20年にわたり多種多様な課題本を扱いながら日本各地で読書会を開催してきた読書会コミュニティ「
猫町.」(旧・猫町倶楽部)主宰の山本多津也さん(以下、山本さん)。これまで数多くの読書会を開催し、その楽しさを日本全国の読書ファンに伝えてきました。そのような山本さんはどのようなきっかけで読書会と出会い、どのようなところに魅了され続けているのでしょうか。
読書会の魅力やその醍醐味、読書会運営を続けていくために意識していることについて、山本さんに聞きました。
これから読書会やブッククラブを始めてみたい方、継続的に読書会を開催しコミュニティにしていきたいと考えている方は必読の内容です。ぜひご覧ください。
猫町.
2026年発足の読書会コミュニティ。読書会のスタイルは「猫町倶楽部」時代と変わらず、指定された書籍を読み、世代や立場を超えて意見を交わす課題本型読書会のスタイルをとる。読書会にはオフライン/オンラインいずれも会員以外でも参加可能で、オンライン読書会は月に10回ほど、オフライン読書会は東京、大阪、名古屋を中心に全国各地で毎月開催されているため、参加したい読書会を選びながら毎月1回ほどの頻度で無理なく参加できる。
コミュニティ会員はオンライン会員、地域会員、ハイブリット会員(オンライン、オフラインいずれの読書会も参加したい方向け)などが用意されているほか、35歳以下は会費が割引になる「U35会員」制度もあり、参加ニーズによってさまざまなプランが選択可能。コミュニティに参加すると毎月一回の読書会が無料になるほか、本の感想シェアや書評ブログ、読書会の感想戦など、読書好き同士での交流を心置きなく楽しめる。
猫町.の読書会情報、参加申込みはこちら▼
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日本最大級の読書会コミュニティは、経営者仲間4人で始めた読書会から始まった
DSC00767.jpeg 6.71 MBーー山本さんはこれまで、猫町倶楽部を日本最大級の読書会コミュニティに育て上げ、読書会という文化を日本全国の方々へ届けてきました。そんな山本さんは、どのようなきっかけで読書会を始めたのでしょうか。
山本多津也さん(以下、山本さん): もともとは、私が実家の住宅リフォーム会社を継ぎ経営者になった時に「
なにか長期的な勉強をしなければいけないな」と思ったことがきっかけでした。中小企業の社長というのは、どうしても目先のことばかりに追われてしまい、長期的な視点で勉強することが疎かになりがちな傾向があります。それではいけないと思い、同業者に声をかけてやり始めたのが最初の読書会でした。
第1回目の課題本はD.カーネギーの『人を動かす』(創元社)。これこそが猫町倶楽部の原点です。今でも本当に良い本だと思いますが、実際に書いてあることを実行するのはなかなか難しい本でもあります。最初の読書会に参加したのは私を含めてたった4人でしたが、それがとても楽しくて、会の終わりに「一生続けるつもりです」と宣言したんですよ。
でも、その時は「せいぜい30人くらいの規模になったらすごいよね」程度の見立てでした。ただ、ちょうど当時はSNSの「mixi(ミクシィ)」が流行り始めた頃で、募集をかけ始めたら一気に人が集まってきて。本当にびっくりしたのを覚えています。
ーー山本さんご自身は、それ以前に読書会を企画した経験はあったのでしょうか。
山本さん: まったくありませんでした。それどころか、最初はどこか自分が参加したいと思えるような読書会があれば、それに参加するのでいいとすら思っていました。
自分がやりたかったのは、今の猫町.がやっている1冊の同じ本をみんなで読んで集まる「課題本型読書会」でした。しかし、当時は自分が読んだ本を持ち寄って紹介し合う「紹介型」の読書会ばかりで、課題本型はなかなかありませんでした。
それで、「
ないなら自分でやればいいか」と始めたわけです。
ーーさまざまな学びのかたちがある中で、当時の山本さんはなぜ読書会を選んだのかが気になります。
山本さん: 最初は著名な経営コンサルタントの高額セミナーに参加したりしていました。終わった後は「いい話を聞いたな」と思うのですが、それで満足してしまい、実際に行動が変化したり実務に役立つことはありませんでした。
ある時、コンサルタントの方が「
今日色々といい話を聞いたと思っているでしょうけれど、これを実際に覚えて実行する人はたぶん2割もいない。しかも、それを継続できる人はさらにいないから、今聞いた話を実行する人は世の中にほとんどいないんですよ」というお話をされていて、本当にそうだよなと腑に落ちました。
雲の上のような素晴らしい人の話を聞いても、どこかで「まあ、あそこまで自分はなれないだろうな」と感じて他人事になってしまいがちです。だけど、
同じ目線の人たちと集まって勉強会をやり、その中の身近な誰かがちょっと頑張っていたりすると、そっちの方がよっぽど刺激になりますよね。そういう場所にしたいと思って、課題本型読書会をすることにしました。
ーー実際に同業者の方を誘って始めてみて、やはり大きな手応えがあったのですね。
山本さん: はい。「
やっぱり勉強するには読書会が一番いいぞ」と手応えを感じました。たとえば普通のセミナーであれば、参加者は予習なんてしていかないですよね。ただ行って、座って話を聞くだけです。だけど
課題本型読書会となると、参加するまでにまず本を1冊読むわけですから、最低でも3時間や4時間はその本と向き合います。さらに「読書会でなにを話そうかな」「話し合うネタはなににしよう」ということを事前に考えるわけです。でも実は、この時間がすごく大切なんですよね。
実際に会っていない時間が、普通のイベントとは違う、読書会ならではの濃密さを持ちます。
ーー黎明期の選書はビジネスに活かせる本が中心だったようですが、現在では小説を課題本にした読書会も数多く開催されています。文学へと領域を広げていったのには、どのような経緯があるのでしょうか。
山本さん: 私と一緒に読書会を始めた、学生時代からの親友で後に猫町倶楽部の副代表を務めてくれた朴(※)が、「
文学の読書会をやろう」と言い出したんです。それまではビジネスの勉強会でしたから、文学の読書会に果たして人が集まるのかもわからない。でも私も文学が好きだったから「まあ、やってみようか」と始めました。
第1回目は夏目漱石の『こころ』で、コンセプトは「文学の王道をもう一回読もう」というものでした。1970年代くらいまでは、世界文学全集や日本文学全集を応接間にインテリアのように置いて飾るのが流行りましたが、1980年代以降はそういう王道ってちょっとダサいよねという雰囲気になり、サブカルチャーのような脇道にそれたものがおもしろがられるようになっていました。
そこをあえて
「改めて漱石とかを読むとおもしろいよ」とやり始めたら、思った以上に人が集まり、ビジネス書とはまた違った熱気があったのが、新鮮な驚きでした。文学でもこんなに人が集まってくれることが嬉しくて、ビジネスと文学の二本柱でやり始めたのが2年目頃のことです。
※朴文彦さん: 猫町倶楽部副代表を務め、山本さんと最初期から読書会の活動をともにしていたが2022年に逝去。猫町.として再出発した現在も名誉会員としてコミュニティ内にその名を残している。
自分が一番楽しいと思わなければ、「楽しい」という熱量が周囲に伝染していかない
DSC00787.jpeg 10.84 MBーー読書会を長く主宰される中で、山本さんが考える「読書会の本当の醍醐味」とはどこにあるのでしょうか。
山本さん: 読書会というと「自分の感想を用意して準備して、こういう感想を言おうと思って発表し合う場」だと捉えられている方が結構多いのですが、それは読書会の醍醐味ではないんですよ。
そうではなくて、
読書会をするまではその場にいる誰も考えていなかったことが、みんなで話しているうちにフッと出てくる瞬間。つまり、新しい「読み」のようなものがその場で生まれること、それが一番おもしろいんですよね。自分が思ったことを語り合うというやり取りも、もちろんおもしろさの一つです。しかし、一番のおもしろさは
「誰も考えていなかったことがそこで生まれる」という、創造的な体験にあります。
まだ言語化されていない、誰もまだ言葉にしていなかったものが、みんなで話しているうちに氷山が海面に現れてくるようにその場で形になっていく。それが感じられるからこそ、読書会はおもしろいんです。これがもし単なる個人の感想の発表会だとしたら、あまりおもしろくないのではないかなと思いますね。
ーー人と話すことで、自分一人では到達できなかった思考の領域にまで行ける、ということですね。
山本さん: 私はこれを「
拡張された心(アンディ・クラーク)」という概念でよく説明します。普通、人間は頭の中だけで物を考えていると思いがちですが、例えば「2×3は?」と言われたら頭の中で「6」と答えることができても、「235×375は?」と聞かれたら、多くの人は暗算できなくなります。でも、手元に紙と鉛筆さえあれば、計算して答えを出すことができますよね。紙と鉛筆があれば思考ができるということは、「紙と鉛筆という外部の道具まで含めて、人間の思考だ」と捉えることもできます。道具によって、人間の思考が外部へと拡張されているわけですから。
読書会という場も、これと全く同じ効果があると感じています。
人と話すということは、間違いなく自分の思考が拡張される行為です。自分一人で本を読んで考えているだけではなく、人と話している時にふっと新しいアイデアや気づきが出てくる。ビジネスのアイデアなども、一人で机に向かっている時より、誰かと雑談している時にふっと生まれたりしますよね。
人と話すことそのものが、先ほど言った「紙と鉛筆」のような役割を果たし、お互いの思考を拡張し合っているのだと思います。だからこそ、人と話すことは予想がつかなくて、ものすごくクリエイティブなことなのです。
ーーそうしたクリエイティブな場を維持するためには、「場のつくり方」や「ルール」が極めて重要になってきそうです。
山本さん: そうですね。猫町倶楽部は課題本の読了を参加条件としていて、読み終わってさえいれば理解度は問わず自由に話していただいてよいのですが、
一つだけ絶対に守っていただくルールがあります。それは「他人の意見を否定しないこと」。人は一度でも否定されると、やっぱり言いたいことが言えなくなってしまいますからね。
それとは別に、
私が場をつくる上でいつも意識しているのが、なるべく権威者にならないことです。例えば、私がどこかの読書会のグループにふらっと入ったりすると、どうしても参加者は私に忖度してしまいます。「主宰者がAと言ったのだから、私もAと言わなきゃいけない」というようなバイアスがかかってしまう。ですから、
できるだけ権威のような存在を作らないこと、そしてお互いを否定しないことが大切になります。
ーー読書会に「参加ハードルが高い」と思う方も多いと思いますが、初参加の方や、新しくコミュニティに入ってきた方に対して意識していることはありますか?
山本さん: なるべく壁をつくらないようにすることも意識しています。参加して同じグループになった人たちは、
年齢や職業の差は色々ありますけれど、あくまでも「同じ本を読んできた人間」として、フラットに出会える場所であることを大切にしています。
ただ、そういう場づくりを維持するのは結構難しいものです。だからこそ、
くどいほど「私たちはこういう考え方、こういうルールでやっているんですよ」ということを発信し続けなければいけません。かつてはファシリテーター(進行役)をやる人たちが事前にみんなで集まって勉強会をして、下調べをしてテーマを決める、というようなことも「やめてください」と伝えていました。
事前の準備でガチガチにコントロールしてしまうと、その場で偶然生まれるおもしろい対話が消えてしまうからです。
DSC01319.jpeg 8.48 MBオシロ社オフィスで開催された猫町.の読書会の模様ーー最後に、山本さんは幻冬舎より『読書会入門』を上梓されています。これから読書会を始めたい、読書会コミュニティをつくっていきたいと考えている方にアドバイスがあればぜひ教えていただきたいです。
山本さん: もちろん『読書会入門』も読んでいただきたいですが、
私が最初に読書会を始めようとした時、一番参考にした本が、経済学者の内田義彦さんが書かれた『読書と社会科学』(岩波新書)という本です。その冒頭に、まさに読書会の話が出てくるのですが、要約すると「だいたい読書会をやると、みんな欲が出てきて議論のクオリティを上げようとし始める。そうすると、じゃあ誰がレジュメをつくろうか、ということになっていくけれど、そういうことをやると必ず活動が苦しくなりますよ」と釘を刺しているんです(笑)。そして、「
一番大切なのは、次の読書会が待ち遠しいと思える読書会にしなさい」と書いてあります。長年読書会コミュニティを運営してきましたが、まさにその通りだと思っています。
私はずっと、「自分が一番楽しまなければいけない」というポリシーでやってきました。その
「楽しい」という熱量が周囲に伝染していかないと、やはりこうした活動は継続できないので、自分が一番楽しくやってこれたということが良かったのではないかと思っています。ぜひ皆さんも、まずは自分が一番楽しいと思える読書会を企画し、無理なく長く、活動していっていただきたいですね。
山本多津也さん
読書会コミュニティ「猫町.」主宰
住宅リフォーム会社を経営する傍ら、2006年から読書会をスタート。旧・猫町倶楽部を20年運営し、日本最大級の読書会コミュニティへと育て上げる。2026年、猫町倶楽部を解散し、新生の読書会コミュニティ「猫町.」を発足。コミュニティ刷新後もオフライン/オンラインで読書会を開催し、国内外を問わず広く読書会の門戸を開いている。
著書に『読書会入門 人が本で交わる場所』(幻冬舎)がある。
X: @tatsuya1965
Instagram: tatsuya_nekomachi