社会人の「学び直し」や「リスキリング」のニーズが高まるなか、講座運営はただ講座を提供するだけではなく、学び合いと継続支援が可能な「コミュニティ型」の講座運営が注目されています。本記事では、実践・対話・継続を支えるコミュニティ型講座のメリットと可能性を解説します。
「講座で教えるだけでなく、もっと深い気づきや実践につながる場をつくりたい」
「学び直しニーズに応える、関係性をベースにした学びを届けたい」
「社会人向け講座をスタートしたものの、受講者の継続率が上がらない…」
このようなお問い合わせは、社会人向けの講座を提供するスクール運営者や講師の方々から多く寄せられています。
社会人の「学び直し」や「リスキリング」が求められる今、講座運営には学びを継続させる仕組みがますます重要になっています。
受講者が一方的に講義を聞くだけではなく、アウトプット・対話・実践を通じて、自ら学びを深められる環境。そんな仕組みを提供する「コミュニティ型講座」という運営スタイルが、いま多くの教育事業者から注目されています。
本記事では、社会人向けに学び直しやリスキリング、キャリア形成などの分野で学びを提供する講座運営者や講師の方々を対象に、講座運営をアップデートするコミュニティの設計ポイントを、実際の事例を交えながら紹介します。
📘 本記事でわかること
・なぜ今、講座運営に「学び合いの場」が求められているのか?
・社会人向け講座のニーズが「問い・対話・アウトプット」にシフトしている理由
・「講座運営×オンラインコミュニティ」が学びを進化させる理由
・実際に導入されているコミュニティ型講座の事例
なぜ今、講座運営に「学び合いの場」が必要なのか?
リスキリングや学び直しの重要性が叫ばれる中、オンライン講座や社会人向けキャリアスクールを運営する多くの方々は「受講を通じてどのような価値を提供できるか」「どうすれば学びが実践につながるのか」という問いに直面しています。
特に近年では、生成AIの発展や社会が変化するスピードが加速していることから、数年前に身につけた知識やスキルが急速に陳腐化することも少なくありません。
現在ではスキルを身につけることはもちろん、「学び続ける力」を養うこと自体が今まで以上に価値を持つ時代に突入しています。そのため、社会人が一度きりの学びで満足するのではなく、常にアップデートし続ける「自律的な学習習慣」が求められています。
さらに、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と呼ばれる現代においては、知識をインプットすると同時に自ら問いを立て、仮説を構築し、判断・選択するアウトプットまでのプロセス、つまり「思考力」や「対話力」が重視されるようになっています。
実際、経済産業省の『生成AI時代のデジタル人材育成の取組について』(※)でも、今後日本企業を変革させるDX人材に求められるスキルとして、デジタル技術とともに以下の3点をあげています。
1.問いを立てる力
2.仮説を立て・検証する力
3.評価する・選択する力
これらの力は、受け身の座学だけで習得するのは困難であり、
議論・対話・ワークショップといったアウトプット中心の学習環境でこそ、真に身につくものです。
こうした背景から、以下の図のように
従来のような知識の受け渡しだけでなく、実践や気づきを共有し、学習の継続を促進する学び合いの場として「コミュニティ型講座」が注目されています。
「コミュニティ型講座」の位置付け.png 560.53 KB従来の講座と「コミュニティ型講座」の位置付け
加えて、生成AIの進化は、かつて講師や専門家の主な役割とされていた「知識の保有」や「情報提供」の価値を再定義し始めています。
AIが一般的な質問に高精度で答えられる時代において、人が果たすべき役割は
「なぜ今この学びが必要なのか?」「どう実践に落とし込むのか?」といった意味づけや文脈化、対話の中で育まれる気づきの提供へとシフトしています。
オシロにお問い合わせをいただく多くの講座運営者や講師の方々からも、
「教えるだけの構造では、受講者が成長を実感できるほどの体験を提供できない」「自走する学びに導くには、関係性を再構築する必要性を感じた」といった声をいただいています。
このような危機感とニーズの高まりが、学びの本質を再設計する“コミュニティ型講座運営”への注目を集める要因となっています。
※経済産業省 情報技術利用促進課『生成AI時代のデジタル人材育成の取組について』(2024年10月)
社会人向け講座のニーズが「問い・対話・実践」にシフトしている理由
社会人の学び直しニーズは「問い・対話・実践」型へと進化しています。その背景には、下の図にあるように単なる知識のインプットではなく、
自ら問いを立て、対話を通じて理解を深め、実践していくことで「自律的で深い学び」を定着させるプロセスへのニーズが高まっているためです。
「問い・対話・実践」の学び.png 485.13 KB「問い・対話・実践」の学びが「自律的で深い学び」をもたらす
生成AIが高度な処理を担うからこそ、人間が向き合うべきは現実に起こる事象を「どのように捉え」「どのような問いを立て」「学びをどのように活用し、行動に変えていくか」へシフトしているためです。
そのため、オンライン講座や社会人向けのキャリアスクールにおいても
「知識の提供」ではなく、「問う力」「考える力」「自身の思考を言語化し、有益な議論を生み出す力」を育む価値提供のあり方こそが差別化のポイントとなりつつあります。
このような背景を踏まえ、現在では次の3つの方向性への転換が進んでいます。
【1】答えではなく“問いからはじまる学び”
変化と複雑性の時代においては、ひとつの正解にたどり着くよりも、良質な問いを持ち続けられるかが学びの深さを決定づけます。
「なぜ今これを学ぶのか?」
「この気づきを、自分の現場にどう適用できるか?」
「自分の価値観に照らすと、どう捉え直せるか?」
こうした問いを起点とした学習体験が、参加者の自走力を育て、継続学習につながっていきます。
【2】多様な視点と出会う“対話ベースの学び”
個別最適な学びだけでは限界があります。特に社会人の場合、自身の経験や立場に基づいた視点が固まりがちですが、他者との対話によってこそ視野が拡張され、気づきが得られます。
オンラインコミュニティを活用した「対話設計」や「振り返りの共有」は、こうした偶発的な出会いからの学びを仕掛ける上で非常に有効です。教える役割から「場を設計する運営者」としての役割へと変化しています。
【3】より実践を意識した“アウトプット前提の学び”
学んだ内容をただ「覚える」「理解する」だけで終わらせず、自分の言葉で語る・書く・実践することが学習定着の鍵になります。
💡例えば:
学びの内容をチャッやブログなどで言語化する
講座後のアクションプランを作成する
他者のアウトプットにコメントし合う
こうした仕掛けにより、アウトプットの習慣が「学びを自分のものにするプロセス」として自然に組み込まれます。
「講座運営×オンラインコミュニティ」が学びを進化させる理由
ここまでは「コミュニティ型講座」が注目される背景や学習効果について述べてきました。では、なぜ多くの講座運営者が、SNSやチャットツールだけではなくオンラインコミュニティ専用のプラットフォームを導入し始めているのでしょうか?
もちろん、無料のSNSやチャットツールを活用しコミュニティ型の運営をすることも可能です。実際、オシロをご導入いただく講座運営者の方々の中には、これらを活用しコミュニティ運営にチャレンジしているケースも多いです。
有料プラットフォームへの移行を検討したきっかけは、「学習の継続」「参加者のエンゲージメント向上」に限界を感じたことにあります。その理由のひとつが、学びに必要な“相互性”や“習慣化”の設計が、汎用のチャットツールでは十分に機能しづらいという点です。
オンラインコミュニティ専用のプラットフォームを導入することで、次のような構造的な学習支援が可能になります。
1.心理的安全性が高いクローズドな場
招待制・会員制で運営されるクローズドコミュニティでは、参加者が自己開示をしたうえで関わりあうため、対話の質が自然と高まります。これは、受講者の内省・アウトプットの活性化にも大きく寄与します。
2.一つのプラットフォームでさまざまな投稿・発信手段がある
一般的なSNSやチャットツールでは、投稿・イベント・資料・録画・チャットが分断されがちです。一方、オンラインコミュニティ専用のプラットフォームでは、日常的なインプット・アウトプットや情報共有、イベント開催などでツールを分ける必要がなく、一つのプラットフォームで完結できるため、学びの習慣づけがしやすいメリットがあります。
3.興味・関心の共通点を見つけやすい
学びの個別化が進む中、参加者の興味・関心に合わせたグループ(分科会)やトピックチャンネルの存在が、共通点を持つ仲間との深い対話を促します。こうした空間では、「この人たちと話したい」「もっと聞いてみたい」といった感情が起点となり、学びが“自分ごと”として加速していきます。これは、知識の定着だけでなく、自律的な学びの場を醸成していくことにつながります。
このように、オンラインコミュニティが持つクローズドな場所で相互的なインプットとアウトプットを両立する「1:n:n」の構造は、単発の講座や動画学習では得られない学びの「深さ」と「継続性」を実現します。
一方で、オンラインコミュニティは参加者にとってだけでなく、講座運営者にとっても大きなメリットがあります。コミュニティ型講座の運営者は講座やメソッドの価値を「知識の提供」から「成長の支援(学びの体験価値の向上)」へと進化させるアプローチとなるためです。
また、コミュニティ設計を通じて、自社のメソッドや講座内容に継続する意義や実践サイクルを組み込むことができれば、単価ではなく、LTV(顧客生涯価値)を軸にしたビジネス設計も可能になります。
実際に学びを深めている「コミュニティ型講座」の事例
こうした「コミュニティ型講座」という考え方は、すでにさまざまな分野で実践されはじめています。
では、実際にオンラインコミュニティを活用して学びの場を提供している方々は、講座だけでは届けきれない変化や学びの継続を支えるために、オンラインコミュニティという「場」をどのように活用しているのでしょうか。
ここで、オシロが開発・提供しているオンラインコミュニティ専用プラットフォーム「OSIRO」を導入し、学びを提供するコミュニティを4つの事例を紹介します。
📖 授業のない学校(運営:株式会社問い読)
『弱さ考』著者の井上慎平さんと、元『ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長の岩佐文夫さんが2025年に立ち上げた、問いと対話を軸にした大人の学びのオンラインコミュニティです。
中心となる「問いからはじまるアウトプット読書ゼミ(問い読)」は、毎回テーマに沿った「ちょいムズ本」を読み込み、
ゼミ生自身が問いを立てて対話を行うスタイル。受け身ではない「自ら問う」読書体験を通じて、参加者の思考の枠組みを揺さぶり、読書を「自分の問いを深める営み」へとアップデートしていくことを目指しています。
本の理解だけにとどまらず、対話と内省によって思考を深め合うプロセスは、まさに「教わる」から「気づく」への学びの転換。講座終了後も継続して学び続けられるコミュニティとして、読書を通じて知的な刺激を受け合いながら、自分の問いを探求するよう設計されています。
✅
特徴:正解のない問いを起点に学び合う「探究型・対話駆動の読書コミュニティ」
詳細はこちら▼
https://osiro.it/news/13531
🌱 ICOREリンクスサロン(運営:株式会社ICORE)
ICOREは「自分らしく働く」を探求する社会人向けキャリアスクール。リンクスサロンは、その卒業生が集い、
卒業後も継続的な振り返り・対話・学び合いを行う場です。
リンクスサロンでは、講座などの学びだけでなく、卒業生たちがフラットに交流し、コラボレーションや共創が生まれるようなコミュニケーション設計がされています。学びだけでなく、
内省と他者とのつながりを通じて「学びを実践へと橋渡しする支援が、丁寧に設計されています。
講座で得た気づきを自身の仕事や事業に活かし、「自分らしさ」を活かしたキャリアを形成していくためには、時間をかけたプロセスが必要です。リンクスサロンはその「橋渡し」の機能を果たす場として、
講座と実社会の間に温かくもしなやかな学びの接点を創っています。
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特徴:キャリア講座と実生活をつなぐ「学びと内省の継続設計」が強み
詳細はこちら▼https://osiro.it/news/13228
🏢 ファースト(運営:一般社団法人ベンチャー型事業承継)
「挑戦するアトツギが日本経済に地殻変動を起こすエコシステムを実現する」を掲げる一般社団法人・ベンチャー型事業承継が主宰するアトツギのための学び合いの場です。
「自分らしく家業を継ぎたい」「家業を成長させたい」そんな未来志向のアトツギが集まり、社長になるまでの学びを得る「予備校」のような場を提供。アトツギが自らの機会を創り出し、課題を解決する中で、経営者としての成長を実感できることを目指しています。
このコミュニティの特徴は、
参加者が「当事者」として率直に経験を語ることが尊重されている点。講師が一方的に教えるのではなく、対話やナレッジシェア、テーマ別の分科会などを通じて、共創的な学びの場が生まれています。
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特徴:当事者性・実践知・共感を土台とした「自律共創型の学び」
詳細はこちら▼https://osiro.it/news/13555
まとめ
これからの時代の学びの場は、「実践に活きる学びを継続させていく」ことが求められています。オンラインコミュニティは、そのような学びを育むには最適な土壌といえます。
講座型コミュニティというフォーマットを取り入れることで、学びの価値をより深く、より継続的に、参加者の人生に根づかせることができます。
OSIROでは、知識提供にとどまらず、「学びの変化」を実現したい講座運営者の方々に向けて、オンラインコミュニティの立ち上げ支援の豊富な実績をもとに、コミュニティの立ち上げから設計・運営まで伴走支援を行っています。
例えば、下記の記事のように、学びを継続させる「学習習慣」を定着させるための工夫など、さまざまな観点からコミュニティ型講座での活性化をお手伝いすることが可能です。
関連記事:【オンラインコミュニティの作り方】「習慣化」の悩みを解決しユーザー継続率を向上!事例で学ぶオンラインコミュニティ活用法