2026年3月27日。東京・高輪のBUNKITSU TOKYOで、ライターの山内宏泰さんが主宰するオンラインコミュニティ「文学茶話」(ぶんがく・さわ)の第1回目となるトークイベントが開催されました。
文学茶話は文学やアート、写真、伝記などのテーマで数々の書籍や記事の執筆を担当し、自著『
文学とワイン』(青幻社)『
上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社)などを手掛けるライターの山内宏泰さんが主宰するコミュニティ。
コミュニティの名を冠したフラッグシップともいえるトークイベントシリーズの記念すべき第一回目の模様をレポートします。
文学茶話
文学茶話_イメージボード.jpeg 74.22 KB「文学茶話」は、読者として文学を読み、聴き、話し、触れることで「じぶんたちの手であたらしい文学をつくり、味わい尽くす」ためのオンラインコミュニティです。
文学や読書にまつわる情報を、随時お届けし、文学のことを何でも言える・語れる場を、ご用意いたします。
なお、コミュニティメンバーになると毎月開催される気鋭の作家をお招きしたイベントに優先的に参加できるようになります。
コミュニティ限定のコンテンツとして下記のような内容が用意されています。(一部抜粋)
1. 文学を「読む」
自分や仲間が日々記す「ブックログ」が、随時閲覧可能です。読んだ本をふりかえったり、次に読みたい本を見つけることが、いつでもできます。
文学にまつわるニュースを随時発信する「文学ジャーナル」もいつでも閲覧可能です。
2.文学を「聴く」
最前線でいまの文学を生み出している作家をお招きし、リアルタイムで「現在文学史」を紡いでいく文学イベント「文学茶話」を、都内で毎月開催。
映像・テキストによるアーカイブも蓄積していきますので、いつでも何度でも触れられます。
3.文学を「話す」
読んだ! と心から言える本を、抱えきれないほどつくるのを目標とする「わたしの千冊」読書会を、毎月開催。
部活動として、テーマを絞った自主的読書会も随時開催します。
文学茶話の詳細・入会はこちら▼
https://bungakusawa.com/about
文学茶話 公式Instagram▼
@bungakusawa
「読む」ことは文学を形づくることであり、私たち「読者」も文学の担い手である
sub1.png 1.13 MB“これまでもこれからも、文学や読書は私たちにとって、最良の趣味であり生きる糧です。”
文学茶話の立ち上げ時、山内さんは上記のように語っています。
文学や読書の価値は、ただ一読の体験だけに宿るものではありません。一つの本を読むごとに、作品は私たちの人生に寄り添い続け、ある時には人生における気づきを与え、またある時にふと本を手に取りページをめくると、以前読んだ時とは異なる、新鮮な気づきを与えてくれることにあります。
山内さんはこれまで、そのような文学が持つ価値、読書という体験がもたらす価値を伝え、さまざまな楽しみ方を紹介してきました。その一つが、平野啓一郎さんや角田光代さん、金原ひとみさんなど第一線で活躍する作家の方をお招きし、文学とワインを一緒に楽しむ文学ワイン会『本の音 夜話(ほんのね やわ)』です。
一人静かに本と向き合い、文学の世界に浸る。読書はそのような体験が基本ではありますが、文学作品をつくりだした作家から直接話を聞き、作品に込めた想いや創作の裏側を知れると、読書はひとしお味わい深いものとなります。
特に、読者と作家の間にはどこか距離を感じてしまうもの。そんな作家という存在が、胸襟(きょうきん)を開き、気軽に話している姿を見ることは、文学をより身近で親しみやすいものにしていきます。
一方で、山内さんはオシロのPodcast「
オシロの推しラジ」にゲスト出演してくださった際、「
私たち読者も文学の担い手である」とも語っています。
「
文学は書き手(作家)だけがつくるものではなく、読み手(読者)がいて、はじめて世の中に出たことになる。つまり、私たち読者も文学をつくっているのです」(山内さん)
これこそが、山内さんが「文学茶話」を立ち上げた理由でもあります。文学イベントを一期一会の体験にするのではなく、イベントを起点としてつながりが生まれ、互いの読書体験をシェアしないがら、今生み出されている最前線の文学を仲間とともに紡いでいける場をつくりたい。
「
じぶんたちの手であたらしい文学をつくり、味わい尽くす」。それがまさに、2026年3月1日にオープンした「
文学茶話」です。
第1回目のゲストは山本周五郎賞・直木賞をダブル受賞した気鋭の歴史・時代小説家
IMG_6911.JPG 10.24 MB画像左:山内宏泰さん、画像右:永井紗耶子さん
「文学茶話」オープン後初となるトークイベントのゲストは、『
木挽町のあだ討ち』(新潮社)で第36回 山本周五郎賞と第169回 直木三十五賞をダブル受賞した、小説家の永井紗耶子さん。
同作は2025年4月、物語の舞台となった木挽町(現:銀座4丁目)に位置する歌舞伎座で松竹創業百三十周年「四月大歌舞伎」昼の部で演じられたほか、2026年2月からは
東映の製作・配給のもと映画化されています。
また、永井さんは同年2月、これまで小説家の前例のなかった江戸時代の儒学者・経世家の海保青陵を取り扱った歴史長編小説『
青青といく』(KADOKAWA)を発売し話題となるなど、歴史小説・時代小説の分野で大きな注目を集めています。
IMG_6917.JPG 3.51 MBそのような気鋭の小説家として知られている永井さんをゲストにお迎えして開催した文学茶話のトークテーマは『
永井紗耶子さんの「わたしの3冊」』。本テーマは、作品についてを深掘りするだけではなく、登壇した小説家ご本人の創作への考え方、自身を形づくった文学作品についても深掘りしていくもの。
イベントの冒頭、山内さんから「読み手として、文学に触れる場がもっとあった方がいいといった感触はありますか?」と問いかけられた永井さんは、意外な本音を漏らされました。
「文学の話で『なにを読んできたの? なにを読んでいるの?』と聞かれると、実はすごく恥ずかしいんですよね(笑)。自分のお勧めを言うことで、相手にどう受け取られるかなと躊躇してしまって」(永井さん)
好きな文学を問われると、つい「ちょっと村上春樹かな、みたいなかっこいいことを言おうとしてしまうところがある(笑)」と語る永井さん。実際には歴史小説だけでなく、ライトノベルやコミック、実用書まで幅広く読む「雑食」だと言いますが、自分の内面と密接に結びついた読書体験を語ることは、どこか自分をさらけ出すような感覚を伴うようです。
山内さんは、自身が「文学」という言葉を口にする時の微かな高揚感を「憧れの人を呼ぶような気持ちがある」と表現しました。 それを受けて永井さんは、文学との出会いを「自分の人生を一つ揺らしてくれた、そんな感覚を思い出す行為に近い」と分析します。
編集者との関係性、企画の出し方。小説家の創作活動の裏側
IMG_6923.JPG 12.98 MB話題は、永井さんの熱量を支える創作の舞台裏へと移ります。作家デビュー以前は新聞記者やフリーランスライターとして活躍し、現在は文学の「つくり手」となった永井さんですが、エンターテインメント文学も純文学も、根底にある本質は「
書く人間が楽しんでいることに尽きる」と言います。
「長いものを書いている途中で、自分自身が飽きてしまうことがある。でも、書いている本人が飽きちゃったと思っている原稿は、間違いなくつまらないものなんです。そういう時は、100枚書いていても全ボツにして、一番楽しいシーンから書き直したりします」(永井さん)
この「
退屈が一番の悪」というストイックな姿勢は、編集者とのやり取りにも表れています。 山内さんが「編集の人が受け取ってすぐに話が進むと、及第点だけど感想はないんだなと身につまされる」と語ると、永井さんも深く頷きます。
「編集さんは一番最初の読み手。彼らの指摘に対して『なによ!』と言ってしまったら、作家として死ぬと思っています。情報が足りないと言われた時は、単に情報を増やすのではなく、前後の文章を書き換えて焦点を合わせるだけで、劇的に良くなる。
文章も絵画や写真と同じで、見せたいものを浮き立たせる仕組みになっているんです」(永井さん)
山内さんはこれを「見せたいものにピントを合わせるために他をぼやけさせる写真の技術に通づるものがある」と、小説の技術との共通点を見出しました。
さらに驚くべきは、永井さんの企画の立て方です。 編集者にやりたいものを聞かれた際、永井さんは常に三つの企画を持っていくそうです。
「一つは『無難に書き終えられそうなもの』。二つ目は『売れる目論見があるもの』。そして三つ目が『やってみたいけれど、大変そうなもの』。編集さんはすごい嗅覚で、必ずその大変そうなやつを選ぶんです。熱量が上がって『でも本当にやりたいんですよね!』と詰め寄られて、結果的にギチギチのスケジュールで大変な目にあう(笑)。でも、やり切った後の感覚は代えがたいものです」(永井さん)
自分の好奇心を「古代箱」「中世箱」「江戸箱」とジャンル分けして足元のダンボールに詰め込むほど、豊かな創作意欲を持つ永井さん。 そのようなあくなき探求心と好奇心が、困難な執筆活動を支える原動力になっていることが伝わってきました。
小説作品は、読者が「読む」ことではじめて完成する
IMG_6933.JPG 7.8 MBイベントの後半では、いよいよ本題の「わたしの3冊」が紹介されました。
1冊目は、まさに永井さんの新刊である、海保青陵を主人公とした『
青青といく』です。
「司馬遼太郎さんが坂本龍馬を書いたように『私が発掘した誰か』というのをやりたかったんです。海保青陵は江戸時代の経済コンサルタントのような人で、家や墓を大事にする時代に『遺灰を空に撒いてくれ』と言うようなパンクな人。当時の武士が口にしなかった『お金』の勘定を露骨に説く。彼の考え方は、現代のブラック企業やパワハラの解消につながるような、アップデートされた江戸観を見せてくれます」(永井さん)
史実とフィクションのバランスについても、独自のこだわりを語ります。「ベースは史実。データベースにある情報には即しますが、その間にある人格やエピソードをピックアップして小説にする。リフレクションとして彼を外側から見る視点をつくることで、読者に楽しんでもらいたい」という言葉には、歴史への敬意と、物語としての面白さを両立させる覚悟が滲みます。
2冊目も同じく永井さんの著書であり、現在映画化作品が上映中の『
木挽町のあだ討ち』。 永井さんは映像化について「自分のイメージと違う」と拒絶するのではなく、むしろイメージの広がりが生まれていくことを歓迎してるといいます。
「読者の中のイメージは、私とも、映画とも、オーディブルの声とも違うはず。作品がいろんな形に広がっていくことは、作品としての幅を広げることです。どうあったとしても、最後に『おもしろかった』と言ってもらえるのが最高ですね。
読者が脳内で物語を構築し、楽しんでくれて、はじめて作品は完成するんです」(永井さん)
IMG_6913.JPG 5.32 MBそして、三冊目に挙げられたのが太宰治の短編『
駈込み訴え』(岩波書店『
富嶽百景・走れメロス 他八篇』等に収録)。 本作を引き合いに出し、永井さんは、
自分に合う本を探すコツは「リズム」だと語ります。
「自分と相性のいい本はどうやって探すのかと聞かれるんですが、実はリズムなんじゃないかなと思っています。自分の波長に合う文章のリズムというのは存在していて、それが合わない文章を読むのは苦痛に感じやすいです。
読みやすいリズムの文章を見つけることが重要だと思います。太宰治の文章で遊ぶセンスは卓越していると思います。この作品はユダがイエスを裏切る心境を独白する話ですが、太宰が口述筆記で一気に書いたというエピソードがあって、頭の中でユダが喋っていたんだろうなと思います」(永井さん)
IMG_6929.JPG 5.87 MB3冊が紹介されたのちの質疑応答では、永井さんが「言葉選びで気をつけていることとは?」という質問が投げかけられました。その答えは、本イベント全体を象徴するような言葉でした。
「相手に対する『敬意』や『愛』があるかどうかが一番大事だと思っています。敵対していても、根底に敬意が欠けていないかが重要で、藤沢周平さんや澤田瞳子さんの作品を読むと、文章の端々に全方位的な気配りや敬意を感じます。これこそが、作品が発刊されてから時間が経っても色褪せず、長く多くの読者に愛される理由だと思います」(永井さん)
最後に、山内さんから読書の楽しみ方を聞かれた永井さんは「読書は最後まで読み切らなきゃと思うと苦行になる。積読でも飛ばし読みでも、音楽を聴くように柔軟に楽しんでほしい」とメッセージを送り、文学茶話の第一回は幕を閉じました。
文学をもっと知りたい、味わい尽くしたい。そんな想いが形となった、濃密な時間。
「文学茶話」というコミュニティが、これからどのような「現在文学史」を紡いでいくのか、期待が膨らみます。
文学茶話 2回目以降のラインナップ
文学とは、文章表現全般を指す自由なもの。そのため、文学茶話では小説のほか、漫画やノンフィクションなど、さまざまな文学に触れる機会を用意しています。トークイベントはコミュニティメンバー以外の方も参加いただけます(有料)。ぜひお気軽にお申し込みください。
#2 羽賀 翔一さん×ワタベヒツジさん との読書会
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期日:2026年4月17日(金)18:00〜19:30
場所:「BUNKITSU TOKYO」 Cafe ensemble (NEWoMan高輪 South 5F)
詳細・お申し込みはこちら
#3 秋谷りんこさんと読書会『ナースの卯月に視えるもの』『潜入心理師・月野ゆん』シリーズ他を著者と読む!
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期日:2026年4月28日(火)18:30〜19:45
場所:「BUNKITSU TOKYO」 Cafe ensemble (NEWoMan高輪 South 5F)
詳細・お申し込みはこちら
#4 小林正人さんと読書会 アーティスト渾身の自伝小説『この星の絵の具』を著者と読み解く
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期日:2026年5月22日(金)18:30〜19:45
場所:「BUNKITSU TOKYO」 Cafe ensemble (NEWoMan高輪 South 5F)
詳細・お申し込みはこちら
山内宏泰さん
ライター。
文学、アート、写真、伝記などのテーマを多く執筆し、著書に『文学とワイン』『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』『写真のプロフェッショナル』等。
好きな作家は夏目漱石、池澤夏樹、ドストエフスキー、ジョージ・オーウェ等。
https://www.yamauchihiroyasu.jp/
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