古材・古道具を活用して『健やかな循環』を生み出す
ReBuilding Center JAPAN (リビセン)。2024年11月25日に初開催された「Local Reuse Forum」では、リビセンの活動が紹介のほか、リビセンの理念に共感する方々に事業運営や経営のノウハウをシェアする「
リビセンみたいなおみせやるぞスクール 」(みたいなスクール)、卒業生の継続的な交流やサポートを目的に創設されたオンラインコミュニティ「Local Reuse Collective」について紹介されました。本記事では、フォーラムの内容を通じて、リビセンのビジョンやその広がりをお伝えします。
地域で捨てられる古材は地域の資源、次に必要な人につないでいく
DSC01559.jpeg 1.9 MB 「Local Reuse Forum」開会の挨拶をする唯史さんと華南子さん フォーラムは冒頭、唯史さんと華南子さんによる開会のあいさつが述べられた後、唯史さんによるリビセンの成り立ちや取り組みを紹介する講演が行われました。
リビセンは、夫婦で共同代表を務める東野唯史さん、華南子さんが2016年にオープン。リビセンのルーツは、米国・ポートランドに拠点を置くNPO団体「ReBuilding Center」です。
当時、店舗のデザイン、施工、運営アドバイスを行う空間デザインユニット「medicala」として活動していた唯史さんと華南子さんは、2015年に新婚旅行で訪れたポートランドの地でReBuilding Centerを訪ね、大きな感銘を受けると同時に「ReBuilding Centerのような仕組みがあれば、日本の社会問題を解決できるのではないかと考えた」といいます。
「当時から近隣の空き家が解体されていると古材を譲ってもらい空間作りをしていましたが、ほとんどは再利用されることなく廃棄物として処理されていました。一方で、2014年頃はインダストリアルデザインが流行っていて、わざわざアメリカから古材を大量輸入している状態。日本にある素晴らしい古材を捨てて、アメリカの古材を仕入れるというよくわからない状況に、当時もやもやを抱えていました」(唯史さん)
DSC01533.jpeg 2.73 MB 上諏訪駅から徒歩10分ほどにあるリビセンのショールーム。元々は工務店の本社ビルだったが、リビセンが入るまで20年ほど空きビルになっていた 日本全国に存在する空き家の総戸数は900万戸を超え、過去最多を更新し続けている状況です(※)。空き家の増加は災害発生時に二次災害や放火による地域の治安悪化の要因となっています。また、現状の空き家を解体した場合に発生する莫大な廃棄物の処理も大きな課題となっています。
「リノベーションの場合には活用する人を探し、お金を捻出する必要もあります。これほど空き家が増えている現代では、適切に解体し減らす必要があるんです。一方で、解体される家屋には使える木材や資源がたくさん含まれています。捨てられてしまう古材を地域の資源と考え、次に必要な人につないでいく。そういった循環を構築する必要があると考え、リビセンを始めました」(唯史さん)
※総務省「 令和5年住宅・土地統計調査 」 DSC01570.jpeg 2.89 MB 「Local Reuse Forum」にはリビセンやみたいなスクールに興味を持つ全国各地の人々が参加。3Fの会場に入りきらない来場者は1Fからライブビューイングでセッションを観覧した
古材・古道具とともに、家主さんの想いも「レスキュー」する
DSC01542.jpeg 3.78 MB リビセン 2Fには食器や収納、置物など古道具が陳列されている "REBUILD NEW CULTURE" オープン当初から掲げているこのスローガンには、「
次の世代に繋いでいきたいモノと文化を掬いあげ、再構築し、楽しくたくましく生きていける、これからの景色をデザインしていく 」という理念が込められています。では、リビセンは具体的にどのような事業を展開しているのでしょうか?
Rescue – ReBuilding Center JAPAN - [rebuildingcenter.jp].png 253.69 KB リビセンがレスキューを行うプロセス 。レスキューした古材・古道具は買取のほか、回収した古材や古道具を活用したギフトをリビセンが製作し、依頼主にプレゼントすることもある(画像提供:ReBuilding Center JAPAN) 軸となるのが、解体が決まった建物から古材や古道具を引き取る「レスキュー」。
リビセンの商品にはそれぞれ「レスキューナンバー」がつけられています。その商品はどのような場所からレスキューされたのか、どのようにレスキューしたのかというストーリーが記録され、 クラウド上でデータ管理されています。
DSC01539.jpeg 2.72 MB リビセン 2Fショールームに展示されているレスキューカルテ リビセンが販売する古材や古道具、そしてプロダクトの魅力は、レスキューされたもののストーリーや背景も大切に引き取りながら、次へとつなぐ取り組みにあります。
「僕たちは空き家問題だったり、そこから発生する膨大な廃棄物の問題からリビセンを始めています。ただ、レスキューに行った時に
家主さんから『気持ちが救われた』とお話しいただくこともあります 。家主の皆さんはいろんな気持ちを抱えながら解体を決断しているんですね。でも、どうしても悲しい思いは拭いきれません。
僕たちは『まだまだこのお家の材料が必要な人がいるので、僕らが一枚一枚ちゃんと剥がして、次につないでいきますね』とお話ししながらレスキューをさせてもらいます。すると家主さんもとても喜んでくれて、『そうやって誰かに使われるんだったら、この建物も報われると思います』とか『ご先祖様に顔向けできます』と言ってくださるんです。
僕らのレスキューは、家主さんの気持ちも救える 。そんな気持ちを大切にしています」(唯史さん)
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地域が元気になるためにみんなで協力し合う体制をつくる
レスキューした古材・古道具が持つ背景や物語をも受け止め、未来へとつないでいく。そのようなリビセンのカルチャーは多くの共感を生んでいます。リビセンもまたこのようなカルチャーを自身だけに留めておくのではなく、より多くの人へ伝播していくことを志向しています。リビセンでは「深める」「広げる」の二軸で取り組みを進めています。
rebuilding center japan business.jpg 54.01 KB 画像提供:ReBuilding Center JAPAN 「深める」取り組みはリビセンが所在する上諏訪の「
エリアリノベーション 」。これは再開発や区画整理による大規模・長期的な街づくりではなく、街が持つポテンシャルを活かし、価値を見出すことで徐々に街の価値や魅力を引き上げていくことでコストやリスクを下げ、スピーディーに地域の事業を生み出し育てる手法を指します。
こうしたエリアイノベーションを加速させていくため、リビセンと諏訪信用金庫、そして不動産会社の株式会社サンケイの3社により、2022年10月に
株式会社すわエリアリノベーション社 (代表取締役は唯史さん)が設立されます。
s-2400x1594_v-frms_webp_d7e63bec-6820-4145-89d1-943faf40812f_middle.jpeg 179.15 KB すわエリアリノベーション社の事業スキーム(提供:すわエリアリノベーション社) 「レスキューをしていると、古物の情報と空き家の情報がセットでやってくるんですね。 古材や古道具は今まで通りリビセンで販売していますが、空き家の情報が入った際に解体ではなく売ったり貸したりしたいという話もあります。そうしたニーズには諏訪に住んだり諏訪に根ざしたビジネスをしたいと考えている人にマッチングする。そんな仕組みがあればエリアリノベーションを活性化できると思ったんです。
一方で、
ただ闇雲にお店を増やしたり、コンテンツを増やして街を盛り上げることは正義ではない と考えています。しっかりと地域に根ざしていきいきとしたお店が持続的に続いていく。それが徐々に一つのエリアに集まっていくことで、ちゃんと街は楽しくなっていきます。僕たちは諏訪でお店をやりたいと相談に来た方には、収支計画や事業計画の策定や融資、さらには周辺のお店にも協力してもらい求人も手伝っています。
地域が元気になるためにみんなで協力し合う体制をつくっていて、事業の立ち上げという大変なところをみんなでサポートし分かち合いながら、きちんと楽しく暮らしていける状態になるまで伴走するようにしているんです」(唯史さん)
0adb44bbf49652de66166ac71eb366ce-724x1024.jpg 237.04 KB 諏訪圏域のおすすめのお店やリビセンがデザインした店舗を紹介する「上諏訪リビセンご近所まっぷ」。イラストはイラストレーターの山本ひかるさんが担当。(画像提供:ReBuilding Center JAPAN)
スクールとオンラインコミュニティによって、リビセンのカルチャーを全国に
エリアリノベーションにより諏訪地域一体でリビセンのカルチャーを深める一方で、リビセンは自らのカルチャーや取り組みを全国へと「広げる」取り組みをしています。その役割を担うのが、
2023年からスタートした「みたいなスクール」と翌2024年に創設したオンラインコミュニティ「 Local Reuse Collective 」 です。
会場では
みたいなスクールの紹介動画 を放映しつつ、リビセンの「広げる」取り組みについて紹介されました。
「みたいなスクールでは、オペレーションのレクチャーに始まり、経営面でのレクチャーではリビセンの決算資料も公開しながら細かい数字までお伝えしています。そのほかにも諏訪の街歩きや交流会、グループワークをしたりと、2泊3日の間でリビセンのことが網羅的に学べるカリキュラムを組んでいるんです。最終日には、みたいなスクールに集まった人たちに自分がやりたいお店を発表してもらう時間をとり、そこで現状の悩みもみんなにシェアしてもらっています。僕や参加者が知見を持っていればサポートを申し出たり、みんなで解決策を考えていくようにしています。
僕は居住する
地域に『健やかな循環』をもたらすのは、リビセンがやっていることだけが答えではない と考えているんです。そこでシェアしてもらった悩みはみんなの悩みとして考えることで、僕たちにとっても視野が広がる時間になっています」(唯史さん)
受講生は3日間にわたる学びをそれぞれの地域に持ち帰り、全国に"REBUILD NEW CULTURE"の種が広がっていきます。一方で、3日間では学びきれないことや忘れてしまうこともある。開業後の事業ステージによって生まれる悩みも多種多様です。
そうした受講生の悩みに伴走しながら継続的な学びをシェアし、メンバー同士が助け合える場として創設されたのが、Local Reuse Collectiveです。リビセンはコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を導入しています。
DSC01634.jpeg 1.83 MB 「Local Reuse Collective」のコンテンツ投稿画面を投影しながらコミュニティについて説明する唯史さん 「Local Reuse Collectiveでは、納品したものの紹介やレスキューで使っている道具などを公開し、より具体的で参考にしてもらいやすいコンテンツをアップしています。また、リビセンでは毎月『GoodJobMeeting』という売上速報などを社内に共有する時間を設けていますが、それもオンラインで一緒に視聴できるようにしています。
加えて、『キャッチアップミーティング』というコミュニティ内でのイベントもやっていて、メンバーがその時々に持っている悩みを個別に答える時間をつくっています。現在ではスクールを受講し、その後Local Reuse Collectiveにも参加しているメンバーが増えています。
みたいなスクール卒業生たちの取り組みが全国に広がっていけば、より多くの方々が『健やかな循環』が生まれる地域の姿を見ることができる 。
僕たちはレスキューを軸としてエリアリノベーションやデザインのノウハウをもって8年間経営を続けてきましたが、リビセンはそれを自社にとどめずにオープンソースにしています。僕らが悩んで解決したことはみんなが悩む必要はないし、そうしたノウハウの蓄積を土台に自分の特技や強みと組み合わせ、自分たちの地域資源を循環する風景をつくっていってほしいんです。そのような取り組みが全国にしっかり広がっていくことが、"REBUILD NEW CULTURE"につながると思っています」(唯史さん)
全国に広がる「リビセンみたいなおみせ」健やかな循環を生むために
丸山僚介さん デザインで社会課題と向き合うKIITOで企画運営に6年間従事したのち、工務店勤務を経てフリーに。現在は神戸市で地域資源循環のための仕組みと売場と自分の暮らしを兼ねた拠点づくりへの準備を進めている。
中川善行さん 石川県金沢市で株式会社中善工務店の代表を務めるかたわら、津幡町でカフェとマウンテンバイクパーク、ワークショップやDIYを楽しめるスペースを併設した複合施設『もくぞうこ 』を運営している。
小畦雅史さん 神戸で建築事務所の合同会社ものがたり工作所を経営する小畦雅史さん。第1回みたいなスクールに参加し、現在は神戸市長田区で「天神町stock&store 」を運営している。
渡辺一博さん 山梨県甲府市で2023年から古道具店「Cycle」 を運営。渡辺さんも第1回みたいなスクールの受講生。当時は甲府市役所で働く公務員だったそう。
中嶋皓平さん リビセンで制作チームのリーダーを務める中嶋さん。現在は自身の「みたいなおみせ」の開店準備中。
岸本優芽さん リビセンでLocal Reuse Collectiveやみたいなスクールの企画運営、リビセンのサポーターズの対応などを担当する。
このように、クロストークに登壇した卒業生は、居住する地域やバックグラウンドも異なり、現在の事業フェーズもさまざま。そのような登壇者の視点から、みたいなスクール以後の卒業生が現在向き合う取り組みや課題について語り合いました。
印象的なのは、
それぞれの卒業生たちがリビセンのカルチャーをベースとしながらも地域ならでは、自分ならではの事業アイデアを生み出している点 です。家業で培ってきた資源を活用する例、企業に所属しながら新規事業として「みたいなおみせ」を開業しつつ、主事業にも通底するビジネスモデルをつくり出している例など、卒業生たちの取り組みはリビセンのカルチャーを踏襲しつつも、とても特徴的です。
一方で、共通していたのは「
みたいなスクールで得た学びと仲間とのつながり、支えが活動の推進力になっている 」という点でした。今回のクロストークでもそれぞれの卒業生が持つ課題も共有され、それに対してそれぞれが自身の意見を持ち寄る。そしてリビセンがハブとなりつつ新しい可能性を模索していく。そのようなコミュニケーションのあり方が垣間見えるクロストークでした。
DSC01814.jpeg 2.52 MB 今回のフォーラムでは、リビセンが掲げる理念が、全国各地の卒業生によって形を変えながら、確実に実現されつつあることが実感できるものとなりました。みたいなスクール、そしてオンラインコミュニティ「Local Reuse Collective」を通じて広がるつながりが、さらに多くの地域で新たな挑戦を生むことが期待されます。
リビセンが掲げる"REBUILD NEW CULTURE"が日本全国の地域へと浸透していくごとに、日本の地域はより楽しく、より豊かな風景が広がっていくことは間違いありません。
そのためには、この「つながり」をより広く、強固にしていくことが求められます。オシロは「Local Reuse Collective」がより素晴らしいオンラインコミュニティへと成長するため、今後も支援して参ります。
「リビセンみたいなおみせやるぞスクール」と「Local Reuse Collective」について 「リビセンみたいなおみせやるぞスクール」は2023年に発足したスクール。全国で資源の回収・再利用に取り組みたい!と願う人たちに、2泊3日のレクチャーによりリビセンの理念や経営ノウハウなどを伝える。参加後には参加者専用のオンラインコミュニティ「Local Reuse Collective」フォローアップしあえる環境が用意されている。 ▼「リビセンみたいなおみせやるぞスクール」の詳細・募集情報はこちら https://school.rebuildingcenter.jp/