「会社・組織やお金に縛られず、自分自身の希少性を高めて生きていく」。
そうした生き方を実践するための場として、2021年の創設から世代を超えた多様なメンバーを惹きつけ続けているコミュニティがあります。「教育改革実践家」藤原和博さんがファウンダーを務めるオンライン寺子屋「朝礼だけの学校」です。
AI時代の今、組織や既存の枠組みに縛られない「希少性の高い生き方」を実現するためには、どのような能力が求められるのでしょうか。
今回は、2024年に藤原さんからバトンを受け取り、2代目校長に就任した佐藤譲さんにインタビュー。朝礼だけの学校で育まれる「情報編集力」の本質、そして佐藤さんが描くコミュニティの未来図について聞きました。
※サムネイル画像:「朝礼だけの学校」ファウンダーの藤原和博さん(左)と、現校長の佐藤譲さん(右)。撮影は山梨県の高校で行われている「よのなか科」の授業にて。撮影は「朝礼だけの学校」のメンバー・松井の母さん(提供: 朝礼だけの学校)
朝礼だけの学校
「朝礼だけの学校」は、教育改革実践家の藤原和博さんが創設した「インディペンデントで希少性の高い生き方」を目指すオンライン寺子屋。正解のない激変の時代において、異なる要素を掛け合わせて新たな価値を生み出す「情報編集力」を磨きます。みんなが生徒であり先生(生徒=先生)の文化のもと、お題への挑戦や独自のイベント企画を通じ、互いに刺激し合いながら自分らしいキャリアや美意識を育んでいる。クローズドで安心な環境のもと、小学生から70代まで多様な仲間が在籍し、切磋琢磨している。
コミュニティの詳細・入会はこちら▼
https://chorei.jp/about
朝礼だけの学校 ファウンダー 藤原和博さん
教育改革実践家/リクルート社初代フェロー
「朝礼だけの学校」初代校長で、2024年11月より理事長に就任。
1955年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社初のフェローとなる。
2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008年〜2011年橋下大阪府知事の特別顧問。2016年から2018年まで奈良市立一条高等学校の校長を務めた。現在は山梨県知事顧問として県立高校で年20回前後「よのなか科」の授業実践をしながら、アクティブラー二ングができる教員を養成しているほか、富士河口湖エリアでアートプロデュースに力を入れる。著書は累計95冊165万部、講演の累積回数はもうすぐ2000回を超え、現在も教育改革の最前線に立ち、自身の知見を社会へと還元している。
藤原和博さん公式サイト「よのなかnet」▼
https://www.yononaka.net/
情報編集力は「人間ならではの賢い生き方を諦めないための手段」
image8.jpg 506.57 KBーー朝礼だけの学校は、「インディペンデントで希少性の高い生き方」を掲げていらっしゃいます。これはファウンダーの藤原和博さんの言葉を引用したものですが、具体的にはどのような生き方なのでしょうか?
佐藤譲さん(以下、佐藤さん): 一つは「
会社・組織にもお金にも縛られない生き方」です。これについては、YouTubeで370万回再生されている
藤原さんの講演動画があるので、そちらを観ていただくのが早いと思いますが、簡単にいえば「
希少性を高めることが、自分の仕事の値段(時給)を高めるために一番良い方法である」ということです。
なぜ私たちは人によって時給が全然違うのでしょうか? 時給とは「年収 ÷ 年間総労働時間」で計算されます。一般的なサラリーマンの場合、年間で2000時間から3000時間ほど働いていて、年収をその総労働時間で割ると、だいたい時給3,000円から時給5,000円の間に落ち着きます。大事なのは、この時給をどれだけ上げられるか。そして、時給を上げるポイントになるのが「希少性」です。
希少性の高い人間になれば「お金に縛られない生き方」ができるようになります。そうすれば、自分の収入がどうであるかをいちいち気にしなくてもよくなる。そこまで行けたら最高ですよね。
藤原さんの軸には「仕事」「人生」「教育」という3本柱があります。それぞれにおいて藤原さんが実際に経験し、実践したことだけを抽出して共通言語となっているのが、この「朝礼だけの学校」です。
ーーたしかにそうですね。しかし、それを実践するのは難しいのではないでしょうか。
佐藤さん: 藤原さんのすごいところは、自分自身が一番の実践者であること。そして、自分が実践したことを、他の人ができるように体系化して伝えられることです。藤原さんは最初の著書『処生術』(筑摩書房)の時から、“日本のサラリーマンがこのように働けば、組織の中でプレゼンス(存在感)をもっと発揮できる”と発信をし続けてきました。
「インディペンデントで希少性の高い生き方」と聞くと企業から独立して生きていくことをイメージしてしまうと思いますが、決してそうではありません。組織の中で自立した生き方を目指す「組織内個人」という考え方もあります。
ーー藤原さんのお言葉、そして朝礼だけの学校で重要なキーワードになるのが「情報編集力」だと思います。情報編集力とはどのようなものなのでしょうか?
佐藤さん: 情報編集力はいわば「
掛け算の技術」です。つまり、
異なるもの同士を掛け算するセンスや能力のことをいい、それをいかに高めていくかが重要になってきます。例えば、現代ではAIによる情報処理は圧倒的に早く、正確になりました。つまり、人間の情報処理能力は、今やプレゼンスが失われているといってよいでしょう。一方で、「AIとの付き合い方」については、まだ誰も答えを見つけられていません。
私たちは今、そうした「答えがないもの」を考え、探求し続ける覚悟を持たなければなりません。
朝礼だけの学校のコンセプトは「正解がないお題に対して『納得解』をつくっていく」というものです。納得解とは、異なる他者ともお互いに納得し合える仮説のこと。そのためには境遇や考え方が自分とまったく違う人とも、妥協ではなくお互いが納得できる答えを導きだせる力が必要であり、その土台になるのが、異なるもの同士を掛け算する情報編集力だと思います。
ーーたしかに。分断の深まる現代では、「納得解」を導いていく力が非常に重要になってきていると思います。
佐藤さん: 情報編集力を別な表現にすると「
複眼思考」とも言えるかもしれません。「Aだ」と思っている人と「Bだ」と思っている人がいたとき、Aの立場に立ちながらもBの人の視野でも考えて、改めてAについて考えてみる。そうして
異なる視点や視座を行き来しながら、既存の分断されたものとはまったく異なる「C」や「X」といった創造的な答えを導き出していくような思考法です。
世の中では様々なニュースや出来事に対して、SNSの同調圧力や、あるいは嫉妬、虫の居所の悪さから、短絡的に炎上に加担してしまうようなことが起こりやすくなっています。そうしたものに絡め取られやすい世の中において、
情報編集力は「人間ならではの賢い生き方を諦めないための手段」として機能していくのではないかと思っています。
「コミュニティ内ラジオ」の取り組みが、発信のハードルを下げた
ーー朝礼だけの学校では、具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
佐藤さん: 例えば、朝礼だけの学校では「
目覚まし朝礼」という動画をYouTubeで出し続けていて、こちらはほとんどが無料公開されています。「目覚まし朝礼」では、最後に必ず「正解がないお題」を出すというスタイルを一貫しています。これは
藤原さんが取り組んできたことを引き継いでやっていて、メンバーは正解がないお題に対して、自分がこれまで生きてきた人生や、異なる視点を持つ人のことを考えながら答えを投稿します。
そしてそれぞれが出した答えを読んでいくと、
学校の中にいる、自分とはまったく違う境遇にいる方の視点から導き出された、まったく異なる答えと出会うことがあります。それが本当におもしろいんです。まったく異なる境遇や年齢、住む場所が違う人の答えが溢れているので、それによって「学ぶ力」が高まるんです。僕自身、本当にこの学校で鍛えられていると感じています。
ーー正解のない、オープンな問いが投げかけられることで、メンバー同士が学びあっている側面もあるのですね。
佐藤さん: 実は、今日の取材があるということで、事前に皆さんに「あなたに起きた変化BEST3は?」とお題を出してみたんですよ。そうしたら、多くのメンバーが答えてくれて、「
自分の意見を気軽に発信できるようになった」や「
思考が深くなった」といった声がありました。これは、考える技術としての情報編集力や複眼思考が鍛えられているからだと思います。また、朝礼だけの学校では
読書会を盛んに開催していますので、「
読書量が増えた」という声も多かったです。まさに
「令和AI時代の読み・書き・そろばん」のような、基礎能力を鍛えている感覚がすごくありますね。
image3.png 487.52 KB朝礼だけの学校のコミュニティ内に寄せられた「あなたに起きた変化BEST3は?」へのメンバーからの回答(一部抜粋。 提供:朝礼だけの学校 ※氏名は個人情報に関する箇所はオシロで加工を施しました)ーー朝礼だけの学校を見ていると、発信量にあまり偏りがない印象があります。クローズドな場でも発言を遠慮してしまう人もいるかと思いますが、「朝礼だけの学校」ではなぜこれほどコミュニケーションが活発なのでしょうか?
佐藤さん: 理由として一つ思いつくのが、
現在140名ほどいるメンバーを一人ひとりインタビューする取り組みを続けていることです。30分ほどインタビューさせてもらい、その内容を3分〜5分ほどにまとめたものを、
学校の中だけで聴けるPodcast「情報編集力ラジオ」で配信しています。この取材日時点で、ようやく100名くらいの方に出演してもらいました。
その取り組みを始めるまでは、発信をせずに見るだけの、いわゆる「ROM専」だった人がたくさんいました。しかし、その人たちも
ラジオに出てもらったことで、発信へのハードルが下がったようです。なかには、その後YouTube「目覚まし朝礼」で、ご自身の経験をもとにした講座を届ける「ミニよのなか科」シリーズに出てくれた方々もいます。このラジオの取り組みを始めてまだ1年半ほどですが、「もっと早めにやればよかった」と思うくらい、大きな効果を感じています。
image7.jpg 218.62 KBコミュニティ内で限定公開されている「情報編集力ラジオ」(提供: 朝礼だけの学校)ーー佐藤さんが自らメンバー全員にインタビューをするのはすごいですね!通常のコミュニケーションなどで、佐藤さんがなにか意識されていることなどはありますか?
佐藤さん: 運営と会員という分け方をせず、
私自身が参加者として「一番この場を活かすぞ」という気持ちで関わり続けています。先ず隗より始めよで、私自身が一所懸命に情報編集力を高め、希少性を磨き続けることを実践しています。自分自身がチャレンジをすることで、応援し合うコミュニケーションができるような気がしています。
ーーたしかに。朝礼だけの学校を拝見していて、非常に自治的な校風を感じました。
佐藤さん: そうですね。
「自立貢献」の校風で、基本的には運営が参加者の機会を奪わないことを意識しています。「目覚まし朝礼」を収録・配信したり、土日に「情報編集ラジオ」を配信するのは私が中心となっていますが、基本的には皆さんそれぞれが自立して活動してもらうことに重きを置いています。
ブログは毎日のように更新されているほか、イベントや読書会なども、メンバーの方々からの自発的な提案から開催されています。
例えば、今年の2月末に「朝礼だけの学校」の5周年イベントが初めてリアル開催されました。これもすべてメンバーの皆さんが企画や準備を担っていました。普通、こういうイベントは運営が仕切る形になりがちだと思いますが、会員全体の1/3ほどが集まる盛大な会だったのに、藤原さんや僕がしたことはスピーチくらいです。
メンバーの皆さんがそれぞれに企画を持ち寄って、「朝礼だけの学校」ならではの「それぞれの1万時間をかけた挑戦」を核にしたゆるやかな地域社会が実現されていました。本当にありがたいです。
「朝礼だけの学校」が持つポテンシャルを、もっと社会に還元・貢献していきたい
image9.jpg 378.36 KB朝礼だけの学校5周年イベントの様子(提供: 朝礼だけの学校)ーー朝礼だけの学校の創設から5年が経ち、多彩なメンバーが集まっている印象です。
佐藤さん: 年齢層としても
10代から70代までのメンバーがいますから、非常に多彩だといえると思います。ずっと思っていることとしては、「中高生がもうちょっと来てくれたらいいな」ということです。
朝礼だけの学校には情報編集力を鍛えまくっている、さまざまな立場や視点を持った大人がたくさんいます。ですから、
親や先生のような「縦の関係」でもなく、かといって同級生のような「横の関係」でもない、「ナナメの関係」を築く場としてはうってつけです。
子どもにとっては一回留学するくらい、多様な価値観に触れられる刺激的な場になっているので、ぜひ親御さんも子どもを朝礼だけの学校に放り込んでくれたらと思うんですけどね(笑)。
ーー佐藤さんは昨年の11月から校長に就任されました。どのような背景があったのですか?佐藤さん: もともと藤原さんは「自分は5年やったら、2代目校長にバトンタッチする」と公言されていました。ですので、本来は5年が経過したタイミングで代わるつもりだったのだと思います。
ただ、僕がプロデューサーをやっていく中で「自分のやりたいこと」や「今後はこのように朝礼だけの学校に関わっていきたい」という想いをメールで送ったのです。そうしたら藤原さんが「
だったら5年を待たずに、今すぐ交代しよう」と言ってくださり、その場で交代が決まりました。
ーーやはり佐藤さん自身にも、「朝礼だけの学校を引き継いでいきたい」という強い意思があってのことだったのですね。
佐藤さん: 関わり始めた当初から「バトンを受け取って、ずっとやっていこう」という思いを持っています。藤原さんとは「
この朝礼だけの学校は、最低でも10年は続けよう」という話をしています。
今が5年ですので、少なくともあと5年は続けていくことは確定しています。開校した当時、私は35歳でしたが、現在40歳になろうとしています。最初から在籍していた方々とは一緒に5つ歳を取ったことになり、不思議で、嬉しい気持ちです。
image10.jpg 235.51 KB「朝礼だけの学校」の有志が企画をして50名が集まった5周年パーティーより。シンガーソングライターでブカツテニスコーチのフカダエツジさんがテーマ曲を歌うーーそれでは最後に、朝礼だけの学校の今後のビジョンについてお聞かせください。
佐藤さん: 実際に参加している人にとっては本当に学びのある良い場なのですが、実はこれまで、コミュニティの外にいる人に向けて紹介したことが一度もなかったのです。今回、インタビューを受けることが初めての挑戦です。立ち上げから5年も経ちましたし、こういう場を潜在的に求めているまだ見ぬ人たちに向けて、もっと外に発信していっても良いだろうと考えています。
AI・ロボット社会が本格到来しても「各自が希少性を磨き続ける」という大方針は変わりません。その上で、僕個人として考えている方向性は、
朝礼だけの学校が持つポテンシャルを、もっと社会に還元・貢献できないかということです。例えば、藤原さんの「目覚まし朝礼」のカリキュラムはYouTubeで一般公開されていますが、これをすべて実践できたら、人生、仕事、教育のあらゆるジャンルにおいて、非常に有益な能力が身につきます。藤原さんはこれまでに95冊ほど本を書かれていますが、「目覚まし朝礼」はその知見の凝縮体だからです。
ですので、たとえ朝礼だけの学校に入学しなかったとしても、この動画を多くの人に経験してもらうだけで、色々な人の人生や仕事に役立つはずだと思っています。そういう意味でも、
「目覚まし朝礼」というコンテンツを、もっと外の人に届けられるような仕組みや方向性を見つけていきたいです。
そして、
「朝礼だけの学校」の展開としては、やはり海外進出をぜひやりたいと思っています。
ーー海外在住の日本人だけでなく外国人のメンバーも広く募集するということでしょうか。
佐藤さん: 参加してもらう方向もあるかもしれませんし、現地の教育機関とパートナーシップを組む方向性もあるはずです。これだけ生成AIなどによる多言語翻訳の技術が進化してくると、海外の人ともオンライン上であればスムーズにコミュニケーションが取れるようになります。対面だとどうしても言語の壁がありますが、オンラインであれば今のSNSがそうであるように、自動的に翻訳されてやり取りができますよね。
ーー今後、朝礼だけの学校ではグローバル規模の「複眼思考」が生まれていきそうですね。
佐藤さん: そうです。せっかくだから、
どこか1つの国だけに絞って、海外とのコラボレーションをするのもおもしろいかもしれません。「○○だけ」と絞ることで、ウルトラニッチを獲得していく「朝礼だけの学校」ならではの戦略で。
このように、これからの5年はコミュニティを外に向けて開いていく方向性と、海外展開という2つの軸をやっていきたいです。
佐藤譲さん
朝礼だけの学校 校長
1986年、福岡県生まれ。京都大学法学部時代に、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーの元を訪ねて取材。それをきっかけにスタジオジブリへ入社してプロデューサー業を学び、のちに日本テレビで実写・アニメの映画プロデューサーとなる。担当作品に「DEATH NOTE」「バケモノの子」「名探偵コナン」など。その後、フリーランスのプロデューサーとして独立し、京都へ移住。
「個人の創造性を最大限に引き出す」というプロデュース方針で、様々な事業や育成に携わる。藤原和博さんとは2020年に出逢い、「朝礼だけの学校」の設立に参加。自らがインディペンデントで希少性の高い生き方を追い求め、人形劇の道を探求しながら、クリエイターのプロデュースに関わっている。株式会社THE CORE 取締役。2024年11月に「朝礼だけの学校」校長に就任。