OSIRO Dialogue − インタビュー
コミュニティープロデューサーによる、コミュニティダイアローグ『OSIRO Dialogue』
日々コミュニティ運営者と伴走するコミュニティプロデューサーが何より大切にしていること、それは「ダイアローグ」。 コミュニティオーナーが本気でやりたいことを理解し、 どうやってコミュニティで実現するかを共に考え、伴走します。このシリーズではそんな一コマをシェアしていきます。
前編ではコミュニティマネージャー浅野純子さんのライフストーリーを通して、〈LifestyleDesign.Camp〉の創り出す価値をお伺いしました。後編ではコミュニティの中で起こる物語、そして〈LifestyleDesign.Camp〉の展望までさまざまなお話を伺います。
メンバーの個性やスキルを生かせる小さなコミュニティ
高田:コロナ禍でよりオンラインの活動が促進されたと思うのですが、何か変化はありましたか?
浅野:大輔さんがNZからイベントに参加できるようになったことですね。
コロナ前はオンラインサロンでありながら、イベントはリアルのみ。「大輔さんが帰国しないとイベントができない」という思い込みがありました。
コロナ禍を機にオンラインイベントが日常的になり、毎月大輔さんが参加するイベントができるようになったというのが一番大きく変わったところかなと思います。
それに、以前は大輔さんがコミュニティの中心という感じだったのですが、オンラインが日常になって、国内外のCamperと交流できるようになったことで、今では大輔さんだけではなく、
「〈Lifestyle Design.Camp〉の中にこんなおもしろい人がいるんだ」ってみんなが気がついた。
Camperさんだけのイベントもめちゃめちゃ増えたんですよ。時には大輔さんのイベントより参加者が多いことも!(笑)高田:みんなの思い込みが外れたわけですね。メンバー主体の活動が広がったきっかけは他にもありそうですか?
浅野:大輔さんの人生デザインメソッドを学んで、本来の自分の可能性や、やりたいことに気がつき、コミュニティの中で自分の成長を感じると、次のステップを踏みたくなると思うんですよね。
その時に、退会して外の世界でやりたいことを実現する人もいるかもしれないけど、せっかくならこのコミュニティの中でまず挑戦してみてほしい。実際に、最初はCamp内で小さなトライ&エラーを重ねてから小さく起業したり、好きなことを仕事にしていくメンバーもいます。
その環境を作るのもコミュニティマネージャーの役割かなと思っていて。
そこで今年から「サポータープラン」というものをつくりました。これは自分のスキルを生かして、コミュニティを盛り上げながら自分の強みでCampをサポートしたい方向けのプランです。
運営スタッフではなく、あくまでもプランの一つなので、関わり方は自分のさじ加減で決めることができます。
高田:スキルを表現しやすい舞台が整えられてますね。とはいえスキルを持ってる人がいたとしても、普通だったらなかなかコミュニティに提供してくれないこともあると思うんですよ。どうしてここまで貢献してくださるのでしょうか?
浅野:それは、大輔さんがCampを
「オンライン上のホームプレイス」と呼んで大切にし、Camperもここに集まった仲間を大切に思っているからだと思います。
あとは、スキル交換、物々交換など、お金中心ではない生き方をしたいという人たちが集まっているからでしょうか。
サロンの中に「Campers Market」という、いわゆるスキルやモノの交換市場ができました。
例えば「WEB制作の相談にのります」という人がいたとしたら、お礼はお金ではなく、コミュニティ内通貨の“マナ(NZのマオリ族の言葉。日本で言うところの「徳」や「品格」)”で交換したり、自家菜園のオーガニック野菜を提供したり、星読みのセッションをしたり、手作りマスクや自家製のパンを贈る人も。
お金について学ぶ「ファイナンシャルデザイン」のメソッドを通して、貨幣制度に依存しすぎない風土にもなってきました。
高田:本当に一つの村のような、小さな社会になってるんですね。
浅野:このコミュニティの理想の姿は、一人ひとりが個々のアーティスト性を見つけて、それを仲間に提供できるようになること。それによって、このコミュニティの中だけで生活できるくらいの、小さなシェアエコノミー社会にすることだと、日頃から大輔さんはお話してます。
大輔さん自身、NZの湖畔の自宅をリフォームする時に、NZ在住の大工さんCamperに床工事をお願いしたり、彼が関わるドキュメンタリー映画の音楽をCamperに依頼したり、練習中のサーフィンを教わったり、知りたい情報があったらコミュニティ内の各部活の部長に聞いてみたりしていて。メンバーから学んだり、頼ったりしているんです。
そんな風に、大輔さんが頼りたくなるほど、多彩なスキルを持っている人も多くて、安心できる空間なんです。
オンラインサロンは、あくまでもツール
浅野:カズキ(高田)さんもそうだと思うんですけど、自然の近くに住みたい、場所に縛られず働きたい、サステナブルな暮らしがしたいとか、当たり前のようだけど、なかなかそれを実践するのが難しい人もいるじゃないですか。
高田:そうですね。世の中ではまだまだマイノリティですよね。
浅野:コロナ禍になって、多様な働き方や、丁寧なライフスタイルが見直されてきましたが、今までは自分の大切にしたい価値観を周囲の人に言えなくて、どこか生きづらさを感じて暮らしていた人たちがいたんですよね。
でも、このコミュニティの中だと、むしろそれが当たり前の価値観なので、周囲に気を遣わず自分の想いを語れるし、ブログを投稿したらみんなのコメントで自信が持てる。すると、どんどん自分を表現できるようになっていく。大輔さんの言う「アーティスト性」に気付き、どんどん輝いていくんですよね。
結局、オンラインサロンはあくまでもツールでしかなくて、
大切なのはこの小さなコミュニティ内でどう人とコミュニケーションを取り、どうお付き合いするかだと思うんです。
〈LifestyleDesign.Camp〉では大輔さんのこだわりで、実名を出して、顔がはっきりわかるプロフィール写真にすることがルール。だから、リアルに付き合ってるような感覚になるんですよね。その結果、オンラインであっても、人間味ある関係性を大事にする風土がサロンの中にあります。
時代に合うからか、会員数は増える傾向にあるんですが、今の雰囲気を崩さず、あくまで「小さなコミュニティの風土」は維持したいですね。同じ価値観を持ってる人に来てほしいと思ってます。大輔さんの希望で、審査制に切り替えた理由も、人数よりコミュニケーションの質にこだわるためなんです。
コミュニティマネージャーは完璧でなくていい
高田:今でこそ「コミュニティマネージャー」は注目の職業ですが、純子さんがこの仕事を始めた時は、まだそんなに浸透してなかったと思います。メンバーの方々と信頼関係を築くことは大変ではなかったですか?
浅野:はい、大変でした。
私の場合は、もともと自分がメンバーだったから、最初は距離感が難しかったんですよね。
事務局としての立場と、メンバーとしての立場ってやっぱり少し視点が変わってくる。
Campは、一番下が10代で上が60代という幅広い年齢層で、性別も多様。職業、肩書きもさまざま。
皆さんと常にフラットに接することを心がけてました。
高田:メンバーからの役割の切り替えは難しかったでしょうね。
浅野:そうなんです。当時の大輔さんはインターンを募っていて、20代のデジタルに強い男女がチームにたくさんいたのですが、私はデジタルが苦手な40代。
そんな私に大輔さんのアシスタント、さらにはオンラインサロン〈LifestyleDesign. Camp〉のコミュニティマネージャーが務まるかっていうのは、正直悩みました。
他の優秀な人と比較したり、最初は自分に自信がなかったんですよね。
でもその時、
「他の誰にもならなくていいんだ」と気づかせてくれたのがCamperの皆さんだったんです。
「純子さんが事務局だと安心する」とか「テキパキこなすデキる人より、不完全なところがある純子さんがいい」って言ってくださって。
そんな言葉を聞いて、
「あ、私は凸凹人間でもいい、不完全な人間、つまり私というアーティストでいいんだな」っていう風に思えたんです。
だから、私はこの人達のために頑張ろう、そう思えたのが大きいかな。
世の中にオンラインサロンが増えてきて、「コミュニティマネージャー」っていう仕事も人気になりつつありますが、じゃあ私が世間でいう理想の姿を追い求めなきゃいけないわけではない。
Camperが求める姿は、ありのままの私だったんですよね。
すみません、泣いちゃいそうです...
大輔さんも、「純子さんには、次世代のような高いデジタルスキルはないけど、人材会社で多種多様な人とリアルに接してきた経験からの肌感覚は、若い人たちにはないもの。だから、“そのまま”で良いんだよ」と仰ってくださって。
高田:「他の誰にもならなくていい」これは勇気づけられるメッセージですね。まさにCampの理念でもありますしね。
これからコミュニティマネージャーをやりたい、または任されてちょっと不安に思っている方に向けて、純子さんからなにかアドバイスやメッセージはありますか?
浅野:まずはコミュニティのメンバーに関心を持つこと。
あと、やっぱり人のサポートって、自分の心と体が整ってないとサポートし続けられない。
だから、これは大輔さんからいつも言われてることなのですが、まず自分をとことん大切にすること。
最初の頃は、24時間オンラインでつながってる環境だから、時間を区切らず問い合わせ対応していることもありました。でも、大輔さんに「ダメだよー!」「昭和な働き方はやめて!」って何度も注意されて、体に染み付いた古い考え方をやっと改められたんです。
今は時間、曜日を区切って、自分の時間も大事にするようにしています。あと昨年6月から事務局が2名体制となり、互いに問題を共有しあえるようになったことも大きいです。メンバーからの相談事も、自分の心が整っていて余白がないと対応できないので。
だからこそ、常に自分を大切にするというか、自分を大切にした上でみんなをサポートするということは大事なことじゃないかなと思います。
そしてもうひとつ。
〈LifestyleDesign .Camp〉はありのままを大切にしている空間だからこそ、Camperさんが苦しい胸の内を安心して吐露してくださいます。匿名による、心ない誹謗中傷があふれる巨大なネット世界と違い、小さなコミュニティで、顔と実名を伝え合ってるからこその安心感は大きいと思います。
そういう一見するとネガティブと捉えられるブログこそ、みんなの温かいコメントがたくさん寄せられるんです。
そのコメントを読むと、本当に自分も心があったかくなるし、このコミュニティの一員であることを誇りに思います。
事務局としては、そうした悩みもみんなで共有しあって、支えあえる環境を整えていきたいと思っています。
高田:素晴らしいですね、みなさんのお互いの信頼を感じます。
社会を動かすホームプレイスを目指して
高田:最後にお聞きしたいのですが、コミュニティオーナーは大輔さんでありつつも、純子さんなりにCampをこうしていきたいというビジョンをお聞きしたいです。
浅野:やっぱり、みんな一人一人がアーティストになる、本来の自分に還ってありのままの自分でいられる “ホームプレイス” になればいいなって思うんですよね。
そこを起点に次のステージに飛び立つことができる “ホームプレイス”。そこは大輔さんと同じですね。
私もいま試していることがあって、なるべくこの小さなコミュニティの中でお金を使うようにしているんです。
暮らしの中でCamperに頼る割合を高めていきたいなと思っていて。
美容院もそうだし、パンを買いたいなと思ったら、Camperのお店に注文したり。コーヒーを飲みたい時はコーヒー豆も頼んだりとか。大輔さんも帰国されると、安心だからと言って、身の回りで必要なことの大半をCamperに頼ってます。
さらにお互いを知って多様性が出てくると、いろんなことができそうだなって。
そして、近年は、自然に近い暮らし、シンプルライフや社会活動を実践しているCamperもより増えました。
今年初めには環境NGOのキャンペーンに賛同団体として参加したり、ソーシャルな企業とのコラボイベントを開催するなど、地球と人にやさしいライフスタイルを発信するコミュニティに成長してきました。
「小さくてクローズドなコミュニティ(オンラインサロン)を基点に、社会を変えたい」という、大輔さんの長年の想いが形になる兆しも見えてきています。
高田:もはやオンラインサロンの枠ではないですね!はじまりは大輔さんのメソッドを伝えるファンコミュニティのようなところから、徐々にメンバー主体のものになり、今や公のものになりつつある。
浅野:そうですね。「”本来の自分”で生きられる人が増えれば世の中は良くなる」って大輔さんは信じてコミュニティを始めたと思うので、まさにそういう方向に向かってると思ってます。
大輔さんの人生哲学に共感して入会されたCamperも多いのですが、
大輔さん自身も、Camperをすごくリスペクトしてて、頼りまくってる(笑)。その関係性があるからこそ、大輔さん含めたCamper全員が対等なんだと思うんですよね。
4月に大輔さんにお子さんがご誕生されたんですが、多くのCamperから「育休を取って、大事な時間を自分と家族のために使ってほしい」「自ら育休宣言することで、世の男性を啓発してほしい」と、声が上がって。
オンラインサロンの主催者が育休で不在になるって、普通じゃないですよね。Camperが大輔さんの人生を尊重してくださって、すごいことだなと思いました。
その提案を受けて、大輔さんはしばらく育休を取られたんですが、1ヶ月ほど経ってから「やっぱり戻りたい」と復活されました(笑)。でも、公では「無期限の育休中」と宣言されたままで、他の仕事は基本していないんです。
さらに5周年の今年は、
Camper主導で8月1日に「LifestyleDesign.Camp FES 2021」を開催することになりました。テーマは「人は誰もがアーティスト〜未完成な自分から始めよう〜」。
▲「Lifestyle Design .Camp FES 2021」のために製作されたイラスト
最初は一人のCamperの声かけから始まり、今では10数名で企画チームを結成して、出展者はもちろん、予告編動画や、グッズやフェスのテーマソング、特設サイト制作まで、全てCamperだけで企画を進めています。
大輔さんは「オンラインサロンを始める時から〈LifestyleDesign.Camp〉でフェスをやるのが夢だった!」と大喜びで、ご自身もスピーカーとして参加されます。
まさに多彩なスキルを持つCamperのピースが組み合わさっていく感覚です。
▼「Lifestyle Design .Camp FES 2021」2021年8月1日(日)開催!〈LifestyleDesign.Camp〉5周年記念オンラインフェス!大輔さんや事務局がいなくても、Camperだけで愛のある世界を創っていけるコミュニティになったんだなと実感しています。
私もイベント企画・運営の仕方を学ばせてもらっています。笑
高田:まさにメンバー同士の“共創”が生まれているんですね。
大輔さんだけでなく、純子さんが取り組まれたこと、メンバーのみなさんも含めて、リスペクトに溢れた素敵な場になっているんだなということが伝わりました。本当に感慨深いです。
浅野:カズキ(高田)さんがオンラインサロンの立ち上げに関わってくださったおかげですよ。ありがとうございます。
オンラインサロンという小さなコミュニティで、自分の人生が変わるなんて思ってもみませんでした。
やっぱり「わかりあえる人」との出会いや、「ホームプレイス」の存在って、人生が変わるきっかけになりますよね。
誰と出会うか、どこを自分の居場所とするかは、人生においてすごく重要なんだと思います。
それを自分で選べないと思い込み、なんとなく今のコミュニティに身を置き、なんとなく人とお付き合いしてしまっている人はまだとても多い。
人やコミュニティを含めて、「ホームプレイスは自分で選べるんだ」という考えが浸透していけば、もっとみんなが生きやすい社会になるんじゃないかなって思います。
高田:本当ににそうですね。自分自身もこのコミュニティによって人生が変わったと感じているので、共感しました。僕もそういう居場所になるようなコミュニティを世の中に増やしていきたいと改めて思います。本日はありがとうございました!また、長野でもお会いしましょう!
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浅野純子
ニュージーランド在住の執筆家・森の生活者、四角大輔主宰オンラインサロン〈LifestyleDesign.Camp〉コミュニティマネージャー。新卒でユニ・チャームの事務経験を経て、財閥系企業など人材サービス業界で18年の経験。2020年4月よりフリーランス。2020年12月に東京から長野へ移住し、築100年の古民家暮らし。一点物とシンプルな空間、カレーに惹かれる虫嫌いな愛犬家。
高田 和樹
コミュニティコンサルタント・プロデューサー
アパレル、大手メディア運営企業、外資系研修会社等を経て、プロのカヌー選手として国内外を転戦。アスリートの傍ら、オンラインコミュニティ黎明期の2010年代からコミュニティプロデューサーとして活動開始。会員組織の活性化はもちろん、コミュニティを起点とした新規ビジネス創出を得意としている。理論だけでなく、自らコミュニティを運営してきたリアルな成功、失敗体験に裏打ちされたアドバイスで大手出版社、メディアコンテンツのコミュニティDXを推進。SNS運営やPCのセッティングまで「コミュニティ成功のためならできることは何でもやる」のが信条。最近の趣味は焚火。以来、コミュニティと薪に火を着け続けている。
Text. 高田和樹 / コミュニティプロデューサー