投資家の谷家衛さんをお呼びした「OSIRO INVESTOR INTERVIEW」第一弾。
OSIRO INVESTOR INTERVIEW
オシロ株式会社を応援する投資家をお招きし、代表の杉山博一がコミュニティの可能性について語り合う「OSIRO INVESTOR INTERVIEW」。第1回のゲストは、エンジェル投資家として20年以上ベンチャー企業を支援し、「ライフネット生命」や「お金のデザイン」、UWC ISAKなどの会社や学校創設にも携わった投資家の谷家衛さん。日本を代表する投資家である一方、数々の非営利組織やソーシャルベンチャーへの投資も行う谷家さんにとって、オシロの事業にどのような可能性を感じたのでしょうか。その想いや期待をお聞きしました。
事業は誰がやるかに尽きる。博一くんのパッションを信じた
杉山博一(以下、杉山): 谷家さんには創業してすぐの頃に事業の説明にうかがい、僕のつたない説明に「いいね、いいね」と耳を傾け、満面の笑みで「応援するよ」といってくださったことを今でも鮮明に覚えています。驚いたのは、他にどんな投資家さんが応援しているのかすら聞かず、事業計画もない状態で出資を決めていただいたことです。それはとても光栄で、勇気をいただいたのを今でも覚えています。当時を振り返って、オシロのどのようなところに共感していただいたのでしょうか。
谷家衛氏(以下、谷家): オシロが掲げるクリエイターの支援、特に創作における孤独をケアする取り組みは、間違いなく現代に求められていることです。それは昔からいわれ続けていることですが、社会としてまったくできてない。その課題意識は僕のなかにもあったので、博一くんの話を深く理解できました。そしてなにより、博一くんにパッションがあることが伝わってきたんです。
もともと大輔さん(四角大輔、オシロ共同創業者)から、「
つくる人を愛しているから、できるものがまったく違う」と博一くんがつくろうとしているオシロの世界観を聞いていたんです。高校の後輩で、僕が天才だと思っている佐渡島くん(佐渡島庸平、オシロ共同創業者)も「オシロは、すごくおもしろい」と話していました。信頼する二人が口をそろえて「良い」と言っていて、あとは「誰がやるか」に尽きる。博一くんがこれだけパッションをもってやるのなら応援しようと思ったんです。
杉山: 谷家さんにそういっていただけるのは、とても嬉しいです。僕は単純に「アーティストのために!」という思いで始めたので、初めはMRR(月次経常収益)やSaaS(クラウド型のソフトウェアサービス)という言葉すら知りませんでした。そんな僕に谷家さんは「売上なんて気にしないで、つくりたいものを思いきりつくりなさい。それが社会に役立つものになるから」と言ってくださったんです。
それからは本当に、売上のことを考えず(笑)一心不乱にオシロという“刀”を研ぎ続けました。MRRが微増の日々がずっと続き、2年ほどが経ち、気づいた時には口座にお金がなくなっていました……。それを谷家さんに相談したら「よくあることだよ」と追加で出資していただいたんです。
谷家: まあ、お金がなくなるのはよくある話しですから(笑)。
杉山: 事業もある程度固まってきたタイミングで、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をする話をしたときも、谷家さんからぼくが右脳タイプなのでそのことをご理解いただける投資家の方をご紹介いただきました。今こうしてオシロの事業が続けられてるのは、すべて谷家さんのおかげだと思っており、感謝してもしきれません。
谷家: 事業を通じて、
創業者が自身を表現できているのかは、事業の成功に大きく関わるものです。事業を続けることは簡単なことではなく、途中で難しいときが必ず来る。それでも事業を通じて自分を表現できていると思えば、頑張って乗り越えられるんですよ。
「自己表現」と一口でいっても、一人の人の中にも色んな個性が存在します。その中でも、
意思を持って地球を良くしていくのに向いた自分の個性を表現した方が、自分も幸せだし社会も幸せだと思うんです。それで誰かの役に立てていると実感できるのは、喜び以外なにものでもありません。
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社会の分断を解決させる企業にこそ、資金を投じる意義がある
杉山: 先日、今ベストセラーになっている『きみのお金は誰のため』の著者、田内学さんのnoteの中で、谷家さんのことが書かれていたんです。それによると、倉石寛さん(1971年から2010年まで谷家さんの母校である灘高等学校の日本史教諭を務め、現在は立命館大学稲盛経営哲学研究センター副センター長)が、「日本を一番変えてくれそうな人物」として谷家さんを挙げていたといいます。
その理由は、谷家さんは単なる投資家ではなく、ビジョンをお持ちだからだといいます。谷家さんは現在、スタートアップへのエンジェル投資や支援を積極的に行っています。その理由について、ぜひお聞かせください。
谷家: 僕が大学卒業後に入社したアメリカの投資銀行ソロモン・ブラザーズは、金融工学の最先端を行く金融機関であり、ノーベル賞を獲るような経済学者たちと共に仕事をする会社でした。
金融工学の理論では、市場はどんどん効率的になっていくと考えられていたのですが、投資を目的とする人たちのお金の量が多すぎて「池の中の鯨」のようになっていたんです。そんなときにアジアやロシアで経済危機が起こると、本来は株と不動産と債券というのは別々に動くはずなのですが、一つのきっかけで連鎖的にボロボロに崩れていったのです。
モダンキャピタリズムは明らかに行き過ぎであり、市場を不安定にしていると思うようになったんです。すると、だんだんとその分野への情熱が減っていくんですね。それと入れ替わるように興味を持ったのが、スタートアップ領域でした。
スタートアップへの投資はただ事業の成長を応援するだけでなく、今世界中で問題になっている社会課題を解決する可能性を持っている。とてもやりがいがあると思いました。今では、スタートアップに投資するだけでなく、自分でも一緒に事業をつくって応援することをしていて、投資の中で一番好きな分野になっています。
杉山: 谷家さんはスタートアップのなかでも、特に教育やSDGsに取り組む企業を積極的に投資されていますよね。どのようなビジョンをもって応援をされているのでしょうか。
谷家: 金融は、お金の適正配分を助けることが大きな役割の一つだと思っています。その中でも気候変動や社会の分断の問題を解決するようなことなど、広い意味で経済用語でいう「外部不経済(※)」の解決に資するものにお金を動かしたいと考えています。
※外部不経済: 企業の生産活動などで環境に対して悪い影響をもたらし、ステークホルダーなどの当事者以外に不利益をもたらしている活動のこと
今までの資本主義経済では、儲かることしか考えていませんでしたが、それでは社会も地球も立ち行かなくなっています。そこで2021年に、サステナビリティ・ファンドの組成・運営、クリーンテックや排出権事業などのインキュベーションを通じてサステナブル事業に資金を動かすことをミッションとする、株式会社SDGインパクトジャパンを立ち上げました。
杉山: 僕たちがチャレンジしている
クリエイターの孤独をコミュニティによって解決する取り組みも、谷家さんがお話しした外部不経済の一つを解決するものだと思っています。例えば、現在ではSNSはクリエイターやブランドとファンを近づける素晴らしいツールですが、決してポジティブではない言葉が直接クリエイターに投げかけられることもあります。ある意味でクリエイターが不特定多数のユーザーの衆目に晒され、匿名の暴力を恐れると同時に、フォロワーの数が第一目的となり本来望んでいない創作を強いられる構図ともいえます。本来、
アーティストやクリエイターは自分自身が求めるべきクリエイティブに専念し、不本意な作品を大量につくるのではなく、創作も生活も応援されながら常に自身の最高傑作を追い求めるべきです。
情報発信としては非常に有益ですが、一方で
クリエイターやブランドとコアなファンがより密接に交流でき、縦と横のつながりから新しいクリエイティブが生まれてくる場は絶対に必要です。分断ではなくつながりを生み、コミュニティオーナーだけでなくメンバーの一人ひとりが居場所を感じられる場所をつくって行きたいと思っているんです。
SDGインパクトジャパンでは、谷家さんが持つビジョンを体現するように、将来グローバルに社会的インパクトをもたらす可能性を秘めた企業に投資されていますね。同社ではどのような方針で投資先を決めているのでしょうか。
谷家: 例えば、私たちの投資先の一社であるニュージーランドのNILOという企業では、プラスチックから工業用の接着剤を生み出す取り組みをしています。現在普及している手法では、プラスチックは10%程度しか再利用ができないといわれていますが、NILOの方法であれば3分の2は再利用できるようになります。
このように、現在ではさまざまな問題がありますが、その解決のために事業を進めている企業や団体は多いです。そのような人たちが
自身のやりたいことにより注力できるような環境をつくっていけば、世の中はよりよい方向に進んでいくと思うんです。今では「カーボンプライシング」といって、企業の経済活動によって排出される二酸化炭素には価格がつけられ、企業にとって明確なコストとして可視化されつつあります。このように、今後は外部不経済であるものに対して、なんらかの値段がついていくと思います。これと同様に、
社会の分断に対してもなんらかの解決策を講じなければ、今後より大きな対立構造が生まれていくことでしょう。
一方で、私たちがNPOやソーシャル・アントレプレナー(社会課題を解決しようとする起業家)を応援していて痛感していることなのですが、
サステナブルな取り組みが社会的なインパクトを与えていくためには、しっかりと経済的なリターンを出していくことが不可欠です。そこで、私たちとしてはまずはなんらかの値段がついていきそうな領域への投資を優先し、投資先の皆さんとともに汗をかきながら事業をつくっていっているところです。
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コミュニティが孤独問題を解決する
杉山: 経済的リターンなしに社会的なインパクトをもたらすことはできない。これは僕もオシロを経営していて強く実感しているところです。谷家さんは単なる投資家ではなく、やはり社会が実現すべき未来のビジョンを持って投資されています。オシロがそのような谷家さんに応援していただいていることはとても光栄であり、これからより大きなインパクトをもたらす企業になっていかなければならない。特には今は企業として成長している時期なので、改めて気を引き締める時だと思っています。
谷家: 先ほど事業の成功と自己表現、そして幸せについてお話ししましたが、起業家に限らずやはり
どんな人も自分を表現できるというのは幸せを感じる一大要素だと思っています。そういう意味では、博一くんは元クリエイターでありアーティスト。当事者の気持ちもわかるし、自分を表現できる才覚を持っていると思っています。
市場的な観点で見れば、これから伸びる分野は、中長期に見てなんらかの社会課題を解決するものだと思っています。
そのような中で
コミュニティは、人々がつながりを感じられる場所として、今の社会にある分断や孤独という大きな問題を解決する重要な役割を果たすことにもなります。そのような取り組みは間違いなく大きなニーズとなり、今後伸びていくでしょう。そういった意味では、
私は博一くんの才覚とともに、コミュニティという市場そのものにも注目しています。
杉山: 僕も同じことを考えていて、オシロではそれを「つながり価値」と呼んでいます。
さまざまなサービスでは一般的に機能的価値と体験価値が重視されていますが、その次に「つながり価値」が重要になるといわれています。僕は雑誌が大好きなんですけど、雑誌の持つ基本的な機能的価値は情報を伝えることにあります。しかし、今やその情報は雑誌以外からも入ってくるようになってしまいました。そこで現在は、雑誌の価値観に基づいた読者を集めてイベントをしたりすることで体験価値をつくっているのが、業界全体の動きだと思います。さらに今後は、その体験価値以上に読者同士のつながり価値が重要になってきて、そこまでを編集していかなければいけなくなってきています。
あくまで雑誌を例に出しましたが、昔は当たり前のように無料だった安全や水にお金を払うようになってきました。それと同じように、
当たり前にある人と人のつながりにも価値が生まれ、お金を払ってまで得たいと思う価値の転換点が来ていると実感しています。
谷家: それは間違いないですし、音楽やスポーツなどではすでに起こっていますよね。ライブや試合をテレビやスマホで見て応援するよりも、会場に行って同じ音楽を好きな人たちと一緒に音楽を聞いたり、同じチームを愛する人同士で応援する方がはるかに満足度が高いですよね。
杉山: そうなんです。
体験価値とつながり価値が共存し、同じ空間で想いを分かち合い、呼応していくことで、その熱量はどんどん高まっていく。そういった相乗効果こそが、つながり価値の強さだと考えています。
谷家: やはり、
人が幸せを感じるのは、心のつながりがある状態だと思うんですよ。それは個々人のつながりもそうですが、コミュニティのように自分よりも大きな、心や想いを分かち合う場とつながっているのが、なによりも大切だと思うんです。
それは博一くんもそうですし、似たタイプの経営者では僕個人としても好きな「CAMPFIRE」を運営する家ちゃん(株式会社CAMPFIRE 代表取締役 家入一真氏)や、「BASE」の鶴ちゃん(BASE株式会社 代表取締役CEO 鶴岡裕太氏)とかと同じだと思いますね。博一くんたちに共通するのは、
現代に安心安全が担保された居場所をつくる、あるいは立場の弱い人を徹底的にエンパワーメントしていくことにコミットしていること。現状を見ると、そういう経営者が実は時代に合っているのではとも思っています。
ビジネス的な成功を第一に考えるアグレッシブな起業家もいますが、それだけではなくて自身のセンスから時代を捉え、社会的なインパクトをもたらそうとする。いわば「アーティスト系」の経営者ですね。その方が、これからの若い人の共感を集めやすく、当初の思想を忘れず着実に歩んでいける企業をつくれるのではと考えています。
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OSIROは企業で働く人たちのウェルビーイングにも貢献していく
杉山: 今回こうしてゆっくりと谷家さんとお話ができて、本当に嬉しいです。とくに「事業を通じて創業者自身を表現する」というお話は、もう一度自分自身で問い直したいと思ったポイントです。
谷家: 人と人とのつながりやクリエイターの不安や孤独をケアすることは、博一くんの個性にとても合っていると思います。一方で、単にコミュニティだけにフォーカスして売上を伸ばしていくのは、博一くんの個性に合っていないケースもあるだろうとも思っています。もちろん、長い目で見たときには導入企業の幅を広げていくことはとても大事なことです。しかし、そこで自社が描くビジョンや思想を曲げる必要はまったくないと思っていて、博一くんが示す世界観に共感して導入を決める企業は必ずいて、その企業が築くコミュニティはとても素晴らしいものになると思うんですよ。そういったところを端緒としながら、一歩ずつ成長していってほしいと思っています。
杉山: OSIROは、クリエイター向けにサービスをつくり込んできました。なので、これまでは企業のマーケティング施策としてのアプローチでは、要望に応えきれない部分があったのも事実です。マーケティングは効果がわかりやすく、即効性のある施策が選ばれやすいため、コアファンとの長期的な関係構築を目指すコミュニティの価値を伝えづらい面がありました。
一方で、2023年に上場企業では財務情報だけでなく非財務情報の開示が義務付けられたことを皮切りに、これまで潜在化していた企業の課題、そして魅力を把握し言語化していくニーズが高まっています。会社の社員は雇用されている以上、なにかしらの業務に従事しています。でもそれはレコードでいえばあくまでA面であって、社員同士の関係性構築やコミュニケーションの場であるB面も重要です。しかし、現在はその関係が希薄になっている。それが、企業の成長とも関係しているともいえます。
OSIROは、企業で働く従業員のB面を豊かにするためのコミュニティとして、非業務のコミュニケーションを活発化させ、自社の中で潜在化していた強みを顕在化するツールにもなると考えていて、実際にさまざまな企業からお引き合いいただくことが増えていることからも、そのニーズを実感しています。
谷家: 人的資本の価値を高めることで生産性が上がり、その結果業績や企業価値の向上に貢献していくということですよね。その路線の方が、博一くんに合っていると思います。とにかくコミュニティの数を増やして売り上げを伸ばしたいという価値観もあると思いますが、それは博一くんには合っていない。企業にいる人たちの幸福度を上げる、ウェルビーイングを高めていくことの方が、絶対に合ってると思いますよ。良いことと悪いことは表裏一体です。どんな人も完璧ではないので、博一くんの強みを活かした方がいいです。
OSIROは、長く続ければ必ずうまくいくと思います。そのためには、マネタイズできるところを見つけていくことです。強みを生かすことを最優先にして、個性に合った取り組みを長くやれば必ず成功すると思います。どんな天才もマクロには勝てないですから。
杉山: ありがとうございます。僕も継続することが一番大事だと本当に思ってます。そのために、会社のなかでも自社の強みについて考え続けていかないといけないといっていますし、改めて社員と一緒に理解を高められるような場をつくっていきたいと思いました。本日はありがとうございました。
Profile
谷家 衛|Mamoru Taniya
東京大学法学部卒。1987年にソロモン・ブラザーズへ入社、日本・アジアの投資部門を統括。独立系オルタナティブ運用会社のあすかアセットマネジメントや日本政策投資銀行との合弁でPE投資のマーキュリアを創立。創業支援としては、日本初オンライン保険のライフネット生命、日本初のロボアドバイザーお金のデザイン、SDG Impact Japanなどがある。日本初全寮制インターナショナルスクールISAK JAPANを着想し発起人代表を務める。
杉山博一|Hirokazu Sugiyama
オシロ株式会社 代表取締役社長
24歳で世界一周から帰国後、アーティストとデザイナーとして活動開始。30才を機にアーティスト活動に終止符を打つ。日本初の金融サービスを共同で創業(2024年上場)。退社後、ニュージーランドと日本の2拠点居住を開始。30歩で砂浜に行ける自分を豊かにするライフスタイルから一転、天命を授かり「日本を世界一の芸術文化大国にする」という志フルコミットスタイルに。以降東京に定住し、2015年クリエイター向けオウンドプラットフォーム「OSIRO」を開発。2017年オシロ株式会社設立。
text & photos by Ichiro Erokumae
オシロ株式会社は現在、ファン同士の交流を活性化させる業界唯一のコミュニティ専用オウンドプラットフォーム「OSIRO」を成長させ、より多くのクリエイターやブランドオーナー、企業様にご導入いただくための仲間を募集しています。
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