少子高齢化の影響から地域の書道教室が減少するなか、場所と時間の制約を取り払い、誰もが気軽に書道を始められる場を創出する書道家の姿があります。オンライン書道教室「
静芳書塾オンライン」を主宰する大江静芳さん(以下、大江さん)です。
静芳書塾オンラインは一方通行の動画配信にとどまらず、一人ひとりの生徒に向けた丁寧な説明やフィードバックを実現し、生徒同士でも自発的に声を掛け合う切磋琢磨の場となっています。YouTubeチャンネル累計登録者14万人を突破する人気書道家の大江さんは、なぜ静芳書塾オンラインを開塾したのでしょうか。その背景や現在の活動、そして今後の取り組みについて、大江さんに聞きました。
静芳書塾オンライン
10年以上にわたり書道教室や中学・高校で指導を行い、これまで500名以上の生徒に書道を教えてきた書道家・大江静芳さんが2025年に創設したオンライン書道教室。自宅にいながら本格的に書道を学び、仲間と励まし合いながら楽しく続けられるため、初心者でも始めやすく、成長を実感しやすい。活動は講義形式のライブ配信の他、毎月初めに2本「今月の課題」としてお手本が提示され、提出された課題は大江さん本人が添削しフィードバックする。その他にもゲストを招いた特別講座や書道用品についてのレクチャー、公募展への応募など、オンライン/オフラインを問わずさまざまなイベントが開催されている。
静芳書塾オンラインの詳細・入会はこちら▼
https://seihou-online.com/about
時間と場所の制約がなく、いろんな人が気軽に書道を始められる場をつくりたい
DSC01471.jpeg 8.64 MBーー大江さんは「静芳書塾オンライン」を始める前から、YouTubeやnoteのメンバーシップでの活動に取り組まれています。そういった活動を始められたのは、どのような経緯があるのでしょうか。
大江静芳さん(以下、大江さん): YouTubeを始めたのはコロナ禍がきっかけでしたが、教室を運営していて、時間と場所の制約については以前から考えていました。
世の中には「書道をやりたい」という人がたくさんいるのに、仕事をしているからなかなか時間が合わなかったり、近くに書道教室がなく諦めてしまっている方が多いです。「もう少し気軽に始められる方法はないのかな」というのは、実はコロナ禍の前から思っていたことでした。
ーーやはり、現在ではいわゆる「町の書道教室」のような存在は減ってきているのでしょうか。
大江さん: 美文字ブームやインバウンドなどの需要から増えた時期もあったと思いますが、個人の書道教室に限っていえば減っているのではないでしょうか(※)。私が書道教室を開いている地域も小学生の時には近所に3、4軒はあったと思うのですが、先生たちが高齢化し教室を縮小したり閉じてしまっている方が多いですね。
加えて、やはり
書道教室が持つ「場所の制約」は大きく、そこに対応できずに教室を閉じてしまうケースもあると思います。昔は自宅で教室を運営している方が多かったイメージですが、今の若い方が「じゃあ自宅でやろうか」と言っても難しいですし、かといって場所を借りるとなると家賃が高い。私も対面指導をする方の静芳書塾は実家でやっていますが、「もし実家がなくなったら」と考えると、継続していくのは非常に難しくなるだろうと考えています。
ーーコロナ禍では対面指導が大きく制限されました。そうした中で、オンラインでの活動が始まっていくのですね。
大江さん: 当時は職場や学校にも通えない時期で、当然習い事も自粛となりました。そんな中でしたので、最初は「時間もできたし、動画でもアップしてみようかな」と思いついて、手始めに自分の書道教室の生徒たちに向けて「筆の洗い方」などを少し編集して発信してみることにしたんです。
その後、自粛期間も明けて書道教室も再開したのですが、年末ぐらいに「
せっかくアカウントをつくったし、一般の方向けに発信してみよう」と思って筆ペンの持ち方についての動画を出してみたら、それがかなり好評をいただけて。そこからまじめに動画を投稿するようになりました。
ーーそんな中で、大江さんは2025年3月からオンライン書道教室「静芳書塾オンライン」を開塾されています。そこにはどのようなきっかけや背景があるのでしょうか。
大江さん: 一番大きいのは、以前から考えていた「
時間と場所の制約がなく、いろんな人が気軽に書道を始められる場をつくりたい」という思いを実現したいと思ったからです。
やはり、書道で上達するとなると、先生からの指導がないと難しいです。もし遠隔で指導するのであれば、郵便物でやり取りし添削する通信教育のスタイルか、現在静芳書塾オンラインでやっているようにデジタル上で直接添削するやり方になると思いますが、いずれにしても、やはり「赤入れ」は絶対に必要になってくると思っています。
そう考えると、やはり一方通行のコミュニケーションで書道を教えるのは難しく、通信教育のスタイルでは郵送の手間などモチベーションを下げる要素が多く、挫折しやすいです。
しっかりと生徒の方々とコミュニケーションが取れて、楽しく書道を続けられる場にしたい。それが、静芳書塾オンラインを始めた理由です。
com_トップ画像.jpeg 223.31 KB静芳書塾オンラインのメイン・ビジュアル(提供:静芳書塾)
ーー双方向のやり取りができるプラットフォームにはさまざまな選択肢があったかと思います。大江さんはオンライン書道教室を立ち上げるにあたり、どのような点を重視したのでしょうか。
大江さん: そうですね、さまざま検討させていただいたのですが、一つ意識した点はやはり「人」ですね。
教室は長期的に運営していくものですから、機能が充実しているのも大切ですが、しっかりとサポートしてくれる体制があるかという部分もとても大切です。
加えて、書道教室に参加される生徒さんの中には60代、70代の方もいらっしゃるので、
アプリの構造がそこまで複雑ではないという点も重視しました。いくら便利な機能が多くても、操作が複雑だと使い方がわからず諦めてしまいます。せっかくチャレンジしたいと思って参加してくださったのに、そこで離脱されてしまうのはとてももったいないです。そのため、教室運営もあまり複雑な仕組みにはしたくないという思いがありました。
一方で、教室運営として必要な機能がすっきり整理できる点も重視しました。例えば「自習室」「課題提出」「質問・雑談部屋」と部屋を分けをしやすかったり
操作性が良いかという点も、教室を運営していくには大切なポイントだと思います。
スクリーンショット 2026-07-08 19.07.21.png 84.83 KB静芳書塾オンラインの部屋分け。書道に関する文脈と大江さんや生徒さんが交流する部屋を分けることでカテゴリごとにタイムラインが整理されている(提供:静芳書塾)
※東京商工リサーチの調査によれば、2023年の書道教室の新設法人件数は増加しているものの、事業所数は2016年の9,020件から2021年は7,005件と5年間で2割以上も減少している。(出典: 東京商工リサーチ TSRデータインサイト『「書道教室」に異変!新設法人と倒産廃業が増加 美文字ニーズと副業、インバウンド客でブーム復活も』2025年3月29日公開)
オンライン書道教室であっても生徒同士が声を掛け合い、切磋琢磨できる場を実現
DSC01503.jpeg 11.81 MBーー静芳書塾オンラインを運営してみて、大江さんは「書道をオンラインで指導する」という点について、どのような違いがあると感じていますか?
大江さん: 静芳書塾オンラインを立ち上げた理由でもありますが、
オンラインの良さはやはり場所と時間の制約がなく、それぞれのペースでできることだと思います。対面の教室だと実際にその場所へ行って書かなければいけませんが、オンラインであれば仕事や家事があってもスキマ時間に筆を手に取ることができます。例えば、私自身も今子育て中なのですが、「子どもが寝た後に筆を取ろう」といったことが可能です。すでに子育てが落ち着いている方であれば「夜に晩酌しながら書こうかな」ということもできますし、
自分が好きなタイミングで取り組めるのがオンラインのメリットですね。
一方で、対面の良さは、直接目の前で筆遣いを見られることもそうですし、教室に行くことで「書く時間」が強制的に確保される点です。どちらが良い悪いというのはないと思いますが、そういった違いはあるかなと思っています。
ーーたしかに。特に毛筆の上達には筆の持ち方や筆遣いなど、身体的な所作を指導することも大切です。大江さんはオンライン上でどのように説明されているのでしょうか?
大江さん: 私の場合は手元を映す上からのカメラと、正面からのカメラの2つがあるので、それを駆使して「今、私はこれくらい肘が上がっていますよ」というのを見せたりしています。加えて、
言葉にして説明することも非常に重要だと感じています。
子どもの頃はなぜそうするのかという道理がわからなかったので、「とにかく肘は上げるものだ」と言われ続けて自然と覚えたのですが、やはり
直接指導ができないオンライン上では「なぜこうして肘を上げることが大切なのか」を論理的に説明し、生徒さんたちに意識してもらう必要があります。そうして動画つくったり指導していったおかげで、私の言語化能力もかなり高まったような気がしています(笑)。
スクリーンショット 2026-07-08 19.11.33.png 385.64 KB静芳書塾オンラインの授業アーカイブ。授業では手元を映すカメラと正面カメラの2視点で指導が行われる(提供: 静芳書塾オンライン)ーーたしかに、リモートで生徒さんたちに一つひとつの所作を説明するのは難しそうです。
大江さん: ただ、静芳書塾オンラインをやっていて気づいたのですが、大人の生徒さんの方がオンライン指導に向いているのかもしれません。子どもの場合はニュアンスで伝えてもある程度は感覚で覚えてしまうものですが、
大人になると「ここがこうだから、こうなっているんだ!」と仕組みや理屈がわかった方が覚えやすいです。そういった意味では、
オンラインの指導では映像だけでなく、「言葉での説明がしっかりと伝わっているのか」を意識することも大切だと思っています。
ーーリアルの教室だと「その場に行くから書く」というのが一つのモチベーションになっている面もあります。オンラインの場合はモチベーションを維持してもらう取り組みが必要になってくると思いますが、静芳書塾ではどのようなことをされているのでしょうか。
大江さん: 静芳書塾オンラインで取り組んでいることとしては、
切磋琢磨して皆さんで声を掛け合える場づくりをしています。通常の通信教育では一方通行のやり取りで十分なのですが、それだと他のメンバーとのつながりがなく、孤独で黙々と書かなければならないため、モチベーションが下がりやすいと思います。
オンライン書道教室を運営するのには、まさに生徒さん同士でのつながりを創出できる利点があります。例えば今朝も、ある生徒さんが作品とともに地元の風景の写真を上げてくださっていたんです。生徒さん同士で作品を見せあうだけでなく、そういった
日常的なことでコメントのやり取りをしてつながりが生まれるのは、モチベーションの維持につながっていると思います。
ーー静芳書塾オンラインを見ていると、投稿に対してたくさんのリアクションを寄せられているのがとても印象的です。それぞれの作品の良いところをコメントしたり、励まし合ったりするやり取りを見ると、思わず入会したくなりますね。
大江さん: ぜひ入会してください(笑)。ただ、以前生徒さんたちと個別に1on1をやったことがありましたが、その際に「どれくらいコメントを返したらいいですか?」というお悩みもいただくこともありました。メンバーの大半はSNS世代ではないので「返信などが少し苦手なんです」とおっしゃる方もいて、返信するのをプレッシャーに思ってしまうのもよくないことだと気づきました。一方で、とても積極的にコメントしてくださる方の中にも「一人に返信したら全員に返さなきゃいけないんじゃないか」とプレッシャーに感じている方もいらっしゃいました。
そこで、静芳書塾オンライン内では「全然無理しないでください。学びの場として見るだけでもいいですし、もし反応するにしてもスタンプだけで大丈夫です」とお伝えし、なるべくやり取りを負担に感じないようにアナウンスしています。
程よい距離感で、まずは純粋に書道を楽しんでほしい。それを第一に、みんなで励まし合える、温かい書塾をつくっていきたいと考えています。
静芳書塾オンラインが書道の世界を広げ、より一層好きになれる場にしていきたい
DSC01613.jpeg 5.32 MBーーこの静芳書塾オンラインがオープンしてからの期間の中で、大江さんの中で印象に残っているエピソードなどはありますか?
大江さん: 書道経験や始めた時期は生徒さんによってまちまちなのですが、静芳書塾オンラインで小学校の書写の授業以外で、初めて筆を持ったという方がいます。その方が「
入塾してから現在までの1年間でこれだけ変わりました!」とご自身で比較画像をつくり投稿してくれたのですが、それを見ると線の美しさが劇的に変わっていて感動しました。
生徒さんご自身が字が上手になっていることを実感し、それを報告してくれたことはとても嬉しくて、こういった場をつくって本当によかったと思いました。
書道は筋トレと一緒で、やればやるほど1本の線が引き締まってきます。実は、静芳書塾オンラインでは8月に生徒を募集する予定なので、7月を募集月間として色々な企画をやりたいと考えています。その企画の一つとして、もう一度最初の課題をみんなで書いてみて、ビフォー・アフターを公開できたらいいなとも思っています。
スクリーンショット 2026-07-17 12.59.29.png 283.7 KB取材後に芳書塾オンライントップページに掲載されたメンバーさんのビフォー・アフター(提供:静芳書塾オンライン)ーーやはり自分の成長に自信をつけている方は多いのですね。メンバーさんの中で公募展への応募などにチャレンジする方もいらっしゃるのですか?
大江さん: それで言うと、昨年の秋に「
公募展にみんなで挑戦しよう」という企画を始めて、先日2回目を実施したのですが、1回目からたくさんの方が参加してくださいました。応募したのは私の母校の大東文化大学が主催している全国書道展なのですが、とりあえず
「自分の作品をつくって公の場に出す」ということ自体が、やっぱり張り合いになるんですよね。それで年に2回くらい、公募展に出す企画をしています。これを続けていけば、みんなちょっとずつ成長していくんじゃないかなと思っています。
実は、先ほどお話しした通り、私自身そういう公募展に出したことがあまりなかったのですが「じゃあみんなと一緒に私もやります」と言って、私も一緒に作品を提出したんです。心の中で「これで生徒さんと同じ賞だったら、先生としてマズいな……」とか思ったりもしたんですけど、無事、特別賞に選ばれて安心しました(笑)。
静芳書塾メンバーさんの声.png 373.87 KB公募展後の生徒さんのつぶやき。大江さんのnoteでは、静芳書塾のメンバーへのインタビュー記事も掲載されているーーそれでは最後に、先ほど8月から新しいメンバーを募集するとお話しされていましたが、今後の静芳書塾オンラインのご展望をお聞かせいただけますか?
大江さん: 静芳書塾オンラインは2年目となり、開塾当初から続けてくださっている生徒さんは一通りの課題をこなしたことになるため「もうちょっとレベルアップした課題を書きたいな」と思う生徒さんも多いと思います。そのため、
8月からは課題の形式を変えて、幾つかのレベルや種類から課題を選び、少し難しいものにも挑戦できるようなかたちにしていこうと考えています。
また、最近では書道用品専門店にご協力いただき硯についてのレクチャーを実施したり、篆刻家の方をゲストにお招きして「落款印(らっかんいん)」についてのオンラインイベントを開催したりもしました。そういった書道に関するものごとへの知見を広めるイベントを増やしていくことで、
静芳書塾オンラインが生徒さんたちの書道の世界を広げ、仲間とともにより一層書道が好きになれる場にしていきたいです。
大江静芳さん
書道家
東京都西東京市生まれ。小林勧掌に師事。2013年 大東文化大学書道学科 卒業後、自身の書道教室「静芳書塾」を開塾。2020年 「静芳のYouTube書塾」をスタートし、チャンネル登録者14万人を突破(2026年7月時点)。
著書に『NHKまる得マガジン 8つのコツでみるみる美文字』(NHK出版)、『今日から美文字』(エクシア出版)等、監修書籍に『スヌーピー 心をととのえる美文字BOOK』(光文社)、『SPY×FAMILYワークブックアーニャときれいにかけるカタカナ』(集英社)等多数。
公式サイト: https://www.seihouoe.com/
YouTube: 静芳のYouTube書塾
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