2006年の発足以来、長きにわたり日本の読書会文化をけん引し続けてきた日本最大級の読書会コミュニティ「猫町倶楽部」。しかし、発足20年の節目を前に、主宰の山本多津也さん(以下、山本さん)が下したのは「コミュニティを解散する」という、大きな決断でした。
年間のイベント数は約300回、参加者数は延べ人数は12000名を超える読書会コミュニティを解散し、新生読書会コミュニティ「猫町.」を発足し再始動したのには、どのような背景や想いがあったのでしょうか。山本さんに聞きました。
猫町.
2026年発足の読書会コミュニティ。読書会のスタイルは「猫町倶楽部」時代と変わらず、指定された書籍を読み、世代や立場を超えて意見を交わす課題本型読書会のスタイルをとる。読書会にはオフライン/オンラインいずれも会員以外でも参加可能で、オンライン読書会は月に10回ほど、オフライン読書会は東京、大阪、名古屋を中心に全国各地で毎月開催されているため、参加したい読書会を選びながら毎月1回ほどの頻度で無理なく参加できる。
コミュニティ会員はオンライン会員、地域会員、ハイブリット会員(オンライン、オフラインいずれの読書会も参加したい方向け)などが用意されているほか、35歳以下は会費が割引になる「U35会員」制度もあり、参加ニーズによってさまざまなプランが選択可能。コミュニティに参加すると毎月一回の読書会が無料になるほか、本の感想シェアや書評ブログ、読書会の感想戦など、読書好き同士での交流を心置きなく楽しめる。
猫町.の読書会情報、参加申込みはこちら▼
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コロナ禍を機に読書会の開催数が増えていく中で募っていった「コミュニティ衰退」への強い危機感
DSC00749.jpeg 7.8 MBーーまずは「猫町倶楽部」の解散と「猫町.」発足の背景からお尋ねしたいと思います。2026年は発足20年の節目、山本さんとしても大きな決断だったかと思いますが、この決断に至る経緯についてお聞かせください。
山本多津也さん(以下、山本さん): そもそもの発端は、コロナ禍の頃に遡ります。もともと私は自書の『
読書会入門』でも書いた通り「オンライン読書会はやりたくないし、やらない」という強いポリシーを持っていました。しかしコロナ禍になり、活動を中止・休止せざるを得なくなりました。これが1年や2年も長引く可能性があるなと感じ始めた時、休んでいる場合ではないとオンラインに舵を切ることにしたんです。
ただ、
やるからには「どこにでもあるような、誰でもできるオンライン読書会を猫町がやる意味はない」と考えました。オフラインであれば、1回に100人や200人が集まっても、読書会が始まる前や懇親会の場で、違うグループの人とも自由に話して仲良くなることができます。しかしオンラインだと、画面上で1人が話している時は他の人は聞くしかありませんし、ブレイクアウトルームでグループに分かれてしまうと、他のグループの人とは全くコミュニケーションが取れません。これではただ大人数を集めても、あまり意味がなくなってしまいます。
そこで、「『源氏物語』を毎日一帖ずつ読み、54日間で全部読破する」というような、この組織力がないと絶対に真似できない「毎日読書会」の仕組みを考えました。これなら猫町倶楽部がオンラインをやる意味があると重い腰を上げたわけです。最初の1年くらいは外出自粛の時期でもあり、参加者にものすごく好評でした。
ーーコロナ禍でやむを得ずオンラインに舵を切った一方で、むしろ読書会の開催数を増やしていったということですね。
山本さん: 猫町倶楽部の20年の歴史の中で、活動量をグッと増やしたタイミングが2回あります。1回目は私が離婚した時です(笑)。時間がたくさんできて自分も寂しかったので開催数を増やしました。そして、2回目がコロナ禍の頃です。
しかし、コロナがだんだん落ち着いて日常が戻ってきた時にも、コミュニティの体制全体が「毎日読書会ができる組織体」のままカチッと固まってしまっていました。月に平均28回ほど、ほぼ毎日どこかで公式の読書会が開かれていて、それぞれの会に10人から30人が分散して参加している状態です。
一見、
毎日たくさんの課題本が選べて活発に見えるのですが、OSIROの管理画面にあるアナリティクスで会員のみなさんの参加状況を細かくデータ分析してみると、中央値で「月に1回程度」の参加だったのです。ものすごく熱心に参加してくれる上位2割ほどの方でも月に3〜4回で、毎日開催している意味が実質的になくなっていました。
ーーしかし、一旦活動量を増やしてしまうと、ブレーキをかけるのも難しくなってしまう。主宰者としても疲弊したまま走り続けることになってしまいます。
山本さん: そうです。なにより、旧体制のまま毎日読書会を開催し続けていると、月に1回参加してくれている
メイン層の方たちも「自分は月に1回しか参加できていないから、全然コミュニティにコミットできていないな」という引け目を感じてしまう構造になっていたのです。
読書会は参加数を競うものではありません。本来、私たちが一番大切にしなければいけないのは、月に1回、じっくり1冊の本に向かい合って参加してくれる方たちのはずです。しかし、毎日次から次へと読書会が開催されることで、「次の読書会が待ち遠しいな」「この1ヶ月の空白の間に、じっくりこの課題本を読もう」という、あの豊かで濃密な時間がコミュニティ全体から薄れてしまっているように感じました。
そして私自身も「
日々の開催をただこなすだけになってしまい、場づくりが雑になっていたのではないか」と、深く反省した瞬間があったんです。このままでは絶対にコミュニティとして衰退していってしまう。強い危機感がありました。
現状維持バイアスを破るために「解散」し、運営体制・プランを抜本的に刷新。読書会コミュニティとして一から出直す
DSC00778.jpeg 7.99 MBーーそうした危機感があるからこそ、部分的な改革ではなく、あえて「一度解散する」という決断をされたのですね。
山本さん: 実は、最初は少しずつ変えていこうと思って、今年の1月にメンバーを募り改革を先導するためのタスクフォースを立ち上げました。しかし、最初の会合を大阪で開いたのですが、その時にはすでに解散を決意していました。
ーーしかし、20年もの蓄積があるコミュニティを解散するのは、勇気のいる決断だったのではないでしょうか。
山本さん: 20年間、コミュニティを運営してきて痛感しているのですが、人間は「良くなる」と言われても、本質的に変わることを嫌います。そして、現状がたとえ少し悪い状態や、悪くなりつつある状態であったとしても、変わらないことを望む方が多いです。なぜかというと、想像できない未来の楽しさよりも、悪くても先が想像できる現状維持の方が、安心できて居心地が良いからです。
他人から見たら「早く離れた方がいい」と思うような場所から人がなかなか離れないのも、見えない未来に対する恐怖があるからです。だから、
少しずつ部分的に変えようとすると、その都度小さな反発や摩擦が起きて、変える側である自分自身が疲弊して嫌になってしまうだろうと考えました。
「それなら一度すべてを綺麗に終わらせて、有無を言わさずにゼロからつくり直す解散が一番いい」。新宿を歩いている時に突然、そう直感したのです。「あ、解散っていう手があった。これが絶対いいぞ」と、腹が決まったのを覚えています。
ーー現状維持バイアスを突破するためにも「解散」が最適解だったということですね。しかし、タスクフォースのメンバーの方々は驚いたのではないでしょうか。
山本さん: もちろん、メンバーからは驚きの声もありましたが、僕の性格をよく知っている人たちばかりなので「それがいいと思います」と理解を示してくれました。
image6.jpg 145.68 KB「猫町. 」のキービジュアル(提供: 猫町.)ーーでは、解散を経て新しくなった新生読書会コミュニティ「猫町.」は具体的にどのように変わったのでしょうか。
山本さん: 外から見たら、「猫町倶楽部」と「猫町.」では読書会のスタイルや課題本の傾向がガラッと変わったわけではないので、なにが変わったのかよく分からないかもしれません。でも、
中身の運営体制や思想は180度変わりました。
これまでの20年間、運営体制においては「ヒエラルキーをつくらず、主宰者としての私がいつつもそれ以外のメンバーは全員がフラットである」という思想を守り続けていました。しかし、今回の刷新によって、
運営体制に私を含めた10人の「執行部」という組織を立ち上げ、今までは私一人で考えて指示していた運営を、この10人のチームで考えて動かす体制に変えました。
また、今までは「手を挙げたら誰でもサポーター(※)になれるし、役割も全員で平等に分担する」というやり方をしていましたが、それもすべてやめて
サポーターは完全な推薦制を採用し、適材適所で執行部がメンバーを配置する形に変えました。また、以前はサポーター制度に月会費の値引き特典などを設けていましたが、それも一切廃止しました。今は運営にコミットしている執行部のメンバーも、一般の参加者も、全員支払う会費はまったく同じです。しかし、これはむしろ、サポーターをしていた方々から「そうしましょう」という意見が出て決まったことです。
※読書会当日の運営などをサポートするメンバーのこと
ーー運営体制としては抜本的ともいえる改革です。
山本さん: 読書会を運営することに純粋な喜びや楽しさを感じられる人だけが残ってくれればいい。もしそういう人が執行部の10人しかいないのなら、その10人でできる規模からやり直せばいい。そんな覚悟で解散をしました。結果的には、サポーターの方々もそこまで人数が減ることもなく、良いスタートを切ることができています。
さらに、
会員区分も「オンライン会員」「地域(オフライン)会員」「ハイブリッド会員」に整理し、「月に1回、必ず読書会に来てください」というメッセージを明確に打ち出しました。つまり、月に1回参加しないと会費がもったいない、と感じるような設計にしています。
現在は東京、名古屋、関西の各地域にそれぞれ代表を立ててスポットライトを当て、僕一人が前に出るのではなく、彼らを中心にしてコミュニティの平均年齢を今の45歳から37〜38歳くらいへ向けて、少しずつ若返らせていきたいと考えています。
今の時代、若い世代の動向をデータ分析してみると、明らかにみんなオンラインではなくリアルなオフラインの場に行きたがっている傾向があります。そのため、20代から30代前半は割引会費で参加できる「U35」という枠を新設しましたが、彼らは確実に地域会員(オフライン)を選んでいます。デジタル社会だからこそ、リアルにスマホを置いて本を読む空間や、人と直接対話する場所が求められているのだと感じます。
image5.png 134.75 KB猫町.の料金プラン一覧(提供: 猫町.)
読者の熱量からボトムアップで社会を動かすような文化運動を仕掛けていきたい。読書会には、それほどの可能性がある
DSC01024.jpeg 3.18 MB猫町.の読書会でチェックインの挨拶をする山本さんーー長年読書会を主宰する山本さんとして、「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「ファスト教養」が重視される現代において、読書会という「じっくり本を読み人と対話する体験や場」の価値はどこにあるとお考えでしょうか。
山本さん: 今はAIに要約をしてもらったりして、世の中全体が「パッとすぐにわかること」を求めていますよね。しかし、
私は「簡単にわかった気にならないこと」こそが、本当の知性だと考えています。
小林秀雄の『美を求める心』には、このような言葉があります。
“例えば、諸君が野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それは菫(スミレ)の花だとわかる。何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。”
本当はそのスミレにだって、一つひとつ異なる個別性や複雑さがあるはずなのに、名前というラベルを貼ってわかったつもりになると、思考が止まってしまうわけですね。
簡単に分かった気になってしまうのは、その物事が持つ本来の意味や素晴らしさを見過ごすことにつながります。だからこそ、1冊の本に3時間も4時間もかけてじっくりと向き合い、流れていかない文字をあえて立ち止まって考え、それを持ち寄って人と話す時間は、現代においてこれ以上ないくらい贅沢で必要な営みではないでしょうか。
自分では「わかった」と思って読書会に来たとしても、他人の全然違う視点に触れることで、「あれ、自分はわかった気になっていたけれど、実はなにもわかっていなかったかもしれない」という知的な揺らぎに出会うことができる。そういう場が、今の社会には絶対にあった方がいいと、私は考えています。
ーー他者の視点に触れ、自分だけでは見出せなかった気づきに出会う。読書会で得られる体験には、他にはない特別な力があると感じます。
山本さん: 今後、社会の孤独問題はより一層深刻になっていくと思います。「週末に誰とも会う友達がいない」という人が増え、それに合わせた孤独対策の便利なサービスが増えれば増えるほど、人は余計に孤立していきます。
ですが、人と直接対話するということには、ものすごい力があります。そして本という存在が真ん中に1冊あるだけで、普段の友だち同士では照れくさくて絶対に話さないような「人生とは」「死とは」「信じるとは何か」といった深いテーマについて、驚くほど自然に、カジュアルに話すことができるようになります。
本を間に置くコミュニケーションを通じて対話を重ねることで、お互いの人となりが深くわかり、本当の意味での友だちができて孤独が薄まっていく。本を読んで、人と深く対話して、素敵な仲間ができる。これって、本当にいいことしかない、一石二鳥の営みだと思うんですよね。
ーーそれでは最後に、山本さんが「猫町.」で目指すものや、今後の読書会の文化を普及のためにやっていきたいことについてお聞かせください。
山本さん: 今後は、猫町.をただ丁寧に運営していくだけでなく、書店さんや出版社さん、他の読書会団体やOSIROとも手を取り合って、全国規模の「読書会フェス」のようなものを開催できたらおもしろいと妄想しています。
朝から夜まで色々な場所で、ある部屋では紹介型、ある部屋では課題本型の読書会が同時多発的に行われていて、作家さんを招いたトークイベントもある。そこで選ばれた本が「読書会フェス大賞」として本屋大賞のように世の中で話題になり、一気に何百冊、何千冊と古典や人文書が実売につながっていく。そんな、読者の熱量からボトムアップで社会を動かすような文化運動を、これからは仕掛けていきたいですね。読書会には、それほどの可能性を持っていると思っているんですよ。
私自身、すでに還暦を超えましたけれど、死ぬまで大好きな読書会を、自分自身が一番楽しみながら、丁寧に続けていきたいと思っています。そのためにも、猫町.に限らず多くの読書会団体の方々や出版業界の皆さんとも一緒に、読書会文化を盛り上げていきたいですね。ぜひ一緒に楽しい企画をつくっていきましょう。
山本多津也さん
読書会コミュニティ「猫町.」主宰
住宅リフォーム会社を経営する傍ら、2006年から読書会をスタート。旧・猫町倶楽部を20年運営し、日本最大級の読書会コミュニティへと育て上げる。2026年、猫町倶楽部を解散し、新生の読書会コミュニティ「猫町.」を発足。コミュニティ刷新後もオフライン/オンラインで読書会を開催し、国内外を問わず広く読書会の門戸を開いている。
著書に『読書会入門 人が本で交わる場所』(幻冬舎)がある。
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Instagram: tatsuya_nekomachi