佐藤尚之さん(株式会社ファンベースカンパニー取締役会長)をお呼びしたOSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW第4弾。
OSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW オシロ株式会社(以下、オシロ) 代表取締役社長 杉山博一による、オーナースペシャルインタビュー。第4回のゲストは、コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)さんです。電通でコピーライター、CMプランナーとして活躍し、50歳を機に独立。以降はコミュニケーション全体を設計する仕事を中心に活動しています。2023年2月、50代以上のコミュニティ「Good Elders」を設立したさとなおさんに、コミュニティの会員数に対する考え方や中長期的な展望をお聞きしました。 ▷ 【前編】コミュニティには社会的包摂が必要である
Good Elders 2023年に佐藤尚之さんを主宰としてスタートした50歳以上限定のコミュニティ。50代からの様々な試練を一緒に乗り越え、長く社会に関わりながら、楽しく豊かに過ごしていくことを目指す、善きエルダーでありたい方のためのコミュニティです。人々が健康で幸せな人生を送るために必要な”良い人間関係”とは?日本の社会課題をコミュニティで解決すべく、運営している。https://goodelders.jp/
「良い人間関係」が、健康かつ幸せな人生の唯一の原則
(写真左)オシロ 代表取締役社長 杉山博一 杉山博一(以下、杉山): 「Good Elders」ではブログが半年で1,000記事以上、立ち上がりました。 佐藤尚之(以下、佐藤): そうなんです。すごくないですか? 始めて9カ月(2023年11月時点)で、1,650記事になりました。月平均で約180投稿です。知り合いのいないコミュニティで、50代や60代が本当にブログなんか書くかなと心配したんですけど、杞憂でした。しかもnoteとかAmebaではなく、「Good Elders」内で書く。こういう場をみんな望んでいたんだなとは思いますね。 杉山: テーマには「起業」まであったりして、設定が幅広いのも「Good Elders」ならではではないかと。 佐藤: 若手に読まれないのも安心みたいです。外だと若手が野望と希望に満ちたキラキラブログを書くじゃないですか。そういう中に混じって50代以上が自分の生活の話や自分の考えなんかを書いたところで、年寄り臭く感じられるかなとか、若者に対するパワハラになるかもなとかいろいろ考えちゃうみたいで、外で自由に書けなくなっていた。でも、「Good Elders」には同年代しかいないからのびのび書けると。それこそバブルの話題でも同世代でわかり合えるから、コメントもたくさんつきますしね。 杉山:確かに「読んでくれる人がいるから書ける」という部分もありますよね。 佐藤: そうなんです。あと「Good Elders」の参加ルールは「いばらない。おこらない。否定しない。説教しない。」なんです。つまり、同年代であっても、何か書いたらマウントとってくる人がいるのではないかという恐れもある。 杉山: そうかもしれないですね。 佐藤: 特に60代の男性は自分の価値観を人に押し付けようとする人が少なからずいる。そこについては管理人である僕が目を光らせているとみんなも思っているんじゃないかな。 杉山: さらに月会費が1, 000円というのも驚きですね。 佐藤: エルダー期ってお金が不自由になる過程でもあるので、あまり高い会費だと長く続かないと思って。OSIROさんには申し訳ないけれど、その代わり将来的に何かビジネスみたいなものが生まれたりするようにしたいと思っています。人さえ集まれば、何かそこで関係ができたりビジネスが起こったりは必ずあることですから。 杉山: 実際、それぞれ興味のあるテーマに沿ったグループもたくさんありますね。 佐藤: グループは100個以上あります。イベントも半年ちょいでメンバーたちがどんどん立ち上げて、結局100ぐらいはやったんじゃないかな。でも、ボクが盛り上げのためにやっているイベントはないんです。オフ会を主催するくらいかな(笑)。 杉山: そうはいっても、さとなおさんらしい細かい配慮やコメントの仕方はあるのではないかと推察するのですが。 佐藤: うーん。毎日何かやっているという点では、シニアトレーナーによる「エルダサイズ」がありますね。エルダーのためのエクササイズ、という造語ですが(笑)。毎朝6時45分から15分間、Zoomの前に皆集まってトレーニングしています。僕はストレッチミュージックと言って、6時15分から毎日違うアーティストを特集して音楽をかけています。 あと、「2割のファンが売り上げの8割を支える」というパレートの法則に倣うと、「2割の方々がコミュニティの活動の8割を支える」のだと僕は思っていて、実際にそうなんです。コミュニティ運営者ってわりとコミュニティに参加しない人や活動しない人ばかり気にするけれど、僕はその2割の支えている方々に対して気を遣うべきだと思うし、実際にそうしています。 杉山: さとなおさんらしい思想ですね。では、中長期的な展開で思い描かれていることはありますか? 佐藤: 今年(2023年)6月に出版された『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』という本があります。ハーバード大学による史上最長84年間にわたる科学的な研究結果で、1,300人を追った結果、「健康かつ幸せな人生を送るたったひとつの原則は、良い人間関係に尽きる」ということを発表しました。 僕はその研究結果を、2015年11月に配信された、著者のひとりで心理学者のロバート・ウォールディンガー氏が出演したTEDで知りました。それが自分的にすごく大きな、理論的なバックボーンになっています。良いつながりがある人は、肉体的にも健康で、脳としても健康である。要するに酒の飲み過ぎや喫煙よりも、つながりがあるかないかのほうが、健康にずっと重要なんですね。そして幸せにも直結している。 また、WHOが規定する「健康」は3つのウェルビーイングに拠るとのことで、それはフィジカル・ウェルビーイング、メンタル・ウェルビーイング、ソーシャル・ウェルビーイングの3つなんですね。 日本は、「村」や「会社」に代表される良い人間関係が壊れていったことによって、ソーシャル・ウェルビーイングが失われているんです。会社は終身雇用でなくなる。村がさびれて空き家だらけ。都会にはそういう繋がりがそもそもない。 杉山: ぼくも2017年にTEDを観て細胞が熱くなりました。以来入社オンボーディングで必ず観てもらっています。健康の3つ目がソーシャルなんですね。日本の大きな課題ですよね。 佐藤: そうです。しかも50歳以上は現在6,000万人で、国の人口の半分を占めます。その人たちがつながりを失ったまま「人生100年時代」を生きてしまうと、それぞれに孤立するわけですから、必然的に暗く不健康になっていくでしょう。人口の半分がそうなるというのは、日本全体を暗く不健康にする。若者たちは「人生の先」としてそういう「暗く不健康な先輩たちの毎日」を見ていくわけです。どんなに若者の教育に力を入れようが、新しい産業を作ろうが、先行きが暗かったらやる気も出ませんよね。 だから、逆説的に言えば、人口の半分である50代以上が良い人間関係を持ち幸せになることは、日本全体を明るくすることに直結し、若者の未来の貢献にも直結するわけです。「Good Elders」のようなコミュニティが増え、つながりが増えたら、明るい未来がやってくるのではないかと思っています。 杉山: 良い人間関係にはどのくらいの人数が必要というイメージございますか? 佐藤: よく言われるマジックナンバーは150ですよね。仲の良い人間関係においては。ただ、もっと薄くても良いつながりは作れると思っています。 たとえば僕の高校時代の1学年は、50人クラスが5つあって合計250人だった。これって、全員と親しくはないけど、何となく顔を見知っている人数かなと。僕の肌感として、なんとなくこの「1学年分の人数」は最低限必要かなとまず思いました。その人数で運営してみて、同調圧力のない、心理的安全性のあるコミュニティができたら、500人くらいまで増やすことも検討しようと考えています。 その後は、うまくいけば「Good Elders」の横展開が図れるのではないかなと。「Good Elders関西」「Good Elders九州」「Good Elders北海道」のような地域に特化したコミュニティや、企業の退職者によるコミュニティ、「Good Eldersジャイアンツ」「Good Eldersタイガース」のようなファンコミュニティができ、複数の所属が可能になれば楽しいのではないかなと思うんですね。 良い人間関係を50代以上が継続していけるような仕組み、システムをオシロさんとつくっていくことが、僕のちょっとした野望です。 杉山: 日本の社会課題を、さとなおさんの愛でもって解決してくれる。それこそが「Good Elders」なんですよね。しかも、ご自身でゼロから築き上げている途上にあって、僕もこの課題解決に貢献したいし、OSIROを進化させて必ず実現したいと思います。 佐藤: いまは僕と杉山さんも理想をお互いにぶつけ合っている状態ですよね。資金調達して云々というものではなく、人と人とのつながりだから、急に大きくしてもうまく行かないし、メンバーを傷つけたり孤立させたりしたら元も子もないので、ゆっくり前に進めればと思っています。 杉山: OSIROの中に「Good Elders」のようなコミュニティが存在することは、他のコミュニティにとっても大いに刺激になります。 佐藤: OSIROさんの方針であるクリエイター支援でいうと、OSIROのコミュニティオーナーも著名な方が多くて、その方たちがサブスク的に資金を得ながら自由に動ける仕組みになっていますよね。杉山さんの「日本を芸術文化大国に」というミッションも素晴らしいことだと思っています。 でも、「Good Elders」はそことはちょっと一線を画していて。もちろん僕が管理人として表には出るけれど、僕のもとで勉強したいとか僕と一緒に何かしたい人が参加するのではなく、それぞれの人生とそれぞれの方向性とそれぞれの事情で集まってゆるくつながっている。そういったコミュニティがこれからの日本に必要なのではないかと感じています。
「愛」こそが、コミュニティを醸成する 杉山: 最後に、さとなおさんが2019年に創立したファンベースカンパニーさんとOSIROのコラボの可能性についても触れたいと思います。
僕はSNSが悪いとはまったく思っていないのですが、やはりフォロワーの量を稼ぐような思想があるので、どこかで破綻するし、ひずみが生まれるし、運営する痛みというのは必ずあるんですね。それに量で言うと、日本は大量生産・大量消費の経済大国だけど、一つひとつ手づくりしていた時代の方が豊かだったような気がしていて。フォロワーも、量ではなく、質の時代に戻ってくると思っているんです。
そうなると、何十万人のフォロワーがいるアカウントをもっていることよりも、フォロワーは少ないけれど上質なコミュニティをもっていることのほうが、より幸せになれるのではないかと。さとなおさんがファンベースカンパニーさんで追求している「ファンベース」という思想を僕も共感していますし、ファンベースカンパニーさんの愛ある設計力とOSIROの愛あるツールのコラボレーションで、年内に1つ目の上質なコミュニティを創出できたらいいなと考えています。
IMG_9858.JPG 4.86 MB 佐藤: 前述の『グッド・ライフ』に書かれた研究結果である「健康かつ幸せな人生を送るたったひとつの原則は、良い人間関係に尽きる」の「良い」というのは、まさに杉山さんがおっしゃったとおり、質です。量ではない。
だって何百人集まったからといって良い人間関係はできない。たった50人ぐらいのクラスでもいじめが起こるわけでしょう。ですから共通点──好きとかファンとか趣味でいいのですが、そういうのがある人たちが集まれるコミュニティ、関係性の薄かったり濃かったりするスモールコミュニティを人生で3つ〜5つくらい持つ。それが幸せの新しい形だと僕は思っています。
ファンベースカンパニーについて少し説明させていただくと、そのファンの人たちが何を愛し、何が好きで、どこに集い、どのように熱狂しているかを徹底的に調べるんですね。そこから施策を作って、その人たちにもっと喜んでもらう。彼らのスイートスポットに沿った施策にしないと意味がないわけですから。
だから僕は「Good Elders」を始めるにあたって、会員全員に(オンラインで)会って、話を聞いた。何に悩んでいるのか、何が好きなのかを理解し、運営をしているわけです。そのようなことを互いに意識しながらご一緒できたらなと思っています。
杉山: お互いの思想をすり合わせ、どういう未来を描いていくかをお話しできたら光栄です。
佐藤: こちらこそ光栄です。OSIROのシステムを作る側の理想や思想と、使う側の理想や思想が重なり合うとよりよくなりますよね。
理想や思想が合っていれば何でもつくれると思うんです。 考え方、見てる方向が本当に似ているので、期待をしています。
杉山: ありがとうございます。組織は創業者が魂を込めないと「生き物」にならないとよく言われます。コミュニティも同じかと。
特にコミュニティの場合は愛をこめないと生き物にならないのではないか。 さとなおさんを見ているとそう強く感じます。
佐藤: ありがとうございます。愛をこめること、大事ですよね。コミュニティの活性化とか、コミュニティをつくってそこから発信してもらって儲けようとか、愛を出発点にしていないコミュニティが残念ながらわりと多くて(笑)。
いや、愛があったうえで儲けるのはいいと思うんです。あとから儲けがついてくるのは素晴らしいこと。それがある種の理想の実現につながったり、生活の糧になったりもしますから。でも、最初はまず、愛。よいつながりも、寄り添いも、何かをつくることも、つまりは愛が肝心だという気がします。
佐藤尚之|Naoyuki Sato コミュニティ「Good Elders」主宰/(株)ファンベースカンパニー 取締役会長/(株)ツナグ代表/一般社団法人助けあいジャパン代表理事/一般社団法人アニサキスアレルギー協会代表/大阪芸術大学客員教授/TCS認定コーチ/アートナビゲーター/花火師 1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。2011年に独立し(株)ツナグ設立。2015年にはコミュニティ運営の会社(株)4thも立ち上げる。2019年、野村HDとアライド・アーキテクツと佐藤尚之の三者での合弁で株式会社ファンベースカンパニーを設立。
杉山博一|Hirokazu Sugiyama 1973年生まれ。元アーティスト&デザイナー、2006年日本初の金融サービスを共同起業。2014年シェアリングエコノミープラットフォームサービス「I HAV.」をリリース、外資系IT企業日本法人代表を経て、2015年アーティスト支援のためのオウンドプラットフォームシステム「OSIRO」を着想し開発、同年12月β版リリース。