2026年4月、東京・あきる野の緑豊かな閑静な住宅街に、一つの美しい保育園が生まれました。国際モンテッソーリ協会(AMI)認定資格を持ち、約10年にわたり幼稚園と保育園で幼児教育の現場に立ち続ける北川真理子さんが開園した「オリーブモンテッソーリこどもの家」です。
北川さんはこれまで、モンテッソーリ教育を自宅で取り入れる「おうちモンテ」の実践方法を発信しつつ、おうちモンテの実践方法を学びながら、子育てママパパ同士での交流を促進するオンラインコミュニティ「
子育ての学校 」を運営し、正しくわかりやすい最新のモンテッソーリ教育の知識と実践方法を伝え続けています。
そのような北川さんにとって、保育園の開園はご自身の活動にとっても新たな境地を切り拓くものとなります。北川さんは今後のご自身の活動やモンテッソーリ教育の普及に、どのようなビジョンを持っているのでしょうか。オリーブモンテッソーリこどもの家に伺い、北川さんにモンテッソーリ教育との出会いやご自身の活動にかける想いをお聞きしました。
※今回の取材は事前の許可をいただいた上で園内を取材、撮影させていただきました
子育ての学校 「おうちではじめるモンテッソーリ教育」をコンセプトに、自宅でモンテッソーリ教育を取り入れる方法や家庭での環境づくりや遊び・活動の工夫、子どもとの関わり方を学ぶオンラインコミュニティ。国際モンテッソーリ協会(AMI)認定資格(0-3歳、0-6歳、認知症ケアワーカー)、幼稚園教諭一種免許、保育士資格を持ち、幼稚園や保育園で約10年の幼児教育経験を持つ北川真理子さんが校長を務め、最新のモンテッソーリ教育への理解を深めるとともに、長年の幼児教育の現場で培った知見をもとに家庭で実践可能なモンテッソーリ教育の実践方法を伝えている。 コミュニティ内では子どもとの関わり方、自宅の環境づくり、具体的な活動を紹介する5分〜15分ほどの動画400本以上が常時閲覧可能であり、子育てのあい間のすきま時間で学びやすい。また、月替わりで子育てに関するテーマで交流するオンライン交流会や、気軽に参加できるオープンチャットイベントが開催されており、子育てへの学びを深めるだけでなく、価値観の合うママパパ同士で学びを深めたり、知見や悩みをシェアし合える仲間づくりの場にもなっている。 詳細・入会申し込みはこちら▼https://kosodate.school/about
「幼稚園の先生になりたい」幼少期から抱き続けた夢とモンテッソーリ教育との出会い
DSC09089.jpeg 6.63 MB 北川真理子さん JR秋川駅から徒歩15分、瀬戸岡歴史環境保全地域に程近い緑の多い住宅街。その一角に、「オリーブモンテッソーリこどもの家」があります。一軒家を改築した園内に入ると、ゆとりある空間の中で思い思いの活動に打ち込む子どもたちの姿がありました。
DSC08747.jpeg 7.85 MB 色彩感覚を養うモンテッソーリ教具「色板」に取り組む園児とそれを見守る保育士さん 最初に驚いたのは、子どもたちが手にする「モンテッソーリ教具(※)」の美しさ。
モンテッソーリ教育は、考案者であるイタリア人医師のマリア・モンテッソーリ(1870〜1952年)の「子どもには自分を育てる力(自己教育力)が備わっている」という理念のもと発展してきた子どもの自主性・独立心・集中力を育む教育法 です。モンテッソーリ教育に使われる教具は、まさに子どもの自己教育力を育むためにデザインされた学習道具だといいます。
DSC08881.jpeg 2.69 MB 品詞を球形や三角形などのシンボルとして理解する言語教育の教具 「とてもきれいですよね。実は私も最初は教具に魅せられて、モンテッソーリ教育に興味を持ったんですよ」
教具の美しさに感動していると、北川さんはそう言って笑いながら、ご自身とモンテッソーリ教育との出会いについて語ってくれました。
「もともと私は子どもの時から小さな子のお世話をするのが好きで、将来の夢はずっと幼稚園の先生でした。それで中学生になったある日、みんなで将来の夢について話していると、モンテッソーリ教育の幼稚園に通っていた友だちから『モンテッソーリの先生になりなよ!』と言われたんです。そこで初めて見せてもらったのが、モンテッソーリの教具でした。『こんなおもちゃがあるんだ。おもしろそう!』と思ったのが、最初の出会いでした」
DSC08731.jpeg 11.84 MB 小さな頃から「幼稚園の先生になる」という夢を抱き、そして現在は自身の保育園を立ち上げ、理想のモンテッソーリ教育のあり方を探求する北川さん。そんな北川さんがモンテッソーリ教育と再会したのは、短大に進み就職活動をしていた時でした。
「短大の就職コーナーで求人票を読んでいたところ、『モンテッソーリ』と書かれた園がありました。そこで『あ、そういえばモンテッソーリ教育っておもしろそうだと思っていたんだ!』と思い出して、その園に入ってモンテッソーリ教育がどんなものかを学ばせてもらうことにしたんです」
しかし、入ってみるとそこはいたって普通の保育園であり、置いてあるモンテッソーリ教具は数個のみ。とてもモンテッソーリ教育を取り入れているとはいえなかったといいます。
「それでも、姉妹園には国際モンテッソーリ協会(AMI)の認定資格を持っている先輩がいて、毎月自由参加の研修会を開いてくれて教具の使い方などを丁寧に教えてくれました。しかし、研修会は実践的な内容ではあったものの、モンテッソーリ教育の全体像がわかりません。『
もっとしっかりとモンテッソーリ教育を学びたい 』と思い、働いている保育園を辞めて、AMI認定資格が取れる学校に通うことしました」
しかし、モンテッソーリ教育における最も権威ある協会であるAMIが指導者向けに授与するディプロマ(本免許)は、取得が非常に難しいことで知られています。膨大な教育理論や教具の使い方の暗記が求められるだけでなく、筆記試験と無作為に指定された教具による実技試験、口述試験の三つの難関試験を突破しなければなりません。
DSC09181.jpeg 6.66 MB 園内には数多くの教具が並んでいるが、これでもごく一部。モンテッソーリ教育と教具は現在もアップデートし続けているという 「翌日の課題が終わらなくて、夜中に泣くくらい大変でした(笑)。でも、私はそれまでなにかに打ち込んだりがんばれた経験がなくて、『あれ、私がんばれてるじゃん!』と驚いたこともよく覚えています。けど、それくらい
モンテッソーリ教育を学ぶのは夢中になれて、楽しいことだった んです」
こうしてモンテッソーリ教育の勉強に没頭した北川さんは、無事試験に合格し、AMI認定のモンテッソーリ講師として活躍していくこととなります。
※モンテッソーリ教具: 子どもが生まれ持つ「自ら育つ力(自己教育力)」を引き出すために開発されたモンテッソーリ教育が独自に開発した学習道具。年齢や発達段階別に「日常生活の練習」「感覚教育」「言語教育」「算数教育」「文化教育」の5分野にわかれており、子どもたちは自発的に教具を選び、五感を使って自ら認知し、理解し、学んでいくようなデザインとなっている。2026年現在、国際モンテッソーリ協会(AMI)が認定した教具メーカーは世界でNienhuis Montessori社(オランダ)、Gonzagarredi Montessori社(イタリア)、松本科学工業有限会社(日本)、Aga World Montessori社(韓国)の4社のみ
溢れる情報に溺れることなく、ママパパたちが自分の中に確かな「子育ての軸」を持てる場所をつくりたい
DSC09010.jpeg 4.59 MB 資格取得後、北川さんはモンテッソーリ教師として約10年にわたり幼稚園や保育園の現場で活躍してきました。そして2018年からは
Instagram を中心にモンテッソーリ教育についての情報発信を開始します。現在は5.4万人を超えるフォロワーに支持されるアカウントへと成長していますが、北川さんがこのような発信活動を始めたのには、切実な理由があったといいます。
「第一子を妊娠した時に切迫流産になってしまって、まったく動けない時期があったんです。そんな時に、夫が『
真理子はモンテッソーリが大好きなんだから、情報発信をしてみたら? 誰か一人でも助かる人がいるかもしれないよ 』と言ってくれたんです」
特に現代はネットやSNSに情報があふれ、かえって多くのママパパが「なにを信じればいいのかわからない」と混乱してしまう状況もあります。
「子育てをしているのはママパパですが、育つのは子ども。
今この一時の大変さには子どもの一生が関わっているからこそ、便利さだけに流されず、常に『子ども視点』で物事を考えられるかどうかが、現代の子育ての一番難しいところ だと感じています」
溢れる情報に溺れることなく、ママパパたちが自分の中に確かな「子育ての軸」を持てる場所をつくりたい。近くにモンテッソーリ園がない地方や海外に住む方でも、おうちで本質的な関わり方を学べる機会をつくりたい。
そんな強い想いから創設されたのが、オンラインコミュニティ「子育ての学校」です。
子育ての学校のMV.jpeg 178.44 KB 子育ての学校 のトップイメージのメインビジュアル(提供:子育ての学校) 子育ての学校は、単なる「手づくりおもちゃのつくり方」や「声かけ」といったハウツーを教えるだけではないといいます。では、北川さんはコミュニティを通じて、モンテッソーリ教育のどのような魅力を伝えていきたいと考えているのでしょうか。
「
モンテッソーリ教育の一番の魅力は、子どもの『生きる力』を養ってくれるところ だと思います。生きる力というのは、人と比べることなく相手と向き合える優しさだったり、自己選択ができる力、自分のやりたいことに忍耐強く取り組める力といったものです。モンテッソーリ教師としても親としても、ここが素晴らしいと思っています。
モンテッソーリ教育が目指しているのは『
自律・自立した平和な子に育てること 』。それは人のため、自分でやりたいことを見つけ、自分らしい道を選択して生きていける能力を育むことにあります。ひらがなが読めるようになるとか、表現が豊かになるといった単純な知育教育ではなくて。もっと先の、
子どもたちが大人になった未来を見据えた教育法 なんです」
モンテッソーリ教育の根幹にある理念をわかりやすく紹介し、親自身のマインドセットを育む。そうした理解があった上で、モンテッソーリ教育を自宅で取り入れる「おうちモンテ」の実践方法を網羅的に提供する。それが、子育ての学校の役割です。
「
大人が子どもを過剰にコントロールしようとせず、一人の人間として対等に頼ることで、子どもは『誰かの役に立つこと』に純粋な喜びを感じるようになります 。例えば、私の小学2年生の長男も、私が忙しい時には簡単な料理を手伝ってくれたりするんですよ。『子どもだからわからない、できないだろう』とおしまいにせず、ありのままの姿で巻き込んでいくことで、子どもは家族というチームで本当に頼もしい協力者になってくれますし、なにより親自身の子育てがぐっと楽になります」
開設から年月を重ねる中で、
受講生からは「子育ての学校に入ってから、SNSを見る回数が劇的に減りました」という声も寄せられるようになった といいます。誰かの子育てと比較して焦る必要がなくなり、目の前の子どもを正しく観察し、理解する。子育ての学校は、まさに多くのママパパたちが「子育ての軸」を持てる場となっています。
オリーブモンテッソーリこどもの家で得た「生きた知識」をオンラインコミュニティや発信活動へと還元していきたい
DSC08889 (1).jpeg 8.59 MB 発信活動やコミュニティ運営を通じて、多くのママパパに寄り添ってきた北川さんですが、
北川さんの根底にあるのはやはり「現場主義」の精神 だといいます。教具の意味や理論を知識として語るだけでなく、それが実際のクラスでどう活き、子どもたちがどれほど熱中するのかという「生きた知見」を得る。そのためにも、現場に立つことに強い思い入れがあるといいます。
「
大人の都合で子どもの可能性に蓋をしてしまう環境ではなく、モンテッソーリ教育をしっかりと実践し、徹底的に子どもファーストを貫ける自分の理想の園をつくれたら 」。そんな想いが、北川さんの中で膨らんでいきました。
その想いが行動へと変わったのは、2024年のことだったといいます。
「2024年の8月から、家族でピースボートで船旅に出たんですよ。あまり知られていませんが、実はピースボートには洋上モンテッソーリ保育園『ピースボート子ども家』があり、超プロフェッショナルなモンテッソーリ講師の方々が、小さな子ども連れの船旅の手助けをしてくれるんです。そんな
先生方の姿や、旅を通じて世界を地続きであることを体感していくうちに、『人生、やりたいことは全部挑戦しよう』と強く思った んですよね」
自分の理想とする保育園をつくりたい。そう決意してから、行動に出るのは早かったといいます。
「船上で、恐るおそる夫に『日本に戻って船を降りたら、あきる野に引っ越して、自分の保育園を開きたいって言ったらどうする?』と切り出したんです。すると夫は『うん。じゃあ船を降りたら色々物件探すか』と、二つ返事で背中を押してくれました。本当に、夫がいたからこそ、私の今があると思っています。いつも『やりたいならやりなよ』と言いつつ、バーっと燃え尽きがちな私をいい塩梅で温めてくれるんです。だから、私もすぐに動き出すことできました」
船を降りた2024年12月から一気に物件探しを始め、翌2025年春には自宅の一室で先行開園を開始。その後物件が現在の場所に決まり、内装リフォームを経て2026年3月に「
オリーブモンテッソーリこどもの家 」の開設届けを出すに至りました。
DSC08858.jpeg 8.45 MB 給食の様子。オリーブモンテッソーリこどもの家では、マクロビオティックの考え方を取り入れた献立を提供しており、自然の恵みをいかした調理法で「本物の味」を知る力を養っている 子どもたちへの、そしてモンテッソーリ教育への溢れんばかりの情熱から生まれたオリーブモンテッソーリこどもの家。オンラインでの発信活動と学びの機会の提供、そしてリアルでの理想の保育施設を探求していく。北川さんはこれからの活動のバランスをどのように考えているのでしょうか。
「
オリーブモンテッソーリこどもの家という確かな『現場』を守りながら、そこで得た生きた気づきを『子育ての学校』や発信活動へと還元していく 。この両輪をどちらも全力で回していきたいです。本や知識だけで教具の良さを語れる人はいても、実際の現場で子どもたちがどう育っていくか、その本質を見てサポートできるのが私の強みだと思っています。今後は現場での若手の育成という課題にも向き合いつつ、『子育ての学校』では卒業生たちが正しくモンテッソーリ教育を広める発信側の仲間として、どんどん活躍していってくれたら嬉しいですね」
あきる野の豊かな自然に囲まれたこの美しい園舎での、北川さんの挑戦はまだ始まったばかり。ここで育まれる平和の種が現代の家庭に確かな軸を届け、これからの未来を生きる子どもたちの道を、どこまでも明るく照らしていくことでしょう。最後に、北川さんが今後の活動で見据えるビジョンを聞きました。
「私の大きな夢は、
モンテッソーリ園をコンビニのように当たり前の存在にすること なんです。
日本のどこにでもあって、誰もが特別なハードルを感じることなく、幼児教育の選択肢としていつでもアクセスできる世界をつくりたい と思っています。そして、親御さんがしっかりとした知識を身につけた上で、自分自身の感性も取り入れながら、ありのままの自分らしい子育てができるようになってほしい。そうして、
自分で自分の人生を選んで幸せになれる『平和な子どもたち』を、このあきる野の地から、そして全国の家庭からたくさん増やしていきたい です」
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北川真理子さん 合同会社コソダチ代表、認可外保育施設「オリーブモンテッソーリこどもの家」園長 国際モンテッソーリ協会 教師資格(0-3歳、3-6歳、認知症ケアワーカー)、 2010年、国際モンテッソーリ協会の教師免許を取得。保育園・幼稚園などで、モンテッソーリ教師として約10年間勤務。 2018年、Instagramにて「モンテッソーリアンまりこ」として、モンテッソーリ教育に関する情報発信を開始。開始1年でフォロワー5万人を突破。 同年、「おうちではじめるモンテッソーリ教育」をテーマにオンラインコミュニティ「子育ての学校 」をスタート。 2020年、業務を法人に引き継ぐ形で合同会社コソダチを設立。著書に『いちばんていねいな はじめてのおうちモンテッソーリ 』(KADOKAWA)、『子どもが自分でぐんぐん伸びる まいにちのおうちモンテッソーリ 』(同)、絵本シリーズ「トイレでできた』『かたづけできた』『はみがきできた』『いただきます』 (日本能率協会マネジメントセンター)など多数。北川真理子さんInstagram▼ montessorian.mariko オリーブモンテッソーリこどもの家▼ https://olivemontessorischool.grow.tokyo.jp/