2024年12月10日。オシロ社オフィスで日本最大級のオンライン読書コミュニティ「 Book Community Liber 」(以下、「Liber」)を主宰する書評YouTuber・アバタローさんをお招きしたイベントを開催しました。「本と仲間と出会える、アウトプットの遊びの場」をコンセプトに、メンバー起点の発信が活発に行われるコミュニティはどのように生まれ、またメンバー同士の交流が活性化するためにどのような工夫をしているのでしょうか? 今回は、アバタローさんとともに「Liber」の立ち上げを支援したオシロのシニア・コミュニティプロデューサーの青柳洋平と、現在の運営を支援する松本璃奈が登壇。スタートから現在までの「Liber」の取り組みについて語り合いました。
「本と仲間と出会えるアウトプットの遊び場」というコンセプトが生まれるまで
アバタローさん(※本記事ではアバタローさん「本体」に差し替えております) 書評YouTuber YouTubeにて「難解な名著をラジオ感覚で楽しめる書評チャンネル」を運営中。2020年1月に大ブレイクを果たし、本格始動からわずか1年半で登録者数20万人を突破。2024年12月時点では登録者数48万人を超える人気チャンネルに成長。2021年9月には「本と仲間と出会える、アウトプットの遊びの場」をコンセプトとしたオンラインコミュニティ「Book Community Liber」を立ち上げ。2024年にはコミュニティメンバーとともにライフスタイルブランド「eUNoia essentials」の立ち上げを手掛けるなど、共創の取り組みにも注力している。 著書に『人生を変える哲学者の言葉366』(きずな出版)、『自己肯定感を上げる OUTPUT読書術』(クロスメディア・パブリッシング)がある。 アバタローさんYouTubeチャンネル
松本: まずはオンライン読書コミュニティ「Book Community Liber」(以下、「Liber」)のご説明をお願いしたいのですが、具体的にはどのような活動をしているのでしょうか?
アバタローさん: 「Liber」は2021年の9月に開設したオンラインの読書コミュニティです。
コンセプトは「本と仲間と出会えるアウトプットの遊び場」。読書会のコミュニティではありますが、趣味や最近あった出来事など、読書以外のさまざまなこともアウトプットができる場 となっています。
20.jpg 245.93 KB 松本: アバタローさんはどのような経緯でコミュニティを立ち上げたのでしょうか?
アバタローさん: もともとはYouTubeだけでやっていくつもりだったんです。しかし、2021年の1月に『
自己肯定感を上げる OUTPUT読書術 』という本を出版したところ、読者の方からフィードバックいただきました。その中で多かったのが「アウトプットできる場所がありません」というお声でした。
そんな時に青柳さんからメールをもらいご提案いただいたことがきっかけになりました。
松本 : アバタローさんとしてはYouTubeを活動の中心にある中で、当初はオンラインコミュニティをどのような位置付けにしようとお考えだったのでしょうか?
アバタローさん: 私としても当時はまだ会社員と並行してYouTuberとして活動し、さらには本も執筆してという状態だったので、さらにオンラインコミュニティもやるとなるとかなり大変そうだなと思ったのが正直なところです(笑)。
でも、そんな時に青柳さんが「アバタローさんはオンラインコミュニティにしっかりとコミットした方がいいと思います」とはっきりと言ってくださったんです。そこから会社を辞め、本腰を入れてオンラインコミュニティをやろうと決意しました。
青柳: よく覚えているのが最初のミーティングの時です。その時にアバタローさんご自身から「
今後の活動には、メンバー同士の交流を活性化できる場所が必要だ 」とお話されていたのが印象的でした。オシロでは個人/企業の方を問わず、コミュニティを新しく立ち上げる際に大事にしている考え方(下図)があります。
23.jpg 88.31 KB オンラインコミュニティでまず大切なのは、しっかりとした「目的」と参加するメンバーの方々に提供する「価値」を策定することにあります 。アバタローさんへのご提案も、目指したいコミュニティの姿をお聞きした上で、この3要素を意識してご提案させていただきました。
松本: OSIROでコミュニティを立ち上げる際には考えること、定めていく要素を項目ごとにまとめたシート(下図)も用意しています。「Liber」のコンセプトは「本と仲間と出会えるアウトプットの遊び場」となっています。そのような場をつくりたいと思った経緯をお聞かせいただけますか?
24.jpg 180.84 KB アバタローさん: 自分が目指したいコミュニティを言語化するのには非常に悩みまして、ミーティング中には決めきれず少し時間をもらって近所の公園を歩きました。当時住んでいたところの近所には大きな総合運動公園があり、そこが私にとってのサードプレイスというか、仕事で疲れた時に散歩して気分転換ができる場所だったんですよ。
そこには大きなグランドもあれば、公園の中に遺跡があったり自然豊かな遊歩道もある。公園に訪れる人はただ運動をしているだけではなく、絵を描いたり、歌を歌っていたり、思い思いの時間を過ごしているんです。そんな風景を眺めているうちにふと「自分のコミュニティも、こんな場所がいいな」と思ったんです。
そう思った途端に、自分の中でコミュニティの姿がはっきりと映像化されました。つまり、
私のコミュニティは自己鍛錬や自己探求、そして自己表現の場所である。そして同時に、自己救済の場所でもあるようにもしたい と考えたんです。
メンバーを巻き込み、役割を持ってもらうことで能動的なコミュニティ活動を促進
松本璃奈 オシロ株式会社 コミュニティプロデューサー 新卒でレバレジーズ株式会社に入社。人材紹介事業にて、IT技術者へのキャリアアドバイザーとして従事したのち、オシロ株式会社に入社。現在はカスタマーサクセスチームにて、クリエイターの方から法人・ブランド様のオープン後サポートを行なっている。
松本: このようなコミュニティの設計を経て、2021年9月にオンライン読書コミュニティ「Liber」が創設されました。私から立ち上げ後の定量データを簡単にご紹介すると、オープンから半年でとても順調に活性化するコミュニティへと成長していきました。
27.jpg 176.61 KB そのような背景には、やはり運営の中でメンバーの方々の交流をしっかりと活性化するような仕組みや施策があったのではないかと思います。今回はコミュニティ活性化のヒントとして、①ユーザーが一歩踏み出せるきっかけ作り、②熱量のバランスを考えた運営、③初心に立ちかえること。この3つの観点からお話を進めていきたいと考えています。
まずは、「
①ユーザーが一歩踏み出せるきっかけ作り 」について、アバタローさんが取り組んだことをお聞かせください。
アバタローさん: コミュニティを立ち上げた際、それを
能動的に利用してシステムを理解しようとしたりする方、そしてみんなと仲良くなろうとアクティブに活動し始める人は少ない です。多くの方は少し距離を置いてコミュニティの中がどのような様子かを見ている状態になります。まず
コミュニティの活性化で大切になるのは、そういった方々をいかに巻き込んでいくのか です。「Liber」の場合は、私ないしは事務局のスタッフがメンバーに働きかけて、イベントで共同MCを務めていただいたり、イベントのゲストとしてお誘いしていきました。もちろん最初はびっくりされますが、このようにメンバーをどんどん巻き込んできっかけをつくると、だんだんと活動的になっていきます。
青柳: 立ち上げ当初にしたアバタローさんとのミーティングで印象に残っているのが、「
小さくてもいいので、役割をメンバーの皆さんに渡していくことが大切だ 」とお話しされていたことでした。やはりそういったところは現在まで意識されていることなのでしょうか?
アバタローさん: 役割を持ってもらうことは、とても大事なことだと思っています。
コミュニティを企業に例えると、創業期や成長期、安定期とある中で、特に創業期は一人ひとりの役割が曖昧になり何をしたらいいのかわからない状態に陥りがち です。そのため、コミュニティの中でもメンバーの方々にある程度役割を担っていただいた方が動きやすくなります。ただ、あくまで役割であって、グループ長やマネージャーのような役職のようなものまでつけてしまうとコミュニティの中で上下関係が生まれてしまいます。
それぞれの役割には1年の任期を設け、担当するメンバーが入れ替わることでフラットな関係性を崩さない ように気をつけています。
コミュニティは「常に盛り上がっていればいい」というわけではない
青柳洋平 オシロ株式会社 シニア・コミュニティプロデューサー 新卒でニュージーランドに拠点を置く外資系IT企業に入社。日本、ドイツにてSNSマーケティングシステムの開発・販売業務に従事。その後コミュニティの可能性と「日本を芸術文化大国にする」というオシロ社のミッションに共感し、2020年9月入社。クリエイターからブランドまで幅広くコミュニティ形成を支援している。
松本: 「Liber」はメンバーの方々がとても活発に交流されているだけでなく、メンバー起点での発信も非常に多いことが特徴にあります。コミュニティというと、運営者がコンテンツを発信し続けなければ盛り上がらないと思う方も多いなかで、「Liber」はメンバーが自走している印象です。テーマを「②熱量のバランスを考えた運営 」に移しますが、「Liber」ではどのように熱量を高め、維持する取り組みをされているのでしょうか?アバタローさん: オンラインコミュニティを運営される方や検討される方は「コミュニティがちゃんと盛り上がるか」が心配になると思います。しかし、実はコミュニティは常に盛り上がっていればいいというわけでもありません 。 どういうことかというと、例えばコミュニティが一気に盛り上がってしまうと、そこに入り込めないメンバーが生まれます。そうなってしまうと、盛り上がりの輪に入れないメンバーはとても孤独に感じてしまいます。一方で、輪の中にいるメンバーの中にも、疲労感を感じてしまう人も出てくるわけです。よくいわれることですが、コミュニティは生き物なので、交感神経と副交感神経のバランスをうまく取らないといけません 。 そのため、コミュニティが盛り上がっているからといって短い期間でイベントを詰め込みすぎてしまうと、かえってメンバーの熱量が下がってしまう要因にもなります 。コミュニティの熱量は焚き火のようなもので、空気の通り道を塞いでしまうほど薪をくべてしまうと火が消えてしまうのです。やはり、さじ加減が大切ですね。青柳: 特に「Liber」のように長く続けているコミュニティの場合、中長期的な運営を見据えながら適切な熱量のバランスを考えていくことはとても重要であり、難しいところでもあります。そのようななかでも「Liber」では現在、コミュニティの中でさまざまな共創が生まれていることも特徴 にあがります。なにか新しいものをつくり出す時には高い熱量が求められると思いますが、どのように熱量のバランスをとっているのかが気になります。アバタローさん: たしかに、共創が生まれる前後では熱量のバランスをとるのがとても難しくなります。例えば、「Liber」では本をつくるブックプロジェクトというのが立ち上がっていますが、やはり始まった時の熱量はとても高くなります。しかし、プロジェクトが終わってしまうと、ロスが発生してしまうわけですね。 この時のケアをどうするのかがとても大切なんです。ブックプロジェクトの場合だと、本が無事できあがり、プロジェクトが終了した2か月後にオフ会を開催しました。そういった次の活動への機運や期待を持っていただけるようなものを企画することで、熱量が下がりすぎないようにしています 。
コミュニティの軌道修正のため、メンバー全員と1on1を実施
DSC02276.jpeg 1.97 MB 松本: それでは最後の「
③初心に立ち返ること 」についてお聞きしたいのですが、スライドでは「コミュニティの軌道修正をするため」という枕詞がつきます。これについてはコミュニティ運営のどのような点で大切なのでしょうか?
アバタローさん: やはりコミュニティは人がたくさん集まってできるものですから、トラブルとまではいわなくてもコミュニティに対しての認識のずれなどは当然起こります。例えば、「Liber」の場合は最初の1年目は「読書コミュニティなのに読書以外のアウトプットが多いのはいかがなものか」という声もありました。
そのようなご指摘も間違っていないのかもしれませんが、コミュニティの方向性をぶらすわけにはいきません。だからこそ、初心に立ち返ることは大切です。そこで先ほどお話した
青柳さんとのミーティングでコンセプトを決めた経緯や、OSIROがつくっている設計シートが活きてくる わけです。
「Liber」のコンセプトは「本と仲間と出会えるアウトプットの遊び場」です。では、
そもそもアウトプットとはなんなのか、私自身が「Liber」をどのような場所にしたいのかに立ち返ると、それは先ほどお話しした総合運動公園でのエピソードが原点にあります 。アウトプットとはつまり自己表現であり、「Liber」は自由な自己表現ができる場として立ち上げました。そういったことを説明しながら軌道修正をしていきました。
松本: なるほど、では具体的にどのように軌道修正をしていったのでしょうか?
アバタローさん: 例えばイベントでしっかりと説明していくこともしていましたが、私の場合は
メンバーさんと1on1を実施 しました。事務局のスタッフの方にランダムでメンバーさんを選んでもらって、Zoomで1対1で喋る。相手の話を聞き、その人がどのような人なのかを理解しつつ、お互いに腹を割って話す時間を確保しているんです。
会社の1on1は緊張すると思いますが、
コミュニティの場合はお互いに利害関係がないので、1on1ではお互いに素直で忌憚のないコミュニケーションが取れます 。
青柳: 立ち上げ当初から掲げているコンセプトや理念が浸透せず課題になっているコミュニティ運営者の方も多いと思います。そういった点でも、今回の議題にした3つのポイントはコミュニティ運営においてとても重要だと思いました。
「Liber」では先ほどのブックプロジェクトだけでなく、2024年にはアバタローさんとメンバーの共創によりライフスタイルブランド「
eUNoia essentials 」が始動するなど、メンバーを起点とした共創も生まれています。アバタローさんとしてはこのような共創は意図して手がけているものなのでしょうか?
アバタローさん: これはよく聞かれることですが、実は本当にたまたまなんですよ。「eUNoia essentials」の立ち上げも、たまたまそういうことができるメンバーさんがいたからできたことです。ただ、
例えば夜空の星々を眺めているうちに星と星が線でつながり星座が生まれたように、メンバーさんをしっかりと見つめていると、それぞれに素晴らしい才能やスキルを持っていることがわかります 。だからこそ、コミュニティ運営ではメンバーさん一人ひとりをしっかりと認識し、向き合っていくことが大切だと考えています。
松本: それでは、最後に今後の「Liber」の展望についてお聞かせください。
アバタローさん: 私はあまり計画や先々のことを考えないタイプの人間です。ただ、頭の片隅にあるのは、せっかく読書とアウトプットのコミュニティを立ち上げているので、ゆくゆくは、「Liber」で書店やブックカフェをつくるプロジェクトを進めていきたいと考えています。
Book Community Liber 書評YouTuber・アバタローさんが主宰するオンラインコミュニティ。2021年9月の創設以来「本と仲間と出会える、アウトプットの遊びの場」をコンセプトに掲げ、読書以外にも映画や芸術など幅広い分野・領域でのアウトプットの場を提供している。また、本づくりのプロジェクトなどメンバー、2024年にはメンバー起点でのライフスタイルブランド「eUNoia essentials」が生まれるなど、コミュニティ内での共創が盛んに生まれている。https://bc-liber.com/about
関連記事 : YouTuber・アバタローさんに聞く『オンラインコミュニティ発ライフスタイルブランド』が生まれたプロセス