佐藤尚之さん(株式会社ファンベースカンパニー取締役会長)をお呼びしたOSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW第4弾。
OSIRO OWNER SPECIAL INTERVIEW オシロ株式会社(以下、オシロ) 代表取締役社長 杉山博一による、オーナースペシャルインタビュー。第4回のゲストは、コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)さんです。電通でコピーライター、CMプランナーとして活躍し、50歳を機に独立。以降はコミュニケーション全体を設計する仕事を中心に活動しています。2023年2月、50代以上のコミュニティ「Good Elders」を設立したさとなおさんに、コミュニティの存在価値や、コミュニティ運営で心掛けていることをお聞きしました。
Good Elders 2023年に佐藤尚之さんを主宰としてスタートした50歳以上限定のコミュニティ。50代からの様々な試練を一緒に乗り越え、長く社会に関わりながら、楽しく豊かに過ごしていくことを目指す、善きエルダーでありたい方のためのコミュニティです。人々が健康で幸せな人生を送るために必要な”良い人間関係”とは?日本の社会課題をコミュニティで解決すべく、運営している。https://goodelders.jp/
コミュニティには社会的包摂が必要である
(写真左)オシロ 代表取締役社長 杉山博一 杉山博一(以下、杉山): 最初にお会いしたのは2013年でしたか。
佐藤尚之(以下、佐藤): そうですね。僕は2011年3月、50歳を機に独立し、2012年10月に乃木坂に初めての個人オフィスを構えました。杉山さんが来てくれたのは、そのオフィスだったかな。
杉山: ええ、そこで始めたばかりの「I HAV.」というサービスについて話を聞いていただきました。人生の大先輩のうえ、業界のトップクリエイターである「さとなお」さんにお話できるなんて、本当にドキドキだったし、嬉しかったです。
佐藤: いえいえ、とんでもないことです。あの頃、いろんな新しいことを考えている最中だったので、杉山さんのお話は非常に刺激になりました。あと「人柄」の印象が強かった。こんな優しい人がベンチャーでやっていけるのかな?と(笑)。周りに「こうやって儲けて、イグジットして、売り抜けてやる」みたいな人が多かったですからね。でも、杉山さんはそうではなかった。もっと「やさしくて強い志」があった。
杉山: 恐縮です。
佐藤: 次にお会いしたのは、OSIROを始められた頃ですよね。2019年に僕が始めたファンベースカンパニーの創業メンバーである津田匡保(まさやす)から、杉山さんが新しいサービスを始めたと聞いて、ふたりで会った。
杉山: OSIROのサービスについて説明し、さとなおさんがコミュニティでやりたいことが何かを紐解いていきました。
佐藤: 僕は昔から「コミュニティには社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)が必要である」という考えなんです。
もともと日本には「村」というコミュニティがあった。地方には村というしがらみが強いつながりがあり、それになじまない人は都会に出た。そこは「東京砂漠」などと言われているように冷たく厳しい世界でもあるんだけど、「村」の代わりに「会社」というとても家族的なコミュニティがあって「包み込んでくれた」んですね。ちょっとダメな若者でも20年かけてみんなでよってたかって一人前に育てるような温かい包摂システムが存在したわけです。
その家族的な「会社」というコミュニティが、昭和とともに終焉した。終身雇用がなくなり、実力主義になり、雇用が流動的になった。その結果、人はコミュニティから切り離され、容易に孤立するようになったんです。都会には地域コミュニティもほぼないし、セーフティーネット的に「包み込んでくれる」ものがいまやもうないんです。
杉山: だから、コミュニティをつくるのであれば社会的包摂的な観点がないと不完全ではないかと考えておられるんですね。OSIROのサービスにはそういう観点があると感じられたのでしょうか。
佐藤: いや実はよくわからなかったんです(笑)。たしか、二度目にお会いした時は僕の主宰している「4th(フォース)」というコミュニティでOSIROを使ってみませんかという話でしたよね?
杉山: そうでしたね。
佐藤: 僕は2013年夏から「さとなおオープンラボ」という広告コミュニケーションの私塾をやっていて、卒業生たちとの交流の場として「4th」を始めました。「4th」──つまり「4番目」というのは、「家族」「友達」「仕事仲間」に続く4番目のコミュニティです。
370320893_1383580115925354_6400566334668853931_n.jpg 7.82 KB 「4th」のロゴ これがいま400人くらい。非常によいコミュニティとして育ってきたので、一生つながりが続く場にできたらなと思い、渋谷にある元蕎麦屋を改装してコミュニティのリアルな場にしたんです。自分の個人オフィスもいつでも出入りできるようにしていたけれど、マンションの1階入口で暗証番号を入力しないといけないから、ちょっと行きにくい。だから路面店がいいなと思って。コミュニティにおいて「リアル」はとても大事ですから。
でも、コロナの影響で、みんなそこに来られなくなってしまった。だったらオンラインでいいから継続して、もう少し発展性をもって新しいことが生まれる仕組みをつくろうと考えた。とはいえ、自前でオンラインコミュニティを制作すると何百万もかかるし、メンテナンス代もバカにならない。何かよいシステムはないかと思っていたところ、杉山さんのお話を聞くことになったわけです。
いろいろあってまだ「4th」ではOSIROを導入できていないのだけど、杉山さんが社会的包摂的な観点について非常に深く理解してくださったので、杉山さんの考えるコミュニティのあり方と僕の考えるコミュニティのあり方が合体すると、何かすごくいいものが生まれるんじゃないかなというのはそのとき感じました。
杉山: 覚えています。さとなおさんの「こういうことってできるの?」と尋ねるレベルがとても高かった。当然、現時点の機能としてできる・できないがあったのですが、さとなおさんの求めているレベルを目指せば、OSIRO自体が進化を遂げるというか、あるべき姿が実現できるのではないかとワクワクしました。
佐藤: 当時は堀江貴文さんや西野亮廣さんのオンラインコミュニティが大盛り上がりでしたが、それらはビジネス面での成功みたいな夢を一緒に追う「ゴールがある集まり」と感じました。
僕、ゴールがある集まりって、コミュニティというより「プロジェクト」だと思うんですね。予算があり、ゴールがあって、目的地にたどり着く。
でも、コミュニティというのは、終わりはないし、確たる目的地もない。前述したように、社会的包摂というか、いろんな人の価値観をすべてインクルージョンし、セーフティネット的に包み込んでいくもの。そういう前提が、杉山さんとわかり合えたことが非常に大きかったです。
同調圧力のない場をどうやってつくっているのか?
杉山: さとなおさんはOSIROをお使いいただき、50歳以上限定の、善き先輩でありたい方のためのコミュニティ「Good Elders」を始められました。
あらためてお尋ねしますが、OSIROを活用してみようと思われた一番の理由は何でしょうか。
IMG_9851.JPG 4.93 MB 佐藤: まず、直観的にわかりやすかったこと。いろんな機能があって非常によくできたシステムなんですが、とてもシンプルに感じたんですよね。
たとえばテニスのコミュニティだったら「テニスが好き」、将棋のコミュニティだったら「将棋が好き」という共通点がありますよね。でも「Good Elders」は、「50代以上」という共通点しかない。ということはみんながみんな違う方向を向いている。それをちゃんと包摂するためには、ちょっとしたグループ機能があるくらいでは無理なんです。全員の顔がはっきりと見えるプロフィールページがあって、それが有機的につながっていくような機能が実装されている必要がある。OSIROはそこがちゃんとしているうえに、全体が直観的かつシンプルでわかりやすいなぁと感じました。
ただ、OSIROも実際に使ってみないとわからなかったので、信頼はしていたけれど、賭けでもありました。使ってみたらブログ機能があったり、タイムラインや興味関心タグがあったりして、すべてが素晴らしかったです。もともと僕のイメージは
「クローズドなSNS」 だったので、それにもとても近い印象でした。いろんな価値観の人がそれぞれにタイムラインをもちつつ、触れあっていける感じがとてもよかったですね。
杉山: 賭け(笑)、勝負師ですね(笑)。OSIROは、オウンドSNSというサービスでもあるといえるので、さとなおさんの感想はまさにだと思います。僕が「Good Elders」に感じるのは、さとなおさんの心得というか、メンバーに対する思いが、一般のコミュニティに対する向き合い方と大きく違うこと。まず、入会希望者の全員と面談されますよね。
佐藤: ええ。いまは300人弱かな。最低30分は面談するから、150時間ぐらいはオンラインで会っていますね。僕、こう見えてもすごく人見知りなので(笑)、僕だったら知らない人が大勢いるコミュニティには入りたくない。なので、せめて僕と知り合いになってもらおうと思って、面談している部分もあります。
杉山: そういう思いって、コミュニティ設計すべてに反映されるんです。これからアウェイな場に入る方々が、さとなおさんと話せたことで安心する。その入口を通り抜けたメンバー同士だから、また安心できる。OSIROの機能だけでは到底できないことを、さとなおさんご自身でされているというのは、素晴らしいの一言です。
それはもはや「愛」だと思う。結局、コミュニティって、愛がないと絶対うまくいかないから。 佐藤: そうなのかもですね。あと、これはマーケティングの基本ですが、伝えたい相手のことを知らないと何もできない。だから「50代以上のコミュニティ」をつくるのであれば、日本でトップクラスに50代以上を理解した人でないといけないなと思っていたんですよね。そうでないと、皆さんの問題意識やそれぞれの楽しさ、悩み、苦しみなどが肌感覚でわからないから。だから全員と個々に話そうと思いました。まだまだたいした人数ではないけど、いろいろ深くわかってきたと思います。
杉山: さとなおさんは「Good Elders」のことをFacebookぐらいでしか告知されていないので、さとなおさんと似たような思考性の方々が安心して集えると思います。
佐藤: そうですね。それと、主宰者である僕が一番汗かいているのも大事かも(笑)。そこに信頼みたいなものは生まれるかもなぁ、と。「4th」も、ほぼ僕のワンオペでした。元蕎麦屋も自腹で用意した。リノベ時にみんなで一緒に掃除したりはしたけど、基本一番汗かいたなぁと思っています。
今回の「Good Elders」も完全ワンオペです。OSIROが、書き込みやすく、つながりやすく、動きやすいシステムだからこそできるんだけど。それに、ワンオペでやって経験してみないとわからないことって山ほどありますからね。
杉山: あと、面談で落とさないですよね?
佐藤: はい。先の「さとなおオープンラボ」は、徐々に応募数が増えて、教えるほうは僕ひとりなので、書類や面談などで落とす必要が出てきた。途中から倍率10倍くらいになりました。でも「Good Elders」は落とすことはしません。
というか、面談という言い方はちょっと偉そうだよね(笑)。「説明」に近いかな。まず趣旨などを伝えて、「あなたのことも教えていただけますか」という、そんな30分です。
杉山: そこから安心感がありますよね。
佐藤: 急にこんな強面のハゲが出てきたら安心できない気もするけど(笑)。まあ、僕の中では寮長さんとか寮母さんみたいな。寮に入ったばかりの人が寮長さんや寮母さんに最初に会うと安心するでしょう。あんな感じです。
杉山: 本当に安心感があります。運営にあたって他に意識していることはありますか。
佐藤: 「Good Elders」の場合、会員数は大事かなと思っています。僕は最初に150人と決め、集まったところで募集を止めて、運営を開始しました。それでわかったのが、
「同調圧力をつくらないことが一番大事」ということ 。 同調圧力がなく、ゆるく運営をすることが、特に50代、60代、70代には大切であるとわかってきました。
杉山: どうしてわかったのですか。
佐藤: 例えば、50代以上で、会社を定年退職したりリタイアしたりした人って、孤立するんです。役職定年なんかだとプライドはズタズタだし、気の合う仕事仲間も失ってしまっている。これまでの縁が切れてしまう。仕事を辞めただけでは切れない縁も、親の介護などで環境が変わると切れる場合がある。
そのような苦しみや悩みを抱えつつ、セーフティーネットもない人をコミュニティとして受け入れるときに、最低限の心理的安全性を保つのはとても重要なことなんです。心理的安全性がないと人は怖くて動けないし、どんな優れた機能があっても書き込みしないと思うから。「Good Elders」はそういった方の孤立を防ぐ形を目指しています。
杉山: 確かに孤独と孤立は違うってよく言いますね。
佐藤: 孤独はいいんですよ。「ちょうどいい孤独」はとても大事。思いや考えをまとめられるし、心や体を癒す時間にもなる。でも、孤立はしない方がいい。特に勇気を出して入ったコミュニティに馴染めなくて弾かれてしまうのは、一番痛い。
このうまく馴染めない理由の大きな部分が「同調圧力」です。「一緒に盛り上がりましょう!」「皆さん参加してください!」と言われたところで、本人にはそうできない事情がある。病気しているかもしれないし、介護真っ最中かもしれないし、そういう精神状態ではないのかもしれない。でも、盛り上げようとする人たちはそうやって「みんな集まれ!」とやってしまうんです。
僕は「いまは参加できなくても、15年後に参加できればいい」と思っています。
だから「Good Elders」は死ぬまでやります(笑) 。 30年くらいはずっと続けるから、参加できるときに参加してくだされば全然OKです。
杉山: 同調圧力なしって、本当に素晴らしい。この日本においてそんなことできるのかと思って衝撃を受けました。
佐藤: もうひとつ、僕は「コミュニティは盛り上げすぎてはいけない」という考え方をもっているから、場を盛り上げないんです。
杉山: その点も衝撃です。
佐藤: 僕のイメージでは、
コミュニティは焚き火のようなもの 。 焚き火の周りには自然と人が集まりますよね。そして自然と会話が始まる。しかし、盛り上げようとする人たちは、キャンプファイヤーをしようとするんです。もちろん最高に盛り上がるし、気持ちはいい。ただ、キャンプファイヤーには終わりが来る。火が弱まるとみなつまらなくなって離れてしまうし、祭の後という空しい状態が必ずやってくる。そこからもう一度ちょうどいい焚き火に戻すのは、とても難しいんです。
「Good Elders」でも盛り上がりかけるときはあるのですが、僕は「あさっての方向」にいろんな話題を投げたり、話題すら投げないで放っておいたりします。そうするとだんだんまた焚き火に戻るから。いい感じの焚き火になったら、ちょっとずつ自分でもまた投稿したりね。
杉山: とても共感できます。
佐藤: そして僕は、この焚き火を数十年続けようと思ってます。
例えば、誰かとお付き合いするとして、デートのときは「花火を見に行こう」「このレストランに行こう」とか華々しいイベントを考えますよね。でも、結婚して末長く添い遂げる日常が始まったら、今日は花火、明日はレストランとかって無理じゃないですか。もっと地道な毎日が続くわけです。つまり、盛り上げすぎると結婚できなくなる(笑)。
杉山: すごくわかりやすい(笑)。
佐藤: 僕はこのコミュニティを「結婚」と捉え、面談後のメールのやり取りでも「末永くよろしくお願いします」と伝えています。とにかく長く続けることを前提にする。長く続けるのであれば、焚き火の方がいい。結婚と一緒で、毎日家で地道にご飯食べたりするという関係を30年、40年続けましょうというだけの話なんですよね。
佐藤尚之|Naoyuki Sato コミュニティ「Good Elders」主宰/(株)ファンベースカンパニー 取締役会長/(株)ツナグ代表/一般社団法人助けあいジャパン代表理事/一般社団法人アニサキスアレルギー協会代表/大阪芸術大学客員教授/TCS認定コーチ/アートナビゲーター/花火師 1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・ディレクターとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。2011年に独立し(株)ツナグ設立。2015年にはコミュニティ運営の会社(株)4thも立ち上げる。2019年、野村HDとアライド・アーキテクツと佐藤尚之の三者での合弁で株式会社ファンベースカンパニーを設立。
杉山博一|Hirokazu Sugiyama 1973年生まれ。元アーティスト&デザイナー、2006年日本初の金融サービスを共同起業。2014年シェアリングエコノミープラットフォームサービス「I HAV.」をリリース、外資系IT企業日本法人代表を経て、2015年アーティスト支援のためのオウンドプラットフォームシステム「OSIRO」を着想し開発、同年12月β版リリース。
text by 堀香織