OSIRO Dialogue – 対談まとめ
世の中がどんどん便利になり、多種多様な情報コンテンツが簡単に手に入る時代になりました。その反面、本当に読んで欲しい相手にコンテンツを届けることも、本当に欲している情報を得ることも難しい時代になってきました。
そんな中、新しいメディアの可能性を切り拓くパイオニアがいます。
講談社「mi-mollet」、マガジンハウス「Tarzan」は2020年コロナ禍に先駆けてオンラインコミュニティをスタートし、いま確実に雑誌の新しい在り方を体現しています。
両媒体ともにコミュニティに求めるのは「メンバー数ではなくコアな読者とのエンゲージメント」。
そんな時代を切り拓く2つのコミュニティの運営リーダーに実際の運営からオンラインコミュニティのポテンシャルまで、さまざまなお話をお伺いしました。
Vol.06 川端里恵さん講談社「ミモレ」編集次長・ブランドマネージャー
髙橋優人さんマガジンハウス Tarzan編集部 デジタルビジネス ディレクター
対談動画フルバージョン | 2021/11/19 〈目次〉
・コミュニティを始めた経緯
・読者と編集部の距離を近づけるコミュニティの力
・読者との「共創」を生み出すための工夫
・正解のないコミュニティ運営へのチャレンジ
・これからコミュニティを始めたいと思っている方へ
コミュニティを始めた経緯
高田(聞き手):オンラインコミュニティを始めた理由やきっかけを教えていただけますか?
講談社 川端さん(以下 川端):2020年3月にオンラインコミュニティをスタートしたのですが、2020年はmi-molletが創刊5周年となるタイミングで、5周年を記念して何か新しいことをやろうと考えていて、コミュニティを立ち上げることにしました。
コアを再確認しようという目的が大きかったと私個人的には感じています。mi-molletが好きで関わりたい、手伝いたいと言ってくださる人たちにもう一度出会い直して、自分たちの記事が生活の中のどんなシーンで役に立っているのかを再確認したいという欲求が、コミュニティをつくった大きな理由でした。
マガジンハウス 髙橋(以下 髙橋):Tarzanは創刊から今年で35年経つんですね。今はTarzanという雑誌自体がブランドとして存続していけるかどうかという過渡期だと思っていて、何か変わらなくてはいけない、新しいことに挑戦しなくてはいけないという気持ちが強かったと思います。
2018年からTarzanのWEB版がスタートして好調だったのですが、雑誌とWEBがあることがスタンダードな世の中になってきた時に、Tarzanとしての新しい挑戦の形はどこなんだろうと考えて、「CLUB Tarzan」という無料のメルマガ会員組織を立ち上げました。思いの外、会員が好調に集まり、次のステップをどうしようかという話になって、読者同士をつなげられる場所ってどういう場所だろうと考えていた時にちょうど高田さんにお会いしたんです。今思うと運命的な出会いでした。
オンラインコミュニティは読者の方と編集部、読者同士がコミュニケーションをとり、共創していく場所だと教えていただき、これがまさしく今Tarzanのやるべきことなんじゃないかと思い、コミュニティを始めることになりました。
▲「脱げるカラダ」と称した、読者対象の誌面オーディションを実施してきたTarzan。
読者と編集部の距離を近づけるコミュニティの力
高田:コミュニティを始めたことによって、読者との関係はどのように変わってきましたか?
川端:〔ミモレ編集室〕は、月額5,500円で150〜60人の方が参加してくださっているのですが、日々メンバーさんと接していると、どんな方々なのか見えてくるんです。"読者の解像度が上がった"という言い方をしているのですが、読者をすごく具体的に思い浮かべて記事を作れるようになったことは、想像以上のメリットだと思っています。
髙橋:僕らもmi-molletさんに近しいと思います。本誌、WEBとメディアをやっていますが、コミュニティでは、本誌の最新号がメンバーのみなさんの手元に届くというサービスの形をとっています。最近は、最新号の感想をコミュニティの中で募集しているのですが、みなさんすごく細かいところまで読んでくださって、たくさん感想を書いてくださるんです。
今まで電子版で読んでいた方が雑誌が手元に届くことで、より細かいところまで読んでくださって、そこはプラスアルファのことができたんだと思います。
コミュニティの中で盛り上がっていたサウナをTarzan本誌で取り上げたり、そこにコミュニティのメンバーに出演してもらったりなど、メディアの新しい作り方のサイクルがひとつできている気がしています。
高田:コミュニティがコンテンツや記事作りに活かされているんですね。他にコミュニティをやっていてよかったという部分は何かありますか?
川端:WEBメディアでは広告収入が大きな収入になるので、クライアントさんとお話する時に、“どういう人達が、どういう生活の中で、どういう商品を欲しているのか”、“どんなことに悩んでいて、何を楽しみにしているのか” が手を取るようにわかるようになると、提案にもより具体性が出ますし、その辺のメリットも大きいと思います。
髙橋:もちろん広告的な収益というのは大きくありつつ、僕個人的には、すごくプライベートな話なのですが、ちょうど昨年の夏頃、メンバーと一緒にランニングして、サウナに行って、翌週には山に登ってと、プライベート込みでコミュニティのメンバーと一緒にTarzan的な価値観を楽しむことにジョインできたんですね。働きながらも楽しみつつやっていく感じというのでしょうか。自分の中でのそういう広がりができたのは嬉しかったですね。
読者との「共創」を生み出すための工夫
高田:コミュニティではメンバーさん同士の活動も盛り上がっていると思いますが、何か工夫されていることや、盛り上がるきっかけはありますか?
川端:これまでもイベントに来た読者さんたちが仲良くなるのは感じていました。きっと同じメディアが好きな人同士は、つながったらいくらでも話すことがあるのだろうと想像していたので、その辺は特に心配ぜずに自然にそうなったと感じています。特にメンバー主催のイベントをやり始めてからが転換期だったように思います。
高田:メンバーさんがイベントを主催するきっかけを作るのは結構難しいと思うのですが、その辺りは何か工夫などありますか?
髙橋:すごく意識していたわけではないのですが、コミュニティを先導できそうなメンバーさんが数名いらしたので、そういう方々にお声がけしたことがありました。
その方が興味のあることが際立っていたとしたら、「今度それをご自身でもオンラインイベントを開いてみませんか?」というようなちょっとした声がけです。そういう後押しからやってみた結果、意外と反応が良くて、もっとやってみようというサイクルに入ると、そこから他のメンバーにも広がっていくような感じです。そのきっかけとなる人が1,2人見つけられると運営側としてはすごく心強いですね。
高田:コミュニティの中でそういうきっかけになる人をいかにサポートしていくかということですね。
川端:毎月の編集ライティング講座や編集会議の時、最初は割とこちらが一方的に話をして終わりという感じでした。でも、だんだんとグループに分かれて話し合っていただく機会を設けたりするうちに、メンバーさん同士でお互いの個性や得意なことがわかってくるようになりました。
誕生月が一番近い人がリーダーというように、リーダー役がランダムにあたるようにしています。そうすると、意外と仕切りが素晴らしいとか、積極的に手をあげるタイプではないけれど、チームをまとめてくれたりと、スポットライトがあたるタイミングをこちらから作ることができるようになります。
髙橋:オンラインコミュニティだからという訳ではなく、日本人は基本的にみんなシャイなので、自分から目立とうとする人はあんまりいないんですよね。でも、想いを持っていらっしゃる方はやっぱりいらして、そこを汲み取って後押ししてあげるとうまくいくことがありましたね。
正解のないコミュニティ運営へのチャレンジ
高田:実際にコミュニティを運営していろいろな課題や難しさがあると思います。紙やWEBメディアの編集と、コミュニティの運営、これはある意味コミュニティの編集とも言えると思うのですが、これらの違いについてお考えはありますか?
川端:編集者は、逆算型というか、あらかじめ締切と成果物が決まっていて、締切までに求められる成果物を出すために遡って段取りする係みたいなものじゃないですか。
でも、コミュニティはやっぱり人なので、計画通りにスムーズに進んだらそれが良いってことではないというのが難しいところだと思います。
髙橋:僕もまさしくそういうところは大きいですね。成功ばかりじゃないわけですよね、コミュニティの運営って。
メンバーの求めていることが必ずしもこちらの予想通りではないところがおもしろくて、逆にそのイレギュラーを楽しめるかどうかは、コミュニティ運営に関わる人にとって重要なポイントかなと思いますね。
高田:イレギュラーな部分、想定外の部分をいかに楽しめるかというところですよね。他にすごく難しいと思っていらっしゃるところはありますか?
髙橋:難しさには大きく3つあって、人的リソースの問題、収益的な問題、メンバーの満足度の問題があると思っています。
人的リソースは、僕以外にもう2人、運営にメインで携わっている者がいて、運営会議には編集長、副編集長という編集部のメンバーも加わっているのですが、3人ではなかなか回りきらないところがあります。今は立ち上げの当初よりも若干オーバー気味なので、都度力の入れ具合を調整し、強弱をつけてやっています。
収益は、会費をこの7月に少し下げたんです。その代わりにオンラインイベントを有料にしますという形式にしました。会費に加えて、メディアならではの広告収益、TEAM Tarzan、Tarzanとタイアップしてくださるクライアントさんがつくパターンもあるので、そこはメディアがやっているコミュニティならではだと思います。そのバランスをうまくとっていくことが必要です。
最後に満足度は、会費が下がったから良い、これだけのサービスをしているから良いということではなくて、メンバーさんが何に期待してコミュニティに入ってくるかが重要だと思っています。
TEAM Tarzanに入る方には全員面接をさせていただいていて、前回は80人くらいの方を面接させていただきました。その中で短い時間ですが、TEAM Tarzanはこういう価値観でこういう場所なんですよということを改めてお話して、その上で入っていただくという合意を得る場を設けています。
これらの3つの柱をバランスよく回していくことが大事なのかなと思います。
川端:最初の頃は5,500円に見合うだけのコンテンツや、メンバー限定で参加できるイベントをたくさん提供しなくてはいけないと思っていました。でも、それをずっと続けられないですし、満足度がゲストやイベントに左右されてしまうので、途中からはメンバー同士の交流に価値を見出してもらうほうが良いんだと思うようになりました。
これからコミュニティを始めたいと思っている方へ
川端:コミュニティを立ち上げて、人が集まったからには責任をもってやらなくてはいけないということがあって、実際すごく大変なので、すぐにでもやった方が良いですという感じではないですが、なかなか得られない体験ができると思っています。
編集者として、企業に勤めている人として、同じ趣味の人と会ったり、同じことで盛り上がることができる場が持てるって大人になってなかなかないことだと思うので、関われたら関わった方が “楽しみが増える” と言う意味で幸せだろうなと思います。
大変なこともあるけど、“今日はコミュニティのイベントがある” というのは、私にとって楽しみのひとつなので。そういうことが日々の仕事とは別にもう一つできるのは良いなと思っています。
髙橋:メディアをやっている人からすると、そのメディアを読んでくれる人と直接つながれるのはすごく貴重なことで、TarzanにはTarzanを好んで読んでくれている方が多くいます。コミュニティをやるとなった時にはファンの熱量が大事だとよく言われますが、そういったところに対してはメディアがあることはすごく大きい利点だと思います。
なので、いろんなメディアがそれぞれのファンコミュニティを持つ時代が来たらおもしろそうだなと思って、僕は楽しみにしているんですが。
運営者としての素養というのは、いろんなイレギュラーなことだったり、普段関わらないような読者と直接コミュニケーションを取ることを楽しめる人なのかなと思います。
オンラインコミュニティは終わりがないので、生き物を相手にしているかの如く、元気がなくなったり元気になったりというのに、根気よく見つめ合って、ともに歩んで行ける人が良いのかなと思います。
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川端里恵 (かわばたりえ)
講談社「ミモレ」編集次長・ブランドマネージャー1979年生まれ。2002年立教大学卒業後、講談社入社。広告部、「with」「VOCE」「FRaU」、デジタル部、雑誌マーケティング部、新雑誌研究部など、女性誌のWEBサイトリニューアル、新雑誌創刊なども経験し、現ウェブマガジン「ミモレ」編集部へ。オンラインコミュニティ〔ミモレ編集室〕のディレクション、WEBライティング講座の講師を担当。Podcastにて本紹介のラジオ「真夜中の読書会~おしゃべりな図書室」も毎週配信中。
髙橋優人 (たかはしゆうと)
マガジンハウス デジタルビジネス ディレクター1992年生まれ。2015年、早稲田大学卒業後、マガジンハウスに入社。『Tarzan』編集部、『Hanako』編集部、マーケティング局宣伝部を経て、現職。TEAM Tarzan運営リーダーとして「読者と編集部、読者と読者がつながる、Tarzanらしい新しいフィットネスライフの提案」を目標に活動。
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〔ミモレ編集室〕の活動についてはこちら
好きを伝え、つなぎ、つながるコミュニティ
▼ TEAM Tarzanの活動についてはこちら
"フィットネスインスピレーション"を得られるコミュニティ
『OSIRO Dialogue』コミュニティープロデューサーによる、コミュニティダイアローグ
日々コミュニティ運営者と伴走するコミュニティプロデューサーが何より大切にしていること、それは「ダイアローグ」。 コミュニティオーナーが本気でやりたいことを理解し、 どうやってコミュニティで実現するかを共に考え、伴走します。このシリーズではそんな一コマをシェアしていきます。
OSIRO資料ダウンロードはこちら 高田 和樹
コミュニティコンサルタント・プロデューサーアパレル、大手メディア運営企業、外資系研修会社等を経て、プロのカヌー選手として国内外を転戦。アスリートの傍ら、オンラインコミュニティ黎明期の2010年代からコミュニティプロデューサーとして活動開始。会員組織の活性化はもちろん、コミュニティを起点とした新規ビジネス創出を得意としている。理論だけでなく、自らコミュニティを運営してきたリアルな成功、失敗体験に裏打ちされたアドバイスで大手出版社、メディアコンテンツのコミュニティDXを推進。SNS運営やPCのセッティングまで「コミュニティ成功のためならできることは何でもやる」のが信条。最近の趣味は焚火。以来、コミュニティと薪に火を着け続けている。
Text: 村山 愛津紗 / コミュニティアドバイザー・ライター