk.co〉、会員制コミュニティ『Lifestyle Design Camp』を通して表現活動を続ける。シンガーソングライター尾崎裕哉のプロデュースに携わり、「OSIRO」や「the Organic」共同代表、「LOHAS International」取締役としても活動。著書に『モバイルボヘミアン』『The Journey 』『自由であり続けるために』など。レコード会社プロデューサー時代、絢香、Superfly、CHEMISTRY、平井堅などを手がけ、7度のミリオンヒットを記録。 佐渡島庸平 YOUHEI SADOSHIMA 中学時代は南アフリカ共和国で過ごす。灘高校から東京大学文学部に進学し、大学卒業後の2002年、講談社に入社。週刊モーニング編集部で、井上雄彦『バガボンド』、三田紀房『ドラゴン桜』、安野モヨコ『働きマン』などの担当を務める。また、小山宙哉『宇宙兄弟』はメガヒット作品に育て上げ、TVアニメ、映画実写化を実現。漫画以外にも、伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など、小説の連載も担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、株式会社コルクを立ち上げ、2016年よりOSIRO共同開発中。