投資家の小泉文明さんをお呼びした「OSIRO INVESTOR INTERVIEW」第二弾。
OSIRO INVESTOR INTERVIEW
オシロ株式会社を応援する投資家をお招きし、代表の杉山博一がコミュニティの可能性について語り合う「OSIRO INVESTOR INTERVIEW」。第2回のゲストは、株式会社メルカリ 取締役会長であり、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長を兼任する小泉文明さん。エンジェル投資家として、またはアドバイザリーボードとして多くの企業を上場に導いた小泉さんは、なぜオシロへの投資を決めたのでしょうか。小泉さんが抱くコミュニティへの可能性、オシロへの期待についてお聞きしました。
自分が「やりたい」と思える事業に投資する
杉山博一(以下、杉山): 小泉さんがオシロに出資いただいたきっかけは、僕とサディ(オシロ取締役、コルク代表 佐渡島庸平)が福岡でカンファレンスに出席していた小泉さんに事業の相談に行ったことから始まりました。
小泉文明氏(以下、小泉): そうそう。ホテルのロビーかどこかで事業の話をして、その時に杉山さんと佐渡島さんから「仲間になってくださいよ」って言われた記憶があります。
杉山: その時はまだ「OSIRO」のβ版を出したばかりの時期でしたが、小泉さんとしては僕たちの事業のどのような点に魅力を感じてくださったんですか?
小泉: 僕は「
これからはコミュニティの時代だ」と思っていて。僕自身もともとMIXI(当時の社名はミクシィ)に在籍していて、SNSを運営しコミュニティを事業として取り組んでいました。そういった中でこの数年のインターネットを見ていると、やはりコミュニティが殺伐としてるというか、全体としてギスギスしている印象がありますよね。僕がミクシィの経営に参画していた頃のような初期のインターネット、ある意味で優しくて牧歌的あるいはユートピアのような場ではなくなっているように思います。
杉山: たしかに、昔のインターネットにはサードプレイスのような居場所がありましたよね。
小泉: そうです。しかし、今は顔が見えない者同士が互いを攻撃し合う場面を目にすることが多くなっている。そういったところを見ていると、僕自身インターネットが大好きなはずなのに、少しずつ好きになれないところがあると感じていたんです。
そういった中で、
オシロはコミュニティをしっかりとエンパワーしていく仕組みをつくっていこうとしていて、その先には日々の生活で笑顔が増えたり、居場所を見つけられたり、 自分を表現できる世界観がある。今のコミュニティのあり方をもう一度再構築するというよりも、仕組みとして解決する世界ができていく期待を持ちました。
加えて、佐渡島さんがコルクやコルクラボ(※)でやっているIP(知的財産)とコミュニティの事例も聞いて、その仕組みもとてもよいと思いました。ファンの熱量とIPが相乗効果になり、そこからコンテンツが立ち上がりビジネスが回っていけば、クリエイターにとっても次の作品の創作につながり皆がハッピーになる。
オシロが取り組んでいるネットとリアルが融合したコミュニティ、そしてIPといったさまざまな接点からコンテンツが生まれ、コミュニケーションを楽しんでいく世界線は、今後絶対に必要だと思いました。
杉山: 小泉さんはその時に、「上質なコミュニティをつくるのは絶対に必要だと思っている。杉山さんがその道を選ぶのであれば、僕は自分の夢を託す」と言われたのを今でもよく覚えています。多分、おっしゃられたのは覚えてないかとは思いますが(笑)。
でも、その後間髪入れずに「大丈夫、お金も出すから」とも言ってくれて。僕としてはとても嬉しかったんです。
小泉: すみません、覚えてませんでした(笑)。ただ、
僕がスタートアップに出資する理由は、基本的に「自分がやりたい」と思っていることです。もしも自分にもう1つ身体があればやっていて、実現したい世界観をつくろうとしている人たちや企業に資金を提供しています。必ず儲けたいというよりも、「こういう社会になったらいいよね」と思っているけど、自分自身では着手できないことは、それに挑戦する人々に夢を託したい。これが僕のエンジェル投資を行う基準です。
そういう意味では、やっぱり
良質なオンラインコミュニティがあり、安心安全のもと所属することは、現代の人々にとって本当に必要なことだと思っています。そういったあり方こそがインターネットの良さだとも思っています。僕自身が学生の頃、リアルの同世代の友だちに同じ趣味を持つ人が少なかったので、インターネット上で同好の人たちと出会えたのがとても嬉しかった。それが今の自分を形づくる原体験であり、インターネットを好きになったきっかけでもありますね。
※コルクとコルクラボ
コルク: 「物語の力で、一人一人の世界を変える」をミッションとして、2012年に佐渡島庸平により設立されたクリエイターエージェンシー。漫画家・小説家らクリエイターとエージェント契約を結び、作品編集や制作進行管理、ファンコミュニティの形成・運営を行うほか、クリエイターのIP管理・運用も手掛ける。
https://corkagency.com/
コルクラボ: 2017年に佐渡島庸平を主宰としてスタートしたコミュニティ。「コミュニティファースト」を掲げ、SNS・WEBサービスを使ったコミュニティプロデュースなど、コミュニティを運営するために必要な知識、技術を学ぶ。心理的安全性の確保、熱狂の起こし方、拡大のための施策やデータによるモニタリングなど、コルクラボ自体をコミュニティの研究対象と捉えて、運営している。
https://lab.corkagency.com/
鹿島アントラーズで実践する「コミュニティ経営」のあり方
杉山: 今では小泉さんご自身も鹿島アントラーズの社長となり、クラブを中心としたコミュニティを運営しています。小泉さんの視点から見て、コミュニティを醸成していくことの重要性はどのような点にあるとお考えですか?
小泉: 僕の中で、
コミュニティは三層構造になっていると考えています。コアに発信者、その周りに熱量の高く発信された情報にコメントするなどアクションする人たち、そして一番外側にそれを見ている人たちがいます。この三層が1:9:90くらいの比率というのが一般的なコミュニティの構造ですが、
コミュニティの魅力を高めていくためには、まず熱量の高い1割の人たちが輝いている必要があります。
例えば、Jリーグでは「新規ファンの獲得」が議論されますが、僕としては
既存のファンの盛り上がりなしに新規ファンの獲得はできないと考えています。テクノロジーやSNSはその熱量の伝播を助けますが、まずは既存ファンの熱量を高める取り組みが必要です。コミュニティの魅力は中心の熱量にかかっているといっていい。
例えば佐渡島さんのいうIPはどれだけコンテンツが魅力的かが重要ですが、僕たちの場合はサッカーの強さとともに、スタジアム(茨城県立カシマサッカースタジアム)でどれだけ楽しい体験を提供できるのかも大事になります。そういった一丁目一番地を無視してファンを増やすことはできず、小手先の戦略をやっても来た人たちが面白くなければ、2回目に来ることはありません。
鹿島アントラーズの経営を通じて、リアルとオンラインの両面からコミュニティの熱量がいかに重要かに気づかされましたね。
熱量は人を呼び、そして熱量の高いコミュニティは単純な集計上の数字以上に強い影響力を持ちます。
杉山: たしかに、コミュニティの中で熱量の高い人同士がもたらす相乗効果は、単純な数字で表すことはできません。先ほど小泉さんがおっしゃられたように、最近では
フォロワー数を偏重するのではなく、個人やブランド、IPに集う方々の熱量や質が重視される時代になってきているように思います。
小泉: そういった流れになってきていると思いますね。加えて、コンテンツごとの特徴もあると思います。僕たちでいえば、サッカーチームは試合ごとに筋書きのないドラマが待っています。最近でいう「推し活」は大体がハッピーだけを提供する構造になっていますが、サッカーにいたっては当然勝つこともあれば負けることもある。必ずしもハッピーだけを提供できないものです。でも、これこそがスポーツの良さだと思います。選手にも一人ひとりのキャラクターがありポジションも違うので、それがまたコミュニティの広がりや深みにつながっていきます。負けた試合も含め、ストーリーとして紡がれていくんです。
杉山: 試合ごとに勝ち負けが決まり、それで一喜一憂するのはスポーツチームを応援する魅力ですね。一方で、ファンとチームとの関係性はとても難しいように思えます。
小泉: 難しいですね。負けた試合の後には僕のSNSアカウントにお叱りのメッセージをたくさんいただきます(笑)。ただ、僕にとって一番まずい状態は「無視」や「無関心」だと思っています。批判やコメントをいただくのは、つまりチームを応援したい気持ちがあってのことなので、僕は
批判をくださる方々もコミュニティの仲間だと思っています。しかし、一度ファンから関心を持たれなくなってしまったり、無視されるようになってしまうと、それを取り返すのは非常に難しいです。チームが負けて批判されたとしても、また次の試合で勝っていけばいい。僕らはいかにチームに対して無関心にならないようにストーリーや情報を届けていくかが大切だと思っているんです。
だからこそ、僕らは今サッカーチームでいう「裏の側面」もしっかり見せるようにしています。鹿島アントラーズでは、YouTubeに10分から15分ほどに編集した試合の裏側を見せるような動画をアップしていますが、昨年は勝った試合しかアップしていませんでした。でも、負けた試合でもしっかりとファンに共有した方がいいと考え、今年からは負けた試合も含めてすべて上げるようにしています。負けた悔しさも含めて、僕らの一年間の戦いを一緒についてきてもらいたいという思いがあるからこそ、あまり
嘘をつかず誠実にありのままの姿を共有していくことが大事だと思っています。
杉山: そのようなお取り組みから、クラブとファンの関係性に手応えを覚えることも多いのではないですか?
小泉: まだ僕たちが経営に乗り出してから4年ほどなので、道半ばだと思っています。でも、
集客でいえば昨年はコロナ前と比べても108%増となり、今年はそれを超える予測が立っています。苦しい思いをしながらも必死にやってきたことが、昨年になってやっと年間を通した成果として出た形だと思うので、そういった意味では良くなっている部分は多いと思っています。今では特にファミリーが増えていて、まさにそこは僕たちも狙って強化しているところです。
僕たちが鹿島アントラーズを経営をするようになって一番変わったのが、スタジアムでの過ごし方です。以前は一旦スタジアム入った後は再入場できないので、試合まではスタジアムから出ることができませんでした。それでコンコースで楽しんだりはするんですけど、スペースの都合でコンテンツが少ない場合も多かったです。僕らが経営するようになってからは、スタジアム外の出入りを自由にしたんですよ。さらに、スタジアムの周りで買えるフードを増やしたり、キッズエリアをつくってそこに遊具をたくさん置いたりと、スタジアム外でも存分に楽しめるコンテンツを増やしていったんです。場外のコンテンツはキックオフの4時間前から、コンコースも3時間前から開けて、試合も含めて半日たっぷりと楽しんでもらえるようにしています。
杉山: 平均来場者数の伸びには、鹿島アントラーズとパートナー企業、さらには地域との連携を強化しているとお聞きしました。そういった方々の尽力も入場者数の増加につながっているのでしょうか?
小泉: そうですね。スタジアム内外で飲食を提供するショップには基本的にチェーン店を入れずに、地元の事業者に運営をお願いしています。これは地域に根差したクラブとして、地元の事業者に還元する意図もありますが、スタジアムに足を運んでくださった方々にぜひ地元のものを食べていただきたいという思いがあります。
その地域・スタジアムにしかない食べ物や体験からコミュニケーションが生まれて、そういった一つひとつが「また来たい」と思える動機になり、コミュニティに参加する方々が増えていくのではと考えています。
このように、鹿島アントラーズではただサッカーを観るだけという体験から、半日たっぷりとホームタウンを楽しんでもらえるような体験のあり方へとシフトしていて、その結果コンテンツも増えていったことが家族連れが増えたことにつながっています。加えて、今年からは2階席だけ全国の小学生以下の子どもを入場無料にしています。そうすると、親御さんとしても家族を連れて観戦に来やすく、友人のご家庭も誘いやすくなります。こういったコンテンツや施策でスタジアムに来るハードルを下げることにも取り組んでいますね。
僕たちはこのような形で、スタジアムの熱量をしっかりと守りつつ、新規の方々が入ってきやすいような仕組みを設計していっているところです。
企業はコミュニティが資産だと認識すべき
杉山: 鹿島アントラーズさんでの取り組みには本当に感銘を受けます。一方で、コミュニティを構築して熱量を高めていくことには長期的な視野が必要だと思います。小泉さんにとって、
コミュニティに投資していくことの意義とはどのようなことだと思いますか?
小泉: 積分値的な考え方をしたら絶対に大事ですよね。僕たちのビジネスは、
チケットを安くしたり、SNSを使ってアピールするよりも、友だちから言われる「一緒にスタジアムに行こうよ!」が1番強い。ファンの方々が持つ熱量と引力に、僕たちは叶わないんですよ。まずファンの存在がなによりも重要で、そこに先ほど話したような僕たちの努力で熱量を保ち、新しいファンが加わるようにしていくことで相乗効果を生んでいくこと重要です。やはり
コミュニティにいる人たちが熱量をもって発信していくことが、コミュニティ全体のエンゲージメントを高める一番の強さになっていくと思っています。結果としてそういった関係性がビジネスをより強くしていくと思うので、そういった意味でもコミュニティに継続的に投資していくこと、コミュニティを盛り上げる努力を続けることは非常に大事です。
杉山: スポーツのクラブチームもそうですが、アーティストやクリエイター、ブランドにとって、ファンの存在はなによりも大切な存在です。ファンは単独では一人ひとりの趣味嗜好でしかありませんが、
熱量の高い人同士が一つの場に集まった時、必ず相乗効果が生まれていきます。例えば、備長炭で火を起こすと温度は800度以上にまで上昇しますが、普通の炭では400から700度程度です。しかし、普通の炭を備長炭のそばに置くと、普通の炭の温度も800度まで上がります。こういった自然の原理は、ファンにおいても同じではないかと思っています。
コミュニティは居心地のいい場所さえつくれれば、その熱量は呼応していき、最大化されていく。それはつまり、コミュニティオーナーにとってもファンにとっても、幸福が最大化されることとイコールであると思いますね。
最近、noteに『
コミュニティはウェルビーイングかもしれない』という記事を書いたんですよ。やっぱり
一人でやっていると継続できないこともコミュニティだと継続でき、 自分をありのままに表現できます。自分を表現できることは幸せであり、それを応援してくれる仲間がいるってことも幸せです。僕自身、
遠山正道さんのコミュニティ をはじめ、「OSIRO」で立ち上げたコミュニティにいくつか参加していて、そこで何人も親友ができているんですよ。コミュニティが幸せを感じる場所であるのは、なんの偽りもなく自分自身の実体験として感じていることですね。
小泉: そうですよね。ウェルビーイングの定義がそもそもなにかもあるとは思いますが、やっぱり、
自分を表現できて居場所があることが、一番根源的な幸せだと思います。今ではウェルビーイングをはじめ、ダイバーシティ&インクルージョンについて社会的に深く考えていくべきテーマになっています。さまざまな側面を考える必要はありますが、やはり最も大切なことは「そこに自分の居場所があること」だと思っています。
例えば会社でも「会社に所属していたい」や「会社に行きたい」といった感情は、その会社に居場所があるからこそ思えるものだと思っています。会社の中で心理的安全性が担保されているからこそ自分を表現できて、輝ける場が生まれるんです。そういった意味では
コミュニティというのはわかりやすくウェルビーイングの中心だと思います。
杉山: 小泉さんにはご出資いただいた後も経営についてアドバイスをいただき、僕自身とても刺激を受けてきました。メルカリが今のオフィスに移転したタイミングで小泉さんに新しいオフィスを案内していただき、オフィスづくりでこだわったポイントを詳しく教えていただきました。カーペットの材質や照明の色調、会議室の壁色までもこだわり抜いていて、その全部に小泉さんが関与していることを聞き、「小泉さんがここまでこだわっているのだったら、僕も徹底的に会社づくりにこだわっていこう」と思えました。
小泉: 働く場所は仕事をする場であると同時に、コミュニティを形づくるものでもあります。だからこそ、経営者は徹底的にこだわるべきだと思っています。オフィスにあるもの一つひとつには意味が必要です。例えばこの場所に置く机はなぜこの形状や材質であるのか、あるいはこの照明はなぜこのように吊るす必要があるのかといった意味を考え、こだわり抜きましたね。
杉山: 組織設計についても「今後組織が300名に増えていったことをイメージして、しっかりと情報共有ができるような設計を今から考えた方がいい」とアドバイスをいただいたことも覚えています。加えて、今もオシロで大事にしているアドバイスが「
ネーミングにこだわること」ですね。この教えは今もよく考え、こだわるようにしています。
小泉: 例えば、メルカリでは僕たちのバリュー「Go Bold」は社内外で広く浸透しています。僕のこだわりとして、名前にはいつもちょっとざらつきを持たせたいというか、引っかかりがある言葉を使いたいんですよね。
自分たちらしさが表れていつつ、他では使われていない新しい表現をわざと入れるようにしているんです。その他にも、僕たちは福利厚生の制度を「merci box(メルシーボックス )」と呼んでいますが、それもメルカリとフランス語の「merci」が最初の文字が共通していて、しかもmerciは感謝の気持ちを表す言葉(日本語で「ありがとう」の意)です。それでボックスはメルカリのロゴを表現しています。メルカリで働くすべての人への感謝を込めつつ、「思いきり働ける環境」を作るために、企業というボックスの中にいろんなことを入れ込んでいこうという想いを込めて名付けました。
名前は企業としてやりたいことやその意図を表し、ステークホルダー全体に理解していただくものです。なので、名前や言葉にこだわって、自社や事業をわかりやすく伝えていくことは、つまりはブランディングであり社会にも僕たちをよく理解していただくことにつながります。その一環で、メルカリは「mercan(メルカン)」というオウンドメディアも運営して、自分たちの言葉で自社について積極的に発信していっています。
杉山: そういったこだわりは、鹿島アントラーズさんと共に歩むパートナー企業とのお取り組みにも現れているとお聞きしました。鹿島アントラーズではこれまでのスポーツチームとスポンサーという関係性ではない、新しい連携が生まれていますね。
小泉: そうですね。僕は
パートナー企業とともにスタジアムを「ラボ」にする取り組みを進めていて、さまざまな業界業種の企業がスタジアムで実験的なチャレンジができるような環境を提供しています。例えば、今年になってNEC(日本電気)社とはスタジアムの入退場で顔認証の実証実験を計画しています。これが入退場だけでなく決済までできるようになれば、スタジアム内で一度も財布やスマホを出すこともなくなります。そうなると将来的には近隣の小売店などでも導入が進んでいき、スタジアムが社会にテクノロジーを馴染ませていく起点となっていくといいなと考えています。
杉山: まさにそういった意味合いでは、
パートナー企業もコミュニティのメンバーであり、スタジアムから新しいチャレンジが生まれ、自社として実現したい未来に共に歩む共創のかたちが生まれていますね。
小泉: 僕たちは「ファミリー」と呼んでいるのですが、まさに
パートナー企業はコミュニティメンバーで、そのような関係性もご評価いただいていますね。例えば、鹿島アントラーズは宮崎でキャンプをやりますが、視察に来てくださるパートナー企業や行政の関係者の方々は100人を超えるんですよ。 それで練習や練習試合を見て、夜はパーティーを開いて深く交流しています。こういったパートナー企業同士の交流は他のクラブではなかなかないと思います。こういった距離感でさまざまな企業が集まると、
自然な流れで協働していくことが決まったり、コラボで事業を展開しやすくなったりするんです。
杉山: コミュニティとしても理想的なあり方になっていますね。僕が最近気づいたというか、言語化できたことなんですが、コミュニティのオーナーやコミュニティを運営する人の中でも、集めた人からテイクしようと思うところはうまくいかないなと思っています。小泉さんがパートナー企業の方々に交流の場を提供しているように、
「ギブ・ファースト」の精神を持っているコミュニティは、とても強い絆が生まれていますね。
小泉: 僕たちはサッカークラブという
コミュニティの中心にいて、ステークホルダーの方々をいかにマッチングさせて、新しい取り組みやビジネスをつくっていくことが役割となります。そう考えると、僕たちはコンテンツをつくるプロデューサーであり、ホームタウンの視点に立てば街づくりのコーディネーターとしての役割も担っています。
そのため、鹿島アントラーズのクラブスタッフには、僕らがステークホルダーの中心として機能する大切さをよく説明しています。僕らがデザインすれば街は動き、企業は動いてくれる。だからこそ、僕らはまず動き、提案することでステークホルダーを繋げて、どうデザインするかを考えるプロデューサーである必要があるんです。
そういう意味で考えれば、僕らはサッカーチームという強力なコンテンツのオーナーなので、そういったことがやりやすいポジションだとも思うんですよね。スポーツチームを運営しているのは株式会社ですが、社会インフラとしての存在する側面もあります。だからこそ、僕らがしっかりと社会性を考えてやっていかないと、みんなが納得しない。
企業として、コミュニティとしての存在意義は常に意識すべきものだと考えています。
成功する経営者に共通する2つの「素直さ」
杉山: 小泉さんには各ラウンドの資金調達の際にアドバイスをいただき、オシロの成長を見守っていただいています。出資者として、またこれまでアドバイスをいただいていた視点から見て、現状のオシロの成長についてはどう思われますか?
小泉: 杉山さんはこれまで、もっと大きな成長を求めていたと思っています。ただ、コロナ禍をはじめ大変な時期も当然あった中で、これまでコミュニティとしての機能をしっかりとつくってきて、ここまで来ている。昨年資金調達もしっかりやって、やっと今フェーズが変わるタイミングなのかと思います。僕としては、むしろやっとスタートラインに立って、やりたいことのビジョンが一段上がって今後が楽しみになってきた段階だと見ています。
ただ、むしろこれからがちょっと難しくなってくるとも思っていて、
経営者は「お金の使い方のセンス」が必要です。コストを抑えることは実は誰でもできることですが、お金を使って投資した分を2倍や4倍、10倍にするのは経営者のセンスが求められます。それを考えるのはとても大変です。なので、足元で巻き起こっているとてもいい流れを、お金を使うことでより加速させていくことが今の局面だと考えています。そういった意味では、今が一番大事なフェーズに来ているとも思っています。それはお金の話でもありますが、人材についても当てはまります。経営者で持っている複数のレバーを、どう引いていくのかを考える時ですよね。
杉山: おっしゃる通りですね。昨年シリーズAの資金調達をし、以前にも増して予断を許さない状況の中、預かったお金をどのように成長へと使っていくのかは、経営者として非常に悩ましい課題だと実感しています。
小泉: プロダクト自体には色々思われてることがあると思うので、僕としてはぜひ「
やりたいことを素直にやっていってほしい」と思っています。僕自身、経営者としていろんなケースを見てきていますが、やりたくないことをやって成功する人はあまりいないんですよ。最初は嫌々始めて、途中から好きになって成長するケースもたしかにありますが、そういったケースも稀です。やはり、
経営者の熱量は企業経営にはとても大事なものです。
逆に言えば、今は資金を得てやりたいことが次々と浮かんでくる時期だと思います。ただ、僕は比較的フォーカスを絞って注力していくのが好きなので、例えば最初は「やっぱりオシロとしてはこれだよね」という一本軸を定めて、そこに向かっての取り組みを強化していくのがいいと思います。コミュニティのマーケットは結構深いと思っているので、あまり新規事業とかには注力せずプロダクトにちゃんと向き合いつつ、メンバーと一緒にしっかりいいものをつくっていってもらいたいですね。
杉山: まさに今、小泉さんがお話しした通りです。オシロでは現在、クリエイター向けのコミュニティは変わらず多くのお引き合い、導入いただいていますが、
最近ではブランド向けの事例が非常に増えています。また、企業の従業員向けのコミュニティのニーズでもお引き合いをいただいており、「OSIRO」が提供する領域は広がりを見せています。今、オシロの眼前には大きな可能性が広がり、僕自身本当にワクワクしているんです。今後も素直に経営やプロダクトに向き合い、より成長を描けるようにしていきたいと考えています。
最後に、小泉さんからぜひアドバイスをいただきたいです。
小泉: 僕のエンジェル投資先やアドバイザリーボードを務めた企業の中で、上場した企業も多いのですが、会社が成功する要因はさまざまなので一概にいうことはできませんが、成功する経営者の共通点は結構明快だと考えています。僕は「
素直さ」であり、2つの素直さを持っている経営者が成功していると思っています。1つは
やりたいことをしっかりやって、注力すべきところにフォーカスする素直さ。もう1つは
謙虚に近い素直さです。言い換えれば、潜在的なものでも顕在化しているものでも、
経営のリスクに対して、しっかり向き合っていく誠実さや強さが求められます。やっぱり会社や事業に本気で取り組む経営者は、自分自身が「まずい」と思ったことを放っておかずに素早く対応していますね。
僕は「『これはいけるぞ!』と思ったことは9割うまくいきませんが、なんとなくまずいと思ったことは、9割がまずくなります」と話しています。しかし、どこかに慢心があったりすると「なんとかなる」とか、「問題起きた時に考えよう」という思考になるんです。それが雪だるま式に膨らんでいって、問題が顕在化する頃には手がつけられない状態になってしまいます。
だからこそ、
素直さや向き合う本気さ、強さはとても大事です。今後も成長していく過程でまた資金調達を行い、さらに大きな成長を狙うフェーズが来ると思います。企業は大きくなるごとに、リスクの種は増えていくので、今度は経営者だけでなくメンバー全員もリスクと向き合っていく必要が出てきます。そうなった時はなおのこと、経営者がメンバーと向き合い、アラートをいかに早く出していくかも大事になってきます。
やはり経営者が社員と向き合っていない組織はどんどん弱くなっていきます。メンバーのモチベーションもどんどん下がって意見もなくなるので、経営者はよりリスクに気づきにくくなる。
会社もまた働く場というコミュニティなので、経営者がしっかりと異変に気づける組織になっているか、異常が出た時に知らせてくれるコミュニケーションがあるのか。そういうのが今後大事かと思いますね。
杉山: 小泉さんがおっしゃった2つの素直さは、私も非常に重要なことだと思っています。オシロは今、
新しいメンバーの採用も強化 しています。メンバーが増えていく中でも、僕たちが掲げるコアバリューの一つである「DIALOGUE BASE」を重視し、対話しながら未来を描ける組織をつくっていきたいです。また、先ほどお話ししたように、オシロは次の成長に向けた大切な時期にあり、経営の難易度も高くなっていると自覚しています。今日の対談で、改めて小さな違和感も見逃さないよう注意していきたいと思いました。本日はありがとうございました!
Profile
小泉文明|Fumiaki Koizumi
株式会社メルカリ 取締役 President(会長)兼 株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長
早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2006年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月取締役社長兼COO就任、2019年9月取締役President (会長)就任。2019年8月より株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長兼任。
杉山博一|Hirokazu Sugiyama
オシロ株式会社 代表取締役社長
24歳で世界一周から帰国後、アーティストとデザイナーとして活動開始。30才を機にアーティスト活動に終止符を打つ。日本初の金融サービスを共同で創業(2024年上場)。退社後、ニュージーランドと日本の2拠点居住を開始。30歩で砂浜に行ける自分を豊かにするライフスタイルから一転、天命を授かり「日本を世界一の芸術文化大国にする」という志フルコミットスタイルに。以降東京に定住し、2015年クリエイター向けオウンドプラットフォーム「OSIRO」を開発。2017年オシロ株式会社設立。
オシロ株式会社は現在、ファン同士の交流を活性化させる業界唯一のコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を成長させ、より多くのクリエイターやブランドオーナー、企業様にご導入いただくための仲間を募集しています。
採用ページ では、弊社が大切にする価値観や文化、ともに働くメンバーのインタビュー、募集中の職種などが掲載されています。
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